改訂商標審査基準についてのあれやこれや

3月末は、意匠商標実務にとって、大きな影響があったり、お役立ちが期待されたりする情報発表が目白押しでした。しばらくそれらをネタにしたいと思います。
 
まずは、こちら。
 
■商標審査基準の改定
2年がかりで見直しが行われてきた審査基準のH28年度改訂分が4月1日から適用開始となりました。
http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/13th_kaitei_h29.htm
H28年度分の改訂は、4条中心です。27年度分改訂とあわせて、いちはやく「ジュリスト」4月号で解説がなされています。「ジュリスト」も参考にしながら、H28年度分の改訂点をざっくりまとめてみました(なお、参考裁判例は「ジュリスト」に記載されたものに、ひろたが付け足したものもあります)。
(1)公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)
・該当類型として、いわゆる”剽窃的な出願の場合”が追加されました。
・該当例が明記されて、”周知・著名な歴史上の人物名であって公益的な施策に便乗するような場合”が等が挙げられています。
 ※参考裁判例:母衣旗事件(H10(行ケ)18)、Anne of Green Gables(H17(行ケ)10349)など
(2)他人の氏名又は名称等(商標法第4条第1項第8号)
 本号に該当する「他人」の範囲、「略称」の該当例、著名性の判断基準、「含む」の判断基準、「他人の承諾」の判断基準時等が明記されました。
 ※参考裁判例:国際自由学園事件(最判H16(行ヒ)343)、INTELLASEET事件(H21(行ケ)10074、カムホート事件(H15(行ヒ)265)など
(3)類否(商標法第4条第1項第11号)
〇類否判断
・類否判断手法がかなり明確化されました。特に、考慮されるべき取引実情については「指定商品又は指定役務における一般的・恒常的な取引の実情」であることが明記されました。「特殊的・限定的な取引の実情」とは類否判断が真逆になり得るので、重要なポイントですね。
 ※参考裁判例:氷山印事件(最判S39(行ツ)119)、保土ヶ谷化学事件(最判S47(行ツ)33)など
・結合商標については、「つつみのおひなっこや事件」のような要部抽出を限定する基準ではなく、「リラ宝塚事件」のような要部抽出を比較的柔軟に認める基準が採られました。これも類否判断が真逆になり得る重要なポイントです。
 ※参考裁判例:リラ宝塚事件(最判S37(オ)953)など
・外観・称呼・観念のうち、特に外観・観念の具体例・解説が追加されています。
〇取引実情説明書
 かねてから「これは使われんだろー」と思われていた(失礼)「取引実情説明書」、アンケート結果でもやはり使われてないことが判明したようですが、今回の改訂でさらに、引用商標権者が「類似商品・役務審査基準において類似すると推定される指定商品又は指定役務の全てについて」類似していないと陳述しないと、類否判断が覆らなくなったので、ますます使われんくなったのでは…。
 そのかわり、出願人と引用商標権者に支配関係があれば、引用商標権者の承諾をもって、「他人」の商標ではないと取り扱われることになりました。これは大変助かりますね。親会社と子会社の間で、名義をあっちへ移しこっへ移し…するのは、正直、手間と費用の無駄でした。明らかに「親子」とわかるような場合、需要者保護にも支障ないと思うしね。
(4)商品又は役務の出所の混同(商標法第4条第1項第15号)、他人の周知商標(商標法第4条第1項第10号)、 他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用をする商標(商標法第4条第1項第19号)
  基準の趣旨を明確にするなど構成面から見直しが行われています。
〇4(1)15については…
・該当例に具体的な商品・役務が追加されました。
・該当する場合の考慮要素に追加が行われています。
・他人の著名な商標を一部に有する商標における4(1)10, 11, 15, 19の取り扱いが整理されています。
 ※参考裁判例:レールデュタン事件(平成10(行ヒ)85)など
〇4(1)19については…
・本号該当性の判断の総論と文言解釈・該当例などが明記されました。
・「不正の目的」認定の考慮項目に「出願 人が外国の権利者の国内参入を阻止しようとしている事実 」が追加されました。
 ※参考裁判例:MANE and TAIL事件(H17(行ケ)10213)など
 
(5)品質誤認(商標法第4条第1項第16号)
・「誤認を生ずるおそれ」の判断基準が明記され、該当例・非該当例が加えられています。
・「誤認を生ずるおそれ」に該当しない店舗名、商号、屋号等の基準が明記されました。
 ※参考裁判例:スピルリナゲイトラー事件(S63 (行ケ)113)、Tiara事件(H27(行ケ)10162) 、Afternoon Tea事件(H14(行ケ)596)
(6)公益的な機関等(商標法第4条第1項第1号~第5号)、登録品種(商標法第4条第1項第14号)、ぶどう酒等の産地(商標法第4条第1項第17号)
 対象となる標章の例示、類否判断基準を追加・修正、法文上の語句についての解釈が明記されました。
 
(7)いわゆる「精神拒絶」
 同一人の同一商標については、出願商標と登録商標の指定商品又は指定役務が完全一致する場合に限り、「商標法第3条の趣旨に反する」との拒絶の理由を通知する取扱いが明記されました。これも若干面倒だった処理が不要になるので助かります。
 
 
ざっと眺めてみると、これまで判決・審決・審査実務でなされてきた判断手法や基準を、改めて明文化したり具体例を挙げてみました、みたいな印象です。
でも、判断に揺れがあるように見受けられる11号の「取引実情」や結合商標の類否判断については、基準が明文化されたことで、(少なくともJPO段階での判断の)予測が立てやすくなったように思います。
また、ユーザーニーズに応えて導入された「支配関係承諾OK」とか、完全一致精神拒絶とかは、間違いなくありがたいですね!
 
■さて
 
上記新基準が適用となった4月は年度始めでもあります。
弊所にも新しい所員が2人入所予定で、なんとなく春めいています。
また、ひろた自身も、弁理士会の新年度の会務が始まりますので、ちょっと楽しみ。
自宅近くの桜も満開だしね。
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では皆さん、改めて、頑張っていきましょう!
 
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