商標登録の不使用取消について色々考えさせられた事案( 「商標的使用」の要否とか、攻防とか)

<平成28年(行ケ)第10086号 審決取消請求事件>(判決文はこちら
火曜日は台風でしたね。皆さまの地域は大丈夫でしたでしょうか。
弊所のビルの前の交差点は、大雨になるとマンホールがぶっ飛んで噴水になるという、ちょっとした有名スポットです(火曜日はどうだったか見てませんが)。
( 別のときの動画はこちら→ https://www.facebook.com/tsuyoshi.yamada.5059/videos/vb.100004533784287/622634017897719/?type=2&theater )


さて、今日は、久しぶりに判決のご紹介をしてみたいと思います。
50条の不使用取消審判で「請求は成り立たない」旨の審決(登録を取り消さない審決)がなされたので、審判請求人さんが原告となって提起した審決取消訴訟の判決です。
■本件商標
登録取消しを請求された本件商標はこちら。
 
LE MANS
指定商品(取消請求対象となったものだけ→):第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類」
 
 
■経緯
本訴訟の原告さんは、不使用取消審判請求人のオートモビル クラブ ド ル’ウエストさん。かの自動車レース「LE MANS」の主催者さんのようです( http://www.lemans.org/en/24-hours-of-le-mans/ )。
2014.9.30  被告(商標権者:ケントジャパン)さんが、ヴァンジャケットさんに通常使用権を設定する契約を締結。通常使用権の許諾期間は 2014.10.1~2015.9.30の一年間。
2014.10.9 原告さん、調査会社を使って、被告取締役さんに対する1回目の事情聴取実施。
2014.10.11 通常使用権者ヴァンジャケットさんが、他社に、ブランドネーム及び下げ札を「LeMans」とするワイシャツ30着の製造を発注。
2014.10.24 被告さん、(なぜか)「Le Mans」について、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」を指定商品とする商標出願。
2014.11.7   原告さんが、本件商標の登録に対し不使用取消審判請求。
2014.11.18   通常使用権者ヴァンジャケットさんの直営店と認められる「VAN Base」に前記のワイシャツが移動された。
2014.11中 「VAN Base」で前記のワイシャツが3着売れた模様。
2014.11.27 取消審判請求登録。
2015.12.3  「請求は成り立たない」との審決
 
 
■審決取消訴訟での争点
 
⑴ 商標法50条所定の使用の事実を認定した誤り(取消事由1)
⑵ 商標法50条3項本文に該当しないとした判断の誤り(取消事由2)
 
■裁判所の判断
(1)取消事由1
通常使用権者さんの証拠についての認定が主となっており、結論としては、裁判所は、通常使用権者さんの商標使用を認めております。
 
んが、50条の「使用」について、出所識別機能を発揮する使用(商標的使用)であることが必要か否かについて、裁判所が言及している箇所に「おや」と思ったので、抜き出してみます。
 
まず、原告さんの主張です。
ヴアン社の行為が商標法50条所定の「使用」に該当しないことについて商標法50条所定の「使用」は,当該商標が出所識別標識として使用されることを要する。したがって,本件商標が付されたワイシャツがヴアン社に納品され,同社において同ワイシャツを本件店舗に移動したなどの事実が存在したとしても,本件商標が出所識別標識として使用されたということはできない。』(判決文5頁)
原告は,商標法50条所定の「使用」は,当該商標が出所識別標識として使用されることを要するとして,本件商標が付されたワイシャツがヴアン社に納品され,同社において同ワイシャツを本件店舗に移動したなどの事実が存在したとしても,本件商標が出所識別標識として使用されたということはできない旨主張する。
 しかし,商標法50条の主な趣旨は,登録された商標には,その使用の有無にかかわらず,排他独占的な権利が発生することから,長期間にわたり全く使用されていない登録商標を存続させることは,当該商標に係る権利者以外の者の商標選択の余地を狭め,国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるので,一定期間使用されていない登録商標の商標登録を取り消すことについて審判を請求することができるというものである。
 上記趣旨に鑑みれば,商標法50条所定の「使用」は,当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用(商標法2条3項各号)されていれば足り,出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである。』(判決文14-15頁)
お、おぅ…。

(もっとも、通常使用権者さんは、ワイシャツの襟下に本件商標が記された織りネームを付するとともに、本件商標が記載された下げ札を付していたことから、「出所識別標識としての機能を発揮する使用である」と認められています。)
 
