「三相乳化」商標的態様?

<平成23年(行ケ)第10244号 審決取消請求事件>(判決文はこちら

 先々週にWashingtonから帰国してからの2週間の間に、短答試験があったり日食があったりしたようですが、個人的にはこの2週間ずーと微熱が続いております。そんなことにはお構いなく、容赦なく、仕事やらアポやら大学講師やらの予定がぎっしり詰まっていたので、休むに休めず、さすがのわたくしもかなり弱っております。やっつけるなら今のうち。(ん?)

 ところで、皆さんの中には、既にお気づきの方がいらっしゃるかもしれませんが、最近、aigipatさんの黒子を若手にタッチしまして、フレッシュ感漂っていることを感知していただけてますでしょうか。(老兵はたまに登場するのみ)
 一方、肝心の商標亭の記事が、aigipatさんに押されっぱなし。先週、面白そうな新判決が出ていたのでそろそろアップせねばと思い、鼻水たらしながらPCに向かっております。

 今日ご紹介するのは、50条取消審判の審決に対する取消訴訟です(ややこやしい)。
 JPOの取消審判の審決では、商標権者さんがパンフレットに記載していた表示が“商標的態様でないとはいえない”として商標登録は取消されませんでしたので、その審決を取り消すべく、審判請求人さんが原告となって提起した訴訟です。

■本件商標(登録第4776699号)


指定商品 第3類「せっけん類,化粧品,香料類」


ううむ、三相乳化…? 

ちらと調べてみるに、「三相乳化法」とは、界面活性剤を使わずにエマルジョンする方法らしいのじゃが、詳しくはこちらを参考にしてくだされ→「三相乳化法とは
おっと、特許も取得しているらしいです(特許第3855203号 『乳化分散剤及びこれを用いた乳化分散方法並びに乳化物』)。

ちなみに、本件商標は、そんなエマルジョン技術を用いた商品を直感させ、単に商品の品質を表示するものだとして、3-1-3・4-1-16を理由に異議申立がなされましたが、登録維持の決定が出されたという経緯があります。

■商標権者さん(被告さん)の使用態様

 商標権者さんは、パンフレットに、以下の記載を表していました。

記載1

記載2

ううむ、“界面活性剤入り”を避けてる自分としては、若干気になる「三相乳化」。


■争点

上記の記載1と2での「三相乳化」の表示が“商標的態様”と言えるかどうかが、今回の事件でのメインの争点となりました。
原告さんの主張としては「製品の製法を示すものにすぎない」といったところ。

これに対する裁判所の判断のポイントは、以下のとおり(判決文7-9頁より一部抜粋)。
…「三相乳化」の文字が注目される態様であるのに対し,文章中の他の文字部分はよくある字体で記載されていることの対比で,「三相乳化」の文字は,上記記載の中で見る者の注意を特に惹くものとなっている。
…記載1の内容は,…単に被告の商品が「三相乳化」の技術によって製造されているという事実を示すにとどまらず,被告の商品の特徴が「三相乳化」にあることを強調するものである。また,記載2も,…やはり被告の商品の特徴が「三相乳化」という技術によるものであることを強調し,合わせて,被告の業務に係る商品について「三相乳化」なる文字態様をもって他の商品と識別させようとしたものである。そうすると,「三相乳化」の文字の記載の体裁が本件商標の外観と同じで,見る者に強調された印象を与えることにも照らせば,記載1及び2における「三相乳化」の文字態様が,同送した被告の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する機能を果たし,また被告の業務に係る商品を需要者や取引者に対して広告する機能を果たしているものと評価することができる。
…,「三相乳化」の語は未だ一般的な用語になっているものではなく,油化学ないし脂質の化学的性質の知識に疎い一般の需要者も上記論文にあるような「三相乳化」の技術的な意味を理解して本件パンフレット等の記載に接するとはいえない。そうすると,上記のような一般の需要者は,「三相乳化」の語から特定の製造法を連想し得るものではなく,原告の提出する論文等
の存在によって「三相乳化」の記載の出所識別機能等に係る前記結論が左右されるものではない。

といったわけで、上記の記載1と2での「三相乳化」の表示は“商標的態様”と判断され、原告さんの審決取消請求は棄却されたのでした。

■コメント

自分的感想としては、個別具体的な紛争解決としての裁判所的判断かなー、と。結構びみょーな感じがしましたが、表示態様(外観)が効いたかな?

本日は以上です!次回も見ていただけるならぷちっと押してくださいな(。-_-。)/
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この記事を読んでひろた興味を持たれた方は…

【執筆記事】
   知財管理」誌を手に取れる方、読んでね
  「知財管理」誌 VOL.62 NO.3
  (外部向け企業活動の名称に関する検討・考察(商標法第4条第1項第7号を中心として -「出版大学」審決取消請求訴訟事件-)
 
  「知財管理」誌 
VOL.60  NO.6
  (並行輸入と商標権侵害 -並行輸入の抗弁における「同一人性の要件」及び「品質管理性の要件」-)

  「知財産管理」誌 VOL.58 NO.5
  (「腸能力」審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第10042号 審決取消請求事件)
 
  
「パテント」誌 2011.2 Vol.64
(部分意匠に関する判例研究 -類否判断を中心に- 包装用容器事件)
  字数制限が厳しかったので尻切れトンボ気味ですが…

【関係事件】
 代理人になった事件です。負けたのでご紹介するのをためらっておりましたが、思い切って…。
 
平成18年(行ケ)第10367号審決取消請求事件
 なお、牛木理一先生のHPで紹介いただいているので(「特許ニュース」2007年6月29日号の記事です)、そちらも併せてご覧ください~(こちらのB-27の項です)。

【紹介記事】
  知らないうちに、紹介記事を書いてくださっていました(かなり前の講座ですが、たまたま発見しました)。
  
2010年9月 岐阜県立城北高等学校での講座

【ZIP FM Z-TIME BIZ】
 2008/07/23 商標の話題で出演

※注意!弁理士さんや知財部門のご担当など、クロートの方へ!
  このブログでは、わかりやすくするために、正確でない表現を使ったり、はしょったり、大雑把にしてたり、…等々してますが、目くじら立てずに見逃して下さい
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コメント

  1. Unknown
    争点は全然違うのに、本件「カンショウ乳酸」事件と混同が生じております。

  2. Unknown
    m-kenさん

    コメントありがとうございます。
    「カンショウ乳酸」事件の争点と若干通ずるところもありやなしや(ムリやり)

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