マグライトの形が立体商標に(その2)

 文字や記号等(ラベル等を含む)が付いていない商品形状そのもの・包装容器形状そのものについて、前回のおさらいです。

 商品や包装容器の形状として予測し得ないような特殊な形状でない限り、「商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標」に該当し、商標としての識別力がないとして、立体商標と認められにくいということでした。

 マグライトの形状についてはどう判断されたでしょうか。

 まず裁判所は、立体商標における商品等の形状の識別力について、以下のような前提を述べています。
 『商品の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるものであり,そのような目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として』識別力がない。
 『同種の商品等について,機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状として』識別力がない。
 『需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには』識別力がない。

 その上で、マグライトの形状について、以下のように判断しました(マグライトの形状はこちら
 『~上記の各特徴は,いずれも商品等の機能又は美観に資することを目的とするものというべきであり,需要者において予測可能な範囲の,懐中電灯についての特徴であるといえる。そうすると,本願商標の形状は,いまだ懐中電灯の基本的な機能,美観を発揮させるために必要な形状の範囲内であって,懐中電灯の機能性と美観を兼ね備えたものと評価することができるものの,これを初めて見た需要者において当該形状をもって商品の出所を表示する標識と認識し得るものとはいえない。

 つまり、マグライトの形状そのものは、商標としての識別力がないと判断されました。

 さて、このように識別力がないとされた場合でも、『商標を大々的に使用した結果、識別力を得たと判断される場合は、登録が可能となる』という例外規定(商標法3条2項)が適用されれば、登録されることになります。

 マグライトについて、裁判所は、以下のような理由からこの例外規定の適用を認めました。
 『
・本件商品は,出願された商標と同一の形状を有し,その指定商品に属するものである。また、1984年(昭和59年)に米国において発売されて以来,形状を変更せず,一貫して同一の形状を備えている。
 ・本件商品は,1986年(昭和61年)に本格的な輸入販売が開始された後,販売が拡大され,~2001年3月期には売上高5億0800万円,本数にして55万1000本に達し,2007年(平成19年)2月現在における販売小売店舗数は約2700店舗に及んでいる。
 ・本件商品は,1985年(昭和60年)から雑誌記事において頻繁に掲載されるようになり,新聞雑誌等を中心に多額の広告費用を掛けて多数の広告が掲載されている。
 ・本件商品は,~デザイン性を高く評価され,我が国やドイツなどにおいてデザイン賞を受賞しているとともに,米国及びドイツの美術館の永久コレクションとして保存されているものであり,需要者の間でも,その堅牢性,耐久性と並んでデザイン性が関心を集めている
 ・本件商品の広告宣伝においても,堅牢性,耐久性と共にデザイン性が強調されており,本件商品の写真のみを掲げた広告など,本件商品の形状を需要者に印象づける広告宣伝が行われている。
 ・原告は,我が国の内外において,本件商品に類似した形状の他社の懐中電灯に対して販売の差止めを求める法的措置を採っており,その結果,本件商品と類似する形状の商品は市場において販売されていない
 ・本件商品には,図形商標・文字商標が記載されているが,これらの記載がされている部分は,本件商品全体から見ると小さな部分であり,また,文字自体も細線により刻まれているものであって,目立つものではない。
 ・原告の主力商品は本件商品を中心とするマグライトシリーズの懐中電灯であり,また,原告の名称である「MAG INSTRUMENT」は当該懐中電灯との関連を示すだけの内容であって,当該名称自体に独立した周知著名性は認められない。

 ~上記に挙げた点に照らせば,~需要者において商品の形状を他社製品と区別する指標として認識するに至っているものと認めるのが相当である。本件商品に文字が付されていることは,本件商品に当該文字の付されている前記認定の態様に照らせば,本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上での妨げとなるものとはいえない。~
 また、~上記本件商品の特徴をすべて備えた懐中電灯は他に存在しない。
 そうすると,本願商標については,使用により自他商品識別機能を獲得したものというべきであるから,商標法3条2項により商標登録を受けることができるものと解すべきである。』
 
 
…引用部分が長かったですね…(「一口」になってない…)。
 
 それにしても、3条2項例外規定の適用を受けるのは、かなりの実績・実行力がないと難しそうです。
 そもそもマグライトの形状自体については、「識別力なし」と判断されているわけで、商品形状そのものが立体商標として認められるには相変わらずハードルが高いことに変わりなさそうですね…。
 
 本日はこの辺で。
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コメント

  1. コメント有難うございます
    コメントにご返事頂いて有難うございます。
    僕もブログをやっています。
    まだ始めたばかりのこちらも新人ですが・・・。
    今回の記事は、立体商標としては、凄い判例
    みたいですね。
    ひろたさんの記事をじっくり読んで理解したいと
    思います。
    これからも宜しくお願いいたします。

  2. Unknown
    ブログをやっていらっしゃるのですね。拝見させていただけると嬉しいです。よろしければURLを教えて下さい

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