試作品の外観- 不競法と著作権(TRIPP TRAPP事件 影響あった?)

<平成27年(ワ)第7033号 不正競争差止等請求事件>(判決文はこちら

今日は久しぶりに判例をご紹介。実用品の外観について、不競法と著作権法で争われた事案です。
その実用品というのは、展示会に出されたものの、構成上そのままでは販売できない、いわば試作品でございました。
これを模倣されたとして、不競法2条1項3号の形態模倣と著作権で争われたのが、今日の事案です。

実用品の外観と著作権といえば、TRIPP TRAPP事件ですよね。
今日ご紹介する判決は地裁判決なんですが、TRIPP TRAPP事件で、判決の言い回しとかなんか変わったかな?影響あったかな?が気になるところ。

■原告さんの加湿器と、被告さんらの行為

原告さんはプロダクトデザイナーさんです。
くだんの試作品は、試験管みたいなスティック形状の加湿器で、コップ等に入れて使用するもののようです。

原告加湿器1(H23.11の展示会で出展したもの)
上面から霧が吹き出してますねー。コップの水を使うわけですね、なるほど。仕事中にデスクの上に置いて使えそうです。モイスチャ~
20160127_1

原告加湿器2(H24.6の展示会に出展したもの)
20160101_2

原告加湿器3(H27.1.頃ウェブサイトで販売開始したもの)
20160127_3

一方、被告Aさんは、H25秋頃に被告製品を輸入し、被告Bさんを始めとする各取引先に販売開始しました。被告Bさんは同年10月頃から自社の店舗で被告商品を販売しました。
商品名「スティック加湿器」って売ってるものかな?(2016.1.27現在)

■争点

○不正競争防止法2条1項3号に基づく請求について

ア 原告加湿器1及び2の「商品」該当性
原告加湿器1,2は展示会に出展されただけだったので、「商品」に該当するかが争われました。

イ 形態の模倣の有無

ウ 原告らの加湿器が「最初に販売された日」
原告加湿器1,2が展示会に出展されただけだった一方、原告加湿器3は実販売されたので、 いつが保護期間の始期で、いつが保護期間の終期の起算点になるかが争われました。

エ 被告らの重過失の有無

○著作権侵害に基づく請求について

ア 原告加湿器1及び2の著作物性
これがTRIPP TRAPP事件の影響が気になるところ。

イ 複製又は翻案の成否

■裁判所の判断

○まずは不正競争防止法2条1項3号の「ア 原告加湿器1及び2の「商品」該当性」の争点から。

裁判所は、そもそも、同規定でいうところの「商品」とは何ぞや?を述べています。
同号が他人の「商品」の形態の模倣に係る不正競争を規定した趣旨は,市場において商品化するために資金,労力等を投下した当該他人を保護することにあると解される。そして,事業者間の公正な競争を確保するという同法の目的(1条参照)に照らせば,上記「商品」に当たるというためには,市場における流通の対象となる物(現に流通し,又は少なくとも流通の準備段階にある物)をいうと解するのが相当である。』(判決文11頁、下線はわたしが付しました)

ちなみに、原告加湿器1及び2は、展示会出展時には、電源部品が整ってなくて、取りあえず銅線を使って電気供給してたようです。

また、被告BさんがH24.7.に原告加湿器2の製品化について原告さんらに問い合わせしたところ、製品化の具体的な日程が決まってないとの回答を得たようでした。

一方、原告加湿器3は、販売できるように進化して、加湿器本体とUSB端子がケーブルで接続されて電気供給できる構成になりました。

といった事実から、裁判所はこのように述べました。
…原告加湿器1及び2は,上記各展示会の当時の構成では一般の家庭等において容易に使用し得ないものであって,開発途中の試作品というべきものであり,被告製品の輸入及び販売が開始された平成25年秋頃の時点でも,原告らにおいて原告加湿器1及び2のような形態の加湿器を製品化して販売する具体的な予定はなかったということができる。そうすると,原告加湿器1及び2は,市場における流通の対象となる物とは認められないから,不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」に当たらないと解すべきである。』(判決文12頁)

