やさしい裁判所?

 商品のチラシやカタログに商標を表示したり、店舗に商標を表示する場合、それが商品商標の使用と認められる態様か、小売等役務商標の使用と認められる態様か…、かなり気を遣うところでございますよね。
 
 今回はまさにそんなトコロが問題となった事件で、裁判所の判断が気になります。
  実際にどんな使用態様だったのかの概要は前回の記事をご覧いただくとして、それら使用態様に関する裁判所の判断をどうぞ。
  『
前記1で認定した事実によれば,被告は,本件取消審判の請求の登録前3年内に,①その営業に係る「ビブレ」に直営店であるレディースインナーの専門店「elle et elles/エル・エ・エル」を設置し,店舗の壁や柱等に「elle et elles」と表示した上,婦人用下着等を陳列して販売したこと(前記1(1)),また,②チラシやパンフレットをもって,「エル・エ・エル/elle et elles」の表示の下,婦人用下着について,その写真と共に広告をしたこと(前記1(2)ないし(6))が認められる。
 そして,上記のとおり,本件表示の下に婦人用下着を陳列販売し,婦人用下着の広告について本件表示をしたことは,少なくとも,商標法2条3項8号にいう「商品…に関する広告…に標章を付して展示し,若しくは頒布…する行為」に該当するというべきであり,これに反する原告の主張を採用し得ないことは後記のとおりである。
 よって,被告は,指定商品に含まれる婦人用下着について,本件商標と社会通念上同一の本件表示をもって,本件商標を使用したものと認められる。
』(判決文9頁~10頁)
 おお…商品商標の使用と認めてくれました…。

 ちなみに、原告は、
 『本件表示は単に店舗内の婦人用下着売場の所在を指示するためにのみに使用され,婦人用下着について出所表示機能を果たす商標として使用されとらん』、
 『本件表示は店舗名として被告の小売業務について使用されており,小売等役務商標制度が設けられた以上,本件商標が指定商品について使用されていたとはいえん』
 と主張しておりました(判決文2頁~5頁)。

 これに対して裁判所は、以下のように述べています。

 『なるほど,本件表示は,被告の営業する「ビブレ」のレディーズインナーショップの店舗名としても使用されてはいるが,本件表示の下に婦人用下着を陳列販売し,婦人用下着の広告に本件表示をすることが,それゆえに商品についての商標の使用に当たらないということはできない。
 そして,商品に係る商標が,「業として商品を…譲渡する者」にも与えられるものであり(商標法2条1項1号),商品の製造業者のみならず,小売業者もまた,商品の譲渡等を行うことに変わりはないことに照らすと(同条3項2号参照),小売業者としての出所を表示することが,商標としての使用に当たらないということはできない。
 そうすると,本件表示の下に婦人用下着を陳列販売し,また,婦人用下着の広告について本件表示をしたことは,業として婦人用下着を譲渡する者がその販売業者としての出所を表示するものとして,本件商標を使用したものと評価することができる。

 『平成19年4月1日に小売等役務商標制度が新たに施行され,商品に係る商標と小売等役務に係る商標とが区別されていることは,原告主張のとおりである。しかしながら,商標を小売等役務について使用した場合に,商品についての使用とは一切みなされないとまではいうことができない。すなわち,商品に係る商標が「業として商品を…譲渡する者」に与えられるとする規定(商標法2条1項1号)に改正はなく,「商品A」という指定商品に係る商標と「商品Aの小売」という指定役務に係る商標とは,当該商品と役務とが類似することがあり(商標法2条6項),商標登録を受けることができない事由としても商品商標と役務商標とについて互いに審査が予定されていると解されること(同法4条1項10号,11号,15号,19号等)からすると,その使用に当たる行為(同法2条3項)が重なることもあり得るからである。
 そして,商品の製造元・発売元を表示する機能を商品商標に委ね,商品の小売業を示す機能を小売等役務商標に委ねることが,小売等役務商標制度本来の在り方であり,小売等役務商標制度が施行された後においては,商品又は商品の包装に商標を付することなく専ら小売等役務としてのみしか商品商標を使用していない場合には,商品商標としての使用を行っていないと評価する余地もある。しかしながら,本件商標は,小売等役務商標制度導入前の出願に係るものであるところ,前記1の認定事実によれば,被告は,小売等役務商標制度が施行される前から本件商標を使用していたものである。このように,小売等役務商標制度の施行前に商標の「使用」に当たる行為があったにもかかわらず,その後小売等役務商標制度が創設されたことの一事をもって,これが本件商標の使用に当たらないと解すると,指定商品から小売等役務への書換登録制度が設けられなかった小売等役務商標制度の下において,被告に対し,「被服」等を指定商品とする本件商標とは別に「被服の小売」等を指定役務とする小売等役務商標の取得を強いることになり,混乱を生ずるおそれがある
』(判決文10頁~11頁。下線は私が付しました)

 裁判所のこの判断が妥当か否かは置いとくとして、特に中小企業にとってはありがたいですよね…(危うく、東京に向かって手を合せるところでした)。

 本日はこの辺で。
 
 次回は…多分商標のハナシです。
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コメント

  1. Unknown
    素晴らしい案例ですね。
    下線の部分は特に参考になります。
    中国においては、このような問題がありません。というのは、小売商標制度がないので、全部商品商標に委ねます。
    中日両国の商標制度の間にやはり区別がありますね。

  2. Unknown
    素晴らしい案例ですね。
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    中国においては、このような問題がありません。というのは、小売商標制度がないので、全部商品商標に委ねます。
    中日両国の商標制度の間にやはり区別がありますね。

  3. Unknown
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    中国においては、このような問題がありません。というのは、小売商標制度がないので、全部商品商標に委ねます。
    中日両国の商標制度の間にやはり区別がありますね。

  4. Unknown
    みずりゅうさん
    これは小売商標制度の導入による新しい問題だと思います。
    中国の商標制度と異なりますね。

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