お茶の伊右衛門 vs. そばの伊右エ門

<平成21年(行ケ)第10378号 審決取消請求事件>(判決はこちら

 ドラゴンズ優勝しましたねー。
 その日(10月1日)はちょうど呑み会で、おもしろいハナシを聞きましたので、さわりだけご紹介いたします。 
 皆さん「ツイスト文明」ってご存知ですか?A.D.1980頃に日本のある地域で栄えた文明らしいんですか、現在は存在が確認されないようです。
 この文明については、追々取り上げて行こうと思います。

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 で、今日は商標権無効審決の取消請求事件を取り上げます。
 下記の本件商標を無効とする審決が出されたので、その審決を取り消すべく商標権者さんが原告となって提起した事件です。

●本件商標はこちら(登録第5150330号)。
 出願日:H19.11.11、登録日:H20.7.11
 指定商品:第30類「そばの麺,そばの乾麺,そばのインスタント麺,そば粉,むきそば,そば弁当」


 この商標を見たら、すぐにピンと来た方も多いのでは?
 まさにそのペットボトルのお茶に使われている商標が引用されて、審決では4条1項15号により本件商標が無効とされたのでありました。

 引用商標(登録第4766195号)
 「伊右衛門」(標準文字)
 指定商品:第16類の商品、第20類の商品、第21類の商品、第30類「茶」、第32類「清涼飲料」

 
●さて。
 
 裁判所の判断を結論からいうと、無効審決が維持されて原告さんの請求は棄却されました。
 争点(取消事由)はいくつかあったのですが、特におもしろそうなものだけピックアップします。

○取消事由2:脱退前被告サントリー酒類株式会社らが使用した結果周知になった商標の認定の誤り)について(判決文22~23頁)(※サントリーさんは途中で本件訴訟から脱退しております)

 サントリーさんの伊右衛門といえば、白抜きの「○茶」が付いている特定の図形的な商標を思い浮かべますよね。…えと、ご存知ない方はサントリーさんのHPでご確認ください。

 原告(商標権者)さんは“サントリーの商品で使用しているのはこの特定の態様の図形商標で、上記引用商標ではない”等と主張していました。

 しかしながら、裁判所は、周知となっているのは引用商標そのものだと判示しました。
 『…表示のうち「白抜きの漢字の『伊右衛門』」は引用商標の漢字による文字を縦書きで記したものであって,引用商標と実質的に同一であることは明らかである
 『商標を商品に使用する際には,需要者により効果的にアピールできるよう,当該商標自体のデザインに修正を加えることもあるし,容器,包装,パッケージ等の形状ないしデザインに工夫を施すこともよく行われている。脱退前被告サントリー酒類株式会社が製造販売した緑茶飲料で採用された…(中略)も,容器,包装等に施された工夫の範疇に属するものであることは明らかで,常に縦書き,白抜き文字の表示「伊右衛門」と一体となって商標を構成すると解さなければならないものではない。したがって,竹筒型のペットボトル容器が採用されている脱退前被告サントリー酒類株式会社の緑茶飲料においても,引用商標が使用されていると認めて差し支えはない。
 『結局,脱退前被告サントリー酒類株式会社が緑茶飲料の容器に採用した…(中略)…表示が,需要者に対する訴求力が大きく,したがって「伊右衛門」の表示と格別に,あるいは「伊右衛門」の表示と合わせて,自他商品識別機能を有するに至っているとしても,脱退前被告サントリー酒類株式会社が引用商標を使用している事実を左右するものではないし,後記のとおり被告らの業務に係る商品を示すものとして需要者及び取引者の間で広く認識されるようになった商標が引用商標であるという事実を左右するものではない。

○取消事由4:混同を生ずるおそれの認定の誤りについて(判決文27~33頁)

 この取消理由の中で、原告さんは、本件商標は指定商品との関係では引用商標と混同を生ずるおそれがないと主張していました。
 例えば、本件商標の指定商品のうち「そばの麺,そばの乾麺,そばのインスタント麺,そば粉,むきそば」はいずれも加工を要する食材でそのまま飲める「飲料緑茶」とは売り場が違う、「そばの麺」は主食品で「緑茶飲料」は飲料ないし嗜好なので購入の目的が違う等と主張しておりました。

 これに対し裁判所に対する裁判所の判断を簡単にまとめると、こんな感じになります。
 “緑茶を材料の一つとした「茶そば」が一つのジャンルになっていることや、そば料理と茶が供されることがよくあることや、被告福寿園さんのカフェでも「茶そば」が提供されていることや、「そば弁当」と「飲料緑茶」が一緒に出されることが多いこと等から、本件商標の指定商品は引用商標の指定商品と密接な関係があり、加工の手間や売り場の相違や購入の目的の相違などがあったとしても、その関係を否定することはできない。”(判決文30~31頁)。

○その他の取消事由についても、原告さんの主張は認められず、結局、本件商標が4条1項15号に該当するとした審決の判断に誤りはない、とされました。

 ちなみに…。
 原告さんは、従前より山形県でそばを販売してきて、その地方では「伊右エ門」が原告さんの日本そばの麺・中華麺を示す商標として広く知られてきたと主張されておりました
(この主張は認められなかったですが)