そして、不正競争防止法に基づく請求は、いずれも理由がないとされました。

○次に、著作権侵害に基づく請求について「ア 原告加湿器1及び2の著作物性」の争点です。

ここで、TRIPP TRAPP事件をおさらいしたいと思います。
長いですが、応用美術品(実用品)にも著作物性を認めた部分、著作権法と意匠権法との関係を述べた部分 を抜粋いたします(下線は私が付しました。記号(1)-(3)は勝手につけました)。

(1)
著作権法は,同法2条1項1号において,著作物の意義につき,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定しており,同法10条1項において,著作物を例示している。控訴人製品は,幼児用椅子であることに鑑みると,その著作物性に関しては,上記例示されたもののうち,同項4号所定の「絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物」に該当するか否かが問題になるものと考えられる。この点に関し,同法2条2項は,「美術の著作物」には「美術工芸品を含むものとする。」と規定しており,前述した同法10条1項4号の規定内容に鑑みると,「美術工芸品」は,同号の掲げる「絵画,版画,彫刻」と同様に,主として鑑賞を目的とする工芸品を指すものと解される。しかしながら,控訴人製品は,幼児用椅子であるから,第一義的には,実用に供されることを目的とするものであり,したがって,「美術工芸品」に該当しないことは,明らかといえる。
そこで,実用品である控訴人製品が,「美術の著作物」として著作権法上保護され得るかが問題となる。この点に関しては,いわゆる応用美術と呼ばれる,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とする表現物(以下,この表現物を「応用美術」という。)が,「美術の著作物」に該当し得るかが問題となるところ,応用美術については,著作権法上,明文の規定が存在しない。しかしながら,著作権法が,「文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与することを目的と」していること(同法1条)に鑑みると,表現物につき,実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって,直ちに著作物性を一律に否定することは,相当ではない。同法2条2項は,「美術の著作物」の例示規定にすぎず,例示に係る「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても,同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,「美術の著作物」として,同法上保護されるものと解すべきである。したがって,控訴人製品は,上記著作物性の要件を充たせば,「美術の著作物」として同法上の保護を受けるものといえる
著作物性の要件についてみると,ある表現物が「著作物」として著作権法上の保護を受けるためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要し(同法2条1項1号),「創作的に表現したもの」といえるためには,当該表現が,厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの,作成者の何らかの個性が発揮されたものでなければならない。表現が平凡かつありふれたものである場合,当該表現は,作成者の個性が発揮されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできない。応用美術は,装身具等実用品自体であるもの,家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり(略),表現態様も多様であるから,応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。

(2)
被控訴人は,応用美術の著作物性が肯定されるためには,著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図る見地から,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えていることを要する旨主張する。
 しかしながら,前述したとおり,応用美術には様々なものがあり,表現態様も多様であるから,明文の規定なく,応用美術に一律に適用すべきものとして,「美的」という観点からの高い創作性の判断基準を設定することは,相当とはいえない。また,特に,実用品自体が応用美術である場合,当該表現物につき,実用的な機能に係る部分とそれ以外の部分とを分けることは,相当に困難を伴うことが多いものと解されるところ,上記両部分を区別できないものについては,常に著作物性を認めないと考えることは,実用品自体が応用美術であるものの大半について著作物性を否定することにつながる可能性があり,相当とはいえない。加えて,「美的」という概念は,多分に主観的な評価に係るものであり,何をもって「美」ととらえるかについては個人差も大きく,客観的観察をしてもなお一定の共通した認識を形成することが困難な場合が多いから,判断基準になじみにくいものといえる

