さて、先週の『DB9』の続きです。
あ、アストン・マーチンの車種名です。「データベース9」じゃないです。
裁判所は『DB9』について、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標だ」と判断したのでした。
でも、結論としては登録できると。
なんで登録できるんでしょう?
その理由は、いわゆる“使用による顕著性”(商標法3条2項)が認められるから、というものです。
はぁ。前回いただいたコメントでもご指摘されていたように、『DB9』のコマーシャルとか見たことあります?どこで“使用”して“顕著性”を取得したんでしょう?
クルマに詳しくないわたくしは『DB9』はおろか、アストン・マーチンというブランドすら知りませんでしたのに…(すみません)。
でも、わたくしなんか out of question なんです。わたくしなんか、関係ネーなんです。
取り敢えず、原告が“使用による顕著性”についてどのように主張したか、見てみましょう。ちょっと長いですが、なかなかおもしろいので、殆どそのまま引用致します。
『原告は,1914年以来の長い歴史を有して,数々の名車を輩出してきた自動車会社であり,同社の製品は,世界各国の需要者に広く知られている。また,原告は,~1940年代以来,車名の一部に「DB」の頭文字を付しており,1940年代に英国で上市されたDB2に始まって,DB9に至るまで,DBの文字が一貫して用いられた結果,「DB」シリーズが,世界有数の車名ブランドの一つとなっていることは周知の事実である。そして,「DB」シリーズは,人気シリーズ映画「007」の主人公である,伝説のイギリス諜報部員ジェームス・ボンドが乗るボンドカーとしても古くから広く知られている。
本願商標を冠した「DB9」は,歴代の原告の製品の中でも大きな成功を収めた「DB7」の後継車として,最新の技術を駆使して開発された世界で最も洗練されたスポーツカーとして人気を博しているものであり,原告のスポーツカーを指し示すものとして,愛好家のみならず一般の自動車購買者の間でも広く認識された車名ブランドである。仮に,「DB9」が一定の商品の型式を示すものであるとした場合であっても,それは「単なる型式」ではなく,それをはるかに超え,もはや「単なる型式」と乖離したブランドイメージと識別性をかもし出すものとなっている。そして,「DB9」は,全体として,アストンマーチン社の車名ブランドであるDBシリーズの歴代車種の一つを容易に想起せしめるものであるととらえることができる。』
おお、ボンドカーですか!知りませんでした。ボンドカー、オプション装備がすごいので2000万円どころではないんでしょうね。
そして裁判所は、どう判断したのでしょう。
まず、次の事実は認めました。
・DBシリーズが名車として扱われていて、少なくとも、自動車に相当程度の関心がある者の間では一定の評価を得ていた。
・『DB9』の名称の自動車が、日本においても、原告自らの直接的な宣伝をまたずに、ニュースという形で海外の自動車ショーでの発表が紹介されたりして、自動車を扱う雑誌やウェブサイトにおいても、高級スポーツカーとして紹介されたり、記事として取り上げられるなど、『DB9』との名称の自動車が注目されていた。
じゃあ、そういった事実から、『DB9』が周知といえるかどうかについては、次のように判断しました。
『原告が『DB9』の使用を開始したのは比較的近年であり、新聞広告の回数も不明。また、日本における販売台数も非常に小さい。そして、『DB9』について扱った記事の数も必ずしも多くない。』
…って、周知といえるんですか?と突っ込みが入りそうですが、続きがあります。
『しかし、「automobiles」(自動車)の取引の実情等をみると、
・有名な自動車メーカーの数自体がさほど多くない、
・新車等の発表は、極めて頻繁に行われるとまではいえない、
・性能やスタイルへの魅力等から、特に、高級・有名な自動車に注目する取引者・需要者は数多くいる、
などから、有名な自動車メーカーが新たに発表する自動車や、名車とされるもののシリーズとして新たに発売される自動車について、その名称も含め積極的に注目する取引者・需要者が、類型的に相当程度いることは明らかである。
したがって、この分野においては、広告や記事の数・販売数量が必ずしも多いとはいえない場合であっても、ある商標が取引者・需要者に広く知られることがあると認められる。』
→そして、原告が高級スポーツカーのメーカーと知られていて、DBシリーズが自動車に相当程度の関心がある者の間で知られていたこと等から、『DB9』も「atutomobiles」の分野の取引者・需要者に、相当程度知られていたことが認められる、と判断しました。
だから、“使用による顕著性”があり、登録できる、という結論になったわけです。
そうですか。全ての取引者・需要者に知られている必要はない、と。単純に広告や記事の数量・販売台数だけで判断するのではない、と。
但し、商標として保護するためには、その商標の出所を普通に認識できる取引者・需要者が類型的に相当程度存在することが必要で、その取引者・需要者に周知となっていることが重要なのですね。
類型的に相当程度…また悩ましい基準が出てきましたが、数量が全てでないということで。
本日はこの辺で。
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