一体どうなるの~、と思っていたこの事件が決着を見たのでご報告です(といっても、これまでの経緯については投稿していませんが(汗))。
審決取消訴訟まで行くことなく審判で決着していたので、気付くのが遅れました。
取消2022-300967
商標法53条の2に基づく取消審判
■本件商標登録
「UNBRAKO」
出願日:2018年10月20日
登録日:2019年7月19日
指定商品:金属製金具
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2018-136466/40/ja
■事案の概要
Y所有の本件商標登録に対し、Xが、商標法53条の2に基づく審判を請求した事件である。
主な争点は、
ア Yが「代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当するか
イ 「本件商標の登録出願が、正当な理由がないのに、請求人の承諾を得ないで被請求人によってされた」かどうか
である。
なお、Xが本件商標登録に対し、取消審判を請求するのはこれが初めてではない。
異議申立て、無効審判(4条1項7号、10号、19号理由)及び不使用取消審判を請求し、無効審判と不使用取消審判では、審決取消訴訟まで提起したが、本件商標登録を取消または無効とすることはできなかった。
それら審決及び判決文によれば、「UNBRAKO」商標は、元々、米国A社が、「ソケット頭部用帽状ねじ」等を指定商品として昭和33年に出願し、その後登録になったものであった(以下、この古い商標登録を「元の商標権」という。)。
2008年、A社は、原告X及びそのグループ会社に、世界各国におけるファスナー事業及び「UNBRAKO」の商標等のブランドを譲渡した。
原告Xは、A社から元の商標権を譲り受けたものの、移転登録手続をすることはなく、2013年にこれを失効させてしまった。
すなわち、「UNBRAKO」は、元々Xのブランドなのである。
一方、上記事業譲渡の前から、A社の日本法人B社が、A社の日本総代理店として活動していたが、被請求人Yは、B社の販売代理店Z社の代表取締役である。
Xの日本総代理店であるB社のそのまた販売代理店であるZ社の代表取締役であるY(ややこしい)が、未登録状態で放置されていた「UNBRAKO」を商標登録してしまったのである。
Xは本件商標登録がなされたことに気付き、これを取消または無効にして、わが手に取り返そうとするものの、一向にうまく行かない…
このままでいい訳はないのだが…
そして最後の手段として請求されたのが、この取消審判である。
■当審の判断
ア 「代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」について
「商標法第53条の2は、輸入者が権利者との間に存在する信頼関係に違背して、正当な理由がなく外国商標を勝手に出願して競争上有利に立とうとする弊害を除去し、商標の国際的保護を図る規定というべきであり、この観点からすると、ここにいう「代理人」に該当するか否かは、輸入者が「代理人」、「代理店」等の名称を有していたか否かという形式的な観点のみから判断するのではなく、商標法第53条の2の適用の基礎となるべき取引上の密接な信頼関係が形成されていたかどうかという観点も含めて検討するのが相当である」(知的財産高等裁判所令和4年9月12日判決(令和元年(行ケ)第10157号)
被請求人が代表取締役を務めるZ社は、我が国で請求人商品を販売するために、請求人商品の日本総販売代理店であるB社を通じて、請求人商品の販売代理店として請求人商品を継続的に購入したこと、被請求人自身も請求人商品の正規代理店と称して請求人商品の販売を行っていたこと、Z社の請求人商品の継続的な取引期間、取引量及び取引金額等を総合的に勘案すれば、Z社は形式的な観点では請求人の「代理人」「代理店」等の名称を有していたといえないとしても、請求人とZ社との間には、継続的な取引により、商標法第53条の2の適用の基礎となるべき取引上の密接な信頼関係が形成されていたといえるから、Z社は、実質的に請求人の代理人と同等の立場にあったというべきである。”
→代理人の代理人、いわば復代理人の立場でも、53条の2にいう「代理人」に該当するものと認められた。