著作権法と意匠法との関係について…

(3)
確かに,応用美術に関しては,現行著作権法の制定過程においても,意匠法との関係が重要な論点になり,両法の重複適用による弊害のおそれが指摘されるなどし,特に,美術工芸品以外の応用美術を著作権法により保護することについては反対意見もあり,著作権法と意匠法との調整,すみ分けの必要性を前提とした議論が進められていたものと推認できる(略)。しかしながら,現行著作権法の成立に際し,衆議院及び参議院の各文教委員会附帯決議において,それぞれ「三 今後の新しい課題の検討にあたっては,時代の進展に伴う変化に即応して,(中略)応用美術の保護等についても積極的に検討を加えるべきである。」,「三 (中略)応用美術の保護問題,(中略)について,早急に検討を加え速やかに制度の改善を図ること。」と記載され(略),応用美術の保護の問題は,今後検討すべき課題の1つに掲げられていたことに鑑みると,上記成立当時,応用美術に関する著作権法及び意匠法の適用に関する問題も,以後の検討にゆだねられたものと推認できる。そして,著作権法と意匠法とは,趣旨,目的を異にするものであり(著作権法1条,意匠法1条),いずれか一方のみが排他的又は優先的に適用され,他方の適用を不可能又は劣後とするという関係は,明文上認められず,そのように解し得る合理的根拠も見出し難い。加えて,著作権が,その創作時に発生して,何らの手続等を要しないのに対し(著作権法51条1項),意匠権は,設定の登録により発生し(意匠法20条1項),権利の取得にはより困難を伴うものではあるが,反面,意匠権は,他人が当該意匠に依拠することなく独自に同一又は類似の意匠を実施した場合であっても,その権利侵害を追及し得るという点において,著作権よりも強い保護を与えられているとみることができる。これらの点に鑑みると,一定範囲の物品に限定して両法の重複適用を認めることによって,意匠法の存在意義や意匠登録のインセンティブが一律に失われるといった弊害が生じることも,考え難い。以上によれば,応用美術につき,意匠法によって保護され得ることを根拠として,著作物としての認定を格別厳格にすべき合理的理由は,見出し難いというべきである。かえって,応用美術につき,著作物としての認定を格別厳格にすれば,他の表現物であれば個性の発揮という観点から著作物性を肯定し得るものにつき,著作権法によって保護されないという事態を招くおそれもあり得るものと考えられる。
また,応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があるので,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。以上に鑑みると,応用美術につき,他の表現物と同様に,表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があるものとして著作物性を認めても,一般社会における利用,流通に関し,実用目的又は産業上の利用目的の実現を妨げるほどの制約が生じる事態を招くことまでは,考え難い

このTRIPP TRAPP判決の言い回しなどが、今回の判決に反映されてたり等、何らかの影響が伺えるでしょうか…?

では今回の判決を見てみませう。
そこで判断するに,同法2条1項1号は「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」旨,同条2項は「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする」旨規定している。これらの規定に加え,同法が文化の発展に寄与することを目的とするものであること(1条),工業上利用することのできる意匠については所定の要件の下で意匠法による保護を受けることができることに照らせば,純粋な美術ではなくいわゆる応用美術の領域に属するもの,すなわち,実用に供され,産業上利用される製品のデザイン等は,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合を除き,著作権法上の著作物に含まれないものと解される。』(判決文12-13頁)

…んんん?んー… TRIPP TRAPP事件の 上記(2)の被控訴人さんの主張と似てるような言い回しだな…
これは著作権法と意匠法の重複適用を認めていなってことなのか…???

これを本件についてみるに,証拠(甲3,5,20)及び弁論の全趣旨によれば,原告加湿器1及び2は,試験管様のスティック形状の加湿器であって,本体の円筒状部の下端に内部に水を取り込むための吸水口が,本体の上部に取り付けられたキャップの上端に噴霧口がそれぞれ取り付けられており,この吸水口から内部に取り込んだ水を蒸気にして噴霧口から噴出される構造となっていることが認められる。そして,以上の点で原告加湿器1及び2が従来の加湿器にない外観上の特徴を有しているとしても,これらは加湿器としての機能を実現するための構造と解されるのであって,その実用的な機能を離れて見た場合には,原告加湿器1及び2は細長い試験管形状の構造物であるにとどまり,美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えていると認めることはできない。
 したがって,原告加湿器1及び2は著作物に当たらないと解すべきである。
これに対し,原告らは,原告加湿器1及び2は従来の加湿器にない斬新な形態であって原告らの個性が強く発揮されており,加湿器としての実用性及び機能性から切り離しても鑑賞の対象となり得るなどと主張して,著作権法による保護を求めるが,その著作物性については以上に説示したとおりであり,原告らの主張は失当というほかない。

そして、著作権侵害に基づく請求も、いずれも理由がないとされました。

■コメント

今回の事案、不競法の争点も興味深かったんですが、やっぱり著作権の争点が気になりました。

著作権に関する今回の地裁の判決文の言い回し、ぱっと見では、TRIPP TRAPP事件にあまり影響を受けてないように見受けられますが…(違ってたらすみません)。高裁にいったら違う言い回しになるかもしれんですね…。

今日はこれでおしまい!

 

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