意匠審決に画像の意匠を見つけたのでご紹介いたします。
本件は、利用者の視認性、ボタンの押しやすさについての創意工夫が大きな要素となるような画像の分野において、本願意匠は、罫線や操作ボタン各要素の全体の表示枠の中での位置や間隔、ボタンの態様などの工夫に独創性が見られると判断された例になります。
・拒絶査定不服審判2024-003285
本願意匠(意匠登録第1783313号)
本願意匠に係る物品は、バーチャルアシスタント装置操作用画像で、部分意匠の出願となっています。
本物品は、バーチャルアシスタント装置に用いられる画像であり、バーチャルアシスタント装置を操作するための操作用画像である。バーチャルアシスタント装置は、仮想的な補助者であるキャラクタを情報端末のディスプレイに表示させつつ情報端末から利用者に対して発話を行うような「疑似発話動作」を行うことで利用者を補助し得る装置である。画像図に表示される第1ボタンは、第1のボタン表示領域において左端に表示されるボタンであり、第2ボタンは、第2のボタン表示領域において左端に表示されるボタンである。第1ボタン、第2ボタンのうち、いずれかを選択する操作がなされると、選択されたボタンに対応するコンテンツが提供される。
引用意匠1
引用意匠1に係る物品は、絶縁監視警報器であり、
電力設備の異常があれば警報等により漏電を警告する、絶縁監視警報器の表示部に表示された画像であって、各回路(CH)の計測データ及び警報等の履歴を含む情報を表示・設定変更等するための操作画面です。
引用意匠2
引用意匠2に係る物品は、医療用スキャナー機能付き電子計算機であり、
医療用のスキャナー機能付き電子計算機においてスキャナー機能を発揮できる状態にするための操作画像です。
原査定における拒絶の理由
画像表示領域の左右幅ほぼいっぱいに複数本の横罫線を表し、その罫線と罫線の間に操作ボタンを縦方向同位置に上下複数個配置して構成した態様は、本願出願前より公然知られています(引用意匠1)。
また、画像表示領域の左端から、操作ボタンの左右幅の約2倍の余白を取って隅丸矩形の操作ボタンを配置した態様も、本願出願前より公然知られています(引用意匠2)。
さらに、本願の願書の【意匠に係る物品の説明】には、「バーチャルアシスタント装置は、仮想的な補助者であるキャラクタを情報端末のディスプレイに表示させつつ情報端末から利用者に対して発話を行うような「疑似発話動作」を行うことで利用者を補助し得る装置である。」との記載がありますが、本願の画像は特にそのような用途及び機能のある画像ではなく、単にカレンダー内にイベント等を一覧、操作するための画像であって、本願に示された画像に【意匠に係る物品の説明】に記載された用途及び機能に係る創作上の特徴は認めらません。
そうすると、本願画像は、当業者であれば、引用意匠1の操作ボタンについて、その形状及び配置を引用意匠2のとおり変更して、意匠登録を受けようとする部分とした程度にすぎず、容易に創作できたものと認められます。
当審の判断
本願意匠に係る画像である「バーチャルアシスタント装置操作用画像」は、利用者に対して発話を行うような「疑似発話動作」を行うことで利用者を補助し得る装置に用いられる画像の1つで、日単位で領域を分け、その日に行われる予定などをまとめた情報などのコンテンツを、各ボタンを押すことで表示させる操作を行うものであることから、利用者の視認性、ボタンの押しやすさについては、創意工夫の大きな要素となる。
本願画像部分のように、全体の表示枠に対し、横方向、左右端部にわずかな余部を設け、複数の罫線によって罫線間の領域に操作ボタンを配した態様とするものは、引用意匠1に現れている。
また、複数のボタンを水平に等間隔で配した態様とする中で、そのうちの、左端に縦に並んで表示される一列のボタンによる構成とする点、そのボタンの配置について、全体の表示枠の左端からボタンの左右幅の約2倍の余白を持ったものとする点も、本願画像部分と同様とするものは、引用意匠2に現れている。
さらに、ボタンを横長矩形とし、四隅をアール状とするものも引用意匠2に現れている。
しかしながら、引用意匠1における罫線は、9本で、罫線間の領域に8つの操作ボタンを配するものであって、この「履歴ボタン」を、引用意匠2のボタンに変更したとしても、到底本願画像部分にはなり得ず、仮に引用意匠1の罫線について、本願画像部分と同様の位置及び範囲に相当する罫線3本を抜き出したとしても、引用意匠1の罫線の間隔は狭く(罫線の間隔(高さ幅):罫線の長さは約1:14)、引用意匠2のボタンは、縦幅:横幅を約4:5とするものであり、本願画像部分のように、全体の表示枠に対し、上下の余白部をそれぞれ高さ幅の上から約1/4、下からは約1/2より僅かに短い高さ幅の位置、大きさ及び範囲に、全体の表示枠の左右幅ほぼいっぱいまでに罫線を3本配して罫線間を比較的幅広のものとした態様(罫線の間隔(高さ幅):罫線の長さは約1:11)とし、その罫線間の領域に、縦幅:横幅を約2:3とするボタンを配した態様としたものは、引用意匠1及び引用意匠2のいずれにも現れていないため、これらを組み合わせても本願意匠を導き出すということはできない。
本願意匠のように、利用者の視認性、ボタンの押しやすさについての創意工夫が大きな要素となる画像において、この相違は、軽微な改変にとどまるものとすることはできない。
また、全体の表示枠の左端からボタンの左右幅の約2倍の余白を持って配置されたものである点が、引用意匠2に現れているとしても、引用意匠2は、罫線間の領域ではなく高さ幅:横幅を約1:5.6とする横長矩形枠に配されたものである点で異なる。また、この矩形枠での配置とすれば、中央やや左側の配置とみることもできるが、引用意匠1の罫線間に引用意匠2のボタンを、左端からの余白のみ切り出して配したとしても、表示枠全体の中での右端からの余白など、全体の中でのバランスが異なるため、いずれの点においても、本願意匠を直接導き出すことはできない。
上述のとおり、利用者の視認性、ボタンの押しやすさについての創意工夫が大きな要素となるような画像の分野において、本願意匠は、罫線や操作ボタン各要素の全体の表示枠の中での位置や間隔、ボタンの態様などの工夫に独創性が見られるものであって、引用意匠1と引用意匠2を組み合わせた画像から、本願意匠を創作することが、当該分野のありふれた手法によるものとすることはできない。
よって、原査定における拒絶の理由で引用された意匠に基づいて、当業者が容易に本願意匠の創作をすることができたということはできない。
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今回の審決は、全体のバランスの中での配置・間隔を重視した審決となっているため、権利の範囲は決して広くないとは思います。
しかし、罫線3本、角丸長方形のボタン2つだけというシンプルな構成となっているため、後発デザイン開発への牽制は期待できるかもしれません。
[担当:岩田]
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