さて、昨日の続きです。
今回の事件はマグボトルの形態模倣(不競法2条1項3号)を巡るものでした。
原告物件は2つあったのですが、そのうち一つがこちら(原告物件説明書より)。
一方、被告物件はこちら(被告物件説明書より)。
いわゆるマイボトルですね(うちにも景品でもらったのが一つあったような)。
確かに、被告物件は原告物件にそっくりなように見えます。ググってみるとわかるのですが、被告物件は原告物件に比べてかなり安く売られているようです。
それでは、事件の概要を。時系列でざっと示してみたいと思います。
(1)2003年8月頃: 被告が中国で中国商品(マグボトル)を製造販売していた。
(2)2006年11月: 原告が原告物件のデザイン作成を開始。
(3)2007年9月: 原告物件の販売開始。
(4)2008年4月: 被告物件を日本に輸入、販売した。
これを見た瞬間、(1)にやな予感を感じますよね…。
ところで、形態を「模倣する」の意義は、不競法2条5項によると、
「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう」
とされておりますね。
それでは、まず「依拠」性の問題について。
“被告物件は原告物件の形態に依拠したものである”ことを原告がどう突っ込んだかというと、
・(1)の中国商品のカタログ(2003年8月のもの)の成立を否認したり、
・その中国商品と(4)の被告物件は異なると主張したりしておりました。
しかし、裁判所は、
・中国商品のカタログの成立の真正性を認めると共に、
・被告物件は中国商品そのものであると認めました。
後者の理由は、中国商品と被告物件は多少寸法は異なるものの形態において一致し、容量においても矛盾しないこと、及び、被告は中国商品と同じ型番の商品を輸入し、これを被告商品として販売していたこと、です(詳しくは判決文8頁~9頁をご覧ください)。
それで、裁判所は、
『被告物件は原告物件より先に中国国内において製造販売されていたものと認められるから,被告物件が原告物件の形態に依拠して作り出されたものでないことは明らかであり,よって,被告物件が原告物件の形態を模倣した商品に該当しないこともまた明らかというべきである。』
と小活したのでありました(判決文10頁)。
また、原告は「依拠」性だけでなく、「同一の形態の商品を作り出すこと」にも突っ込みを入れておりました。
原告は、
『仮に被告物件と同一の中国商品が,原告物件が日本国内で販売されるより先に,中国国内において製造販売されていたとしても,かかる商品を原告物件の販売後に日本国内に輸入して市場に置く行為は,不正競争防止法2条5項における「同一の形態の商品を作り出すこと」に当たる』
と主張したのでありました。
しかし、裁判所は、
『市場に置く行為を同項の「同一の形態の商品を作り出すこと」に含めることは,「作り出す」の語義から乖離する上,そもそも同条1項3号が「他人の商品の形態(中略)を模倣した商品を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示し,輸出し,又は輸入する行為」を「不正競争」と定義し,模倣行為と輸入等の行為とを分けて規定した上で,後者のみを「不正競争」として規制対象としていることに照らし,輸入等の市場に置く行為を「模倣」に含めることは,同号の規定の構造からしても採用することのできない解釈である。』
と述べました(判決文10頁~11頁)。
以上より、結局、原告の請求は棄却されたのであります。
まあ、裁判所の仰ることは確かにもっともでありますが…
(私だったら、上記(1)の中国商品の事実がわかった時点で「あちゃ~」とつぶやいたと思うので、原告のお気持ちお察します…。)
でも、原告がデザインを作成するより前に、被告の中国商品が販売されていたということは、原告物件は意匠権も取得するのが難しかったということですよね(運よく意匠権取れたとしても無効理由を内包)※。
う~ん…
何かと身につまされるような事件でございました。
さて、次回は商標のお話に戻る予定です(おそらく)。
次回も見ていただける方、ぷちっと押していただけると嬉しいです。
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※ちなみに、裁判所は原告物件と被告物件の実質同一性について明言してないようですが、意匠は“類似”でもムリなので、多分そうではないかと。
関連記事:駒沢公園行政書士事務所日記
「ステンレス製真空マグボトル形態模倣事件-不正競争防止法 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)-」
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