(2)取消事由2
原告さんは、過去にも、本件商標の登録に対し、取消審判請求や無効審判請求を数回行ってきました。
また、被告さん所有の別の「LE MANS」商標の登録に対しても、無効審判請求や取消審判請求を行ってきました。
原告さんは、『商標法50条3項本文所定の「その審判の請求がされることを知った」は,審判の請求がされることを具体的に知ったことまでを要するものではない』とし、これらの事実をもって、通常使用権者さんの使用は「駆け込み使用」であると主張しました。
しかしながら、裁判所は、『「その審判の請求がされることを知った」とは,当該審判請求を行うことを交渉相手から書面等で通知されるなどの具体的な事実により,当該相手方が審判請求する意思を有していることを知るなど,客観的にみて審判請求をされる蓋然性が高く,かつ,上記商標の使用者がこれを認識していると認められる場合をいうと解すべきであり,上記商標の使用者において単に審判請求を受ける一般的,抽象的な可能性を認識していたのみでは足りないというべきである。』とし、上記審判が5年以上も前の事案であることや、最近の事案でも指定商品が異なること等の点から、原告さんの主張を認めませんでした(判決文16-17頁)
また、原告さんは、2014.10.9, 10.22に、調査会社を使って、被告取締役さんに事情聴取を行っておりますが、これも『本件商標に関する調査であることを被聴取者に悟られないように実施されたものと推認することができる』として、「駆け込み使用」の理由とはならないと判断しました。
 
一方、被告さんは、2014.10.24に、「Le Mans」について、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」を指定商品とする商標出願を行いました(なぜに?とは思うけど)。このことについて、裁判所は、『本件不使用取消審判が請求されて取消しの審決が出された場合に備えたものということはできない。』として、原告さんの主張をしりぞけました。
 
ところで、JPOの審決では、「被告(商標権者)」さんの認識を問題としていたようですが、実際に商標を使用していたのは通常使用権者さんでした。
この点につき、裁判所は、以下のように述べています。
前記1のとおり,本件において要証期間内に本件商標を使用したのは,通常使用権者のヴアン社であるから,商標法50条3項本文に該当するか否かは,同使用が本件商標を使用したヴアン社において本件不使用取消審判が請求されることを知った後か否かという問題である。したがって,本件審決が,商標法50条3項本文に該当するか否かの判断に当たって専ら被告の認識を検討し,本件商標の使用は,被告において本件不使用取消審判が請求されることを知った後のものであるとは認められないとして,商標法50条3項本文に該当しない旨を判断したことは,誤りといわざるを得ない。』(判決文18-19頁)
(もっとも、『ヴアン社による本件商標の使用が同社において本件不使用取消審判請求がされることを知った後であることを原告において証明したといえないことは,前記のとおりであり,被告についても同様であるから,商標法50条3項本文に該当しないという本件審決の結論自体は誤りがない。』とされていますが…)
 
 
■コメント
○50条の「使用」は、出所識別標識機能を発揮する使用(商標的使用)であることが必要か
 
本事案のように、”50条の「使用」は、商標的使用でなくても該当する”旨の判断は、アイライト事件(平成26年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件)でもなされていました。
これがトレンドとなっていくのでしょうか…。
○「駆け込み使用」について
 
原告さんは過去にも本件商標の登録の取消審判請求や無効審判をしており、何としてでも取り返したい(というと語弊がありますが(汗))との熱意をもっていらっしゃることが伺われます。虎視眈々と機会を狙っている、といったところでしょうか。
一方、被告(商標権者)さんとしては、今までの経緯を踏まえて、不使用などにならないように気を遣ってこられたと思いますが、今後も「駆け込み使用」など突っ込まれどころがないように気を遣っていかねばなりませんね…。
いずれの立場に立っても、気が抜けんなぁ、と思った次第です。
 
 
 
今日はこれでおしまい!
 
貴社の業務分野・業界トレンド・企業規模・部署規模等の情報を考慮し、企業様ごと・部署さまごとにカスタマイズしたセミナーを提供しております。
知財カスタマイズセミナー

「あいぎ法律事務所」では、知財サポート・企業法務サポートを行っております!
あいぎ法律事務所HP

海外商標や商標に関する著作の紹介など商標実務で必要な情報は、あいぎ特許事務所の商標ページでもアップしております。
あいぎ特許事務所HP(商標)

中小事業者様向けに商標登録に関する事項を平易に解説した情報発信ページをご用意しております。是非お立ち寄り下さい~(^○^)/
中小・ベンチャー知財支援サイト(商標登録 名古屋)

コメント

タイトルとURLをコピーしました