そして、被請求人は、Z社の代表取締役であるところ、代表取締役は、会社の業務に関する一切の行為について会社を代表する権限を持ち(会社法第349条第4項)、対外的にZ社の契約締結、登記、訴訟対応などの実質的な行為や意思決定に関与する立場といえ、Z社の請求人商品の取引行為の意思決定に関しても当然に関与していたとみるのが自然であるから、被請求人はZ社と同様に実質的に請求人の代理人と同等の立場にあったというべきである。
したがって、被請求人は、本件商標の登録出願の日前1年以内に、商標法第53条の2にいう「代理人若しくは代表者」であった者に該当するというべきである。
→「代理人」の代表取締役は、実質的に「代理人」と同等の立場にあった、と判断された。
イ 「本件商標の登録出願が、正当な理由がないのに、請求人の承諾を得ないで被請求人によってされたこと」について
商標法第53条の2に規定される「正当な理由」とは、商標に関する権利を有する者が、その代理店等に対しその国において商標を放棄した場合、またはその商標の権利を取得する関心がないことを信じさせた場合等が挙げられるものと解されるところ、被請求人は、上記アのとおり、商標法第53条の2にいう「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当するというべきであり、請求人商品の取引において、請求人商標が請求人商品を表示するためのものとして使用されていることを知り得る立場にあった者である。
そうすると、請求人商標が請求人商品を表示するものとして、請求人により使用されていた事実を知り得る立場にあった被請求人が、請求人商標と実質的に同一の本件商標を日本国において登録出願し、登録を得たものと推認せざるを得ない。
そして、提出された証拠からは、A社又は請求人がその代理店等に対しその国において商標を放棄した場合、又はその商標の権利を取得する関心がないことを信じさせた場合等、本件商標の出願に正当な理由があったと認めるに足りる証拠は見いだせないから、本件商標の登録出願について、A社又は請求人の承諾がなかったものと判断せざるを得ず、その他、「正当な理由」があると解すべき事情は見当たらない。
したがって、被請求人による本件商標の出願は、商標法第53条の2にいう「正当な理由」に該当するものと認めることはできない。
結論として、本件商標登録は、商標法第53条の2に規定する要件をすべて満たしているものと認められるから、その登録は、同規定により、取り消すべき、との審決が出された。
■コメント
本件商標登録の経過記録によれば、取消審決が出たものの、この審決後、Xは審判請求を取り下げ、本件商標登録はYからXに移転登録されている。
「UNBRAKO」ブランドは、本来のブランド所有者の手元に戻ったということである。これ自体は、収まるところに収まった、という感じである。
解決まで長い時間と費用を費やした事件であったが、元々は、Xが、元の商標権をきちんと管理せず、失効させたことが事の発端だった。
被請求人Yも、審決では本件商標登録をしたことに「正当な理由はない」と判断されているが、これまでの訴訟・審判の判決文等を一通り読んだ限りでは、Xが元の登録を失効させたことを奇貨として、本件商標登録を取得することにより競争上有利な立場に立とうとしたとか、Xに高額で本件商標登録を売りつけようとした、というようには読めない。Xがボサーっとして商標を失効させており、全く関係のない第三者に商標を登録されかねない状況になっている状況を知りつつも、Xの直接の取引先ではなく、Xの日本総代理店B社のそのまた販売代理店という立場では、Xに直接進言できる状況になく、また、B社に説明しても理解されない状況だったのかもしれず、見かねて商標を取得したようにも思える。そのため、あえてZ社名義ではなく個人名義での出願としたのかもしれない(あくまで推測です)。
どのような状況で(どれくらいの対価で?)本件商標登録がXに譲渡されたのか分からないが、Yにとっても苦々しい経験であったであろう、と推測される事件である。
Yは、どうすればよかったんだろうか。
また、一度他人に取られた商標登録を正当なブランドの所有者が取り戻すのがいかに難しいかを示す事件であった。
<担当:上田>


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