<平成19年(行ケ)第10158号 審決取消請求事件>(判決文はこちら)
長らく、“特許・実用新案・意匠の実施”、“商標の使用”の概念には「輸出」が含まれていませんでした。含まれるようになったのは今年からです。今回はこの「輸出」が争点となった事件です。
原告は、登録商標「COMPASS」、指定商品 旧第12類「輸送機械器具、その部品及び附属品(他の類に属するものを除く)」の商標権者です。
被告は、上記登録商標の指定商品中「自動車並びにびにその部品及び附属品、及びこれらに類似する商品」について取消審判を請求した請求人です。
取消審判の審決では、『指定商品中 旧第12類「自動車並びにその部品及び附属品、及びこれらに類似する商品」についての登録を取消す』とされました。
原告はこの審決に不服だったので訴訟を提起したのがこの事件です。
さて、この事件の争点をかいつまむと、以下の通りです。
(1)原告がカタログに商標を付していたという「タイミングベルト」は「自動車並びにその部品及び附属品、及びこれらに類似する商品」に該当するか。
*特許庁は「タイミングベルト」は旧第9類の「機械要素」に該当すると判断。
(2)原告が商標を付して輸出していたという「クラッチ・マスタ・シリンダ」は「自動車並びにその部品及び附属品、及びこれらに類似する商品」に該当するか。
(3)上記(2)の「商標を付して輸出」が“商標の使用”と認められるか。
*特許庁は「クラッチ・マスタ・シリンダ」は「輸出」に係るもので“商標の使用”ではないと判断。
まず(1)の争点について。
原告の主張は次の通り。
『「タイミングベルト」と「デンショナー」等をセットで「タイミングキット」として販売したけど、「タイミングキット」は自動車の整備・補修需要にまとめて取引されている商品なんだから、「自動車の部品」に該当する。名称や表示等で形式的に判断するんじゃなくって、商品の取引者や需要者の認識を基準として実質的に判断すべきだ!』
これに対し、裁判所の判断は次の通り。
『原告登録商標の指定商品は旧第12類「輸送機械器具、その部品及び附属品(他の類に属するものを除く)」であるが、証拠及び弁論の全趣旨からすると、「タイミングベルト」は旧第9類「機械要素」に含まれる「動力伝達装置」のうち「動力伝導用ベルト」に該当する。すると旧第12類「(他の類に属するものを除く)」に相当することとなるから、取消請求に係る指定商品に含まれない!』
つまり、特許庁の言い分を認めたわけです。
ちなみに現行の分類でも、「自動車並びにその部品及び附属品」と「動力伝導装置」(「機械要素(陸上の乗物用を除く)」に含まれる)は別分類になってます。
次に(2)の争点について。
被告の主張は次の通り。
『「クラッチ・マスタ・シリンダ」が、その動力伝達機能において、ブレーキマスターシリンダーと異なるところがないところ、ブレーキマスターシリンダーが「機械要素」(旧第9類)に含まれることからすれば,「クラッチ・マスタ・シリンダ」も、「機械要素」(旧第9類)に含まれる!』
これに対し、裁判所の判断は次の通り。
『旧第9類には、「機械要素」に属するものとして「制動装置」が掲げられているが、旧第12類に「自動車の部品及びこれに属するもの」として「クラッチ」が掲げられていることに照らせば、機能的に同じ原理を有するからといって、「クラッチ・マスタ・シリンダ」がブレーキマスターシリンダーと同じ商品区分に属しなければならないということはできない。また,旧第9類「機械要素」の中に「動力伝達装置」が例示されているからといって、「クラッチ・マスタ・シリンダ」が一般的な「動力伝達装置」に属するということもできない!』
つまり、「クラッチ・マスタ・シリンダ」が旧第12類に属することは認めたわけです。
それでは最後に(3)の争点について。
原告が「商標を付して」の証拠として提出した資料がちょっと怪しくて曖昧だったので、裁判所は『「商標を付して」の事実は、証拠上これを認めるには足りない』と判断しました。
その上で、念のために輸出用商品に商標を付する行為が“商標の使用”に該当するか否かを付加判断しています。それによると、
『改正前の商標法の下においては、「商品」とは、日本国内における流通を予定し、あるいは現に国内において流通している商品を意味し、およそ国内において流通することを予定せず、かつ現に流通していない商品は、これらの規定における「商品」には該当しないものというべきである。
けだし、商標法1条は、同法の目的として「この法律は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,‥‥‥あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」と規定しているところ,ここでいう「業務上の信用」とは日本国内における業務上の信用であり,「需要者」とは日本国内における需要者を意味するからである。』
として、輸出商品だけに使用しても“商標の使用”とはならない、と判断しました。(…あ、もちろん改正前の話です。)
それで、最終的に、被告は商標を使用していないのだから、商標登録を取消す、という結論になったわけです。
…でも、この判決、実は他にちょっとおもしろい意見が付されているのです。
それについては、また明日。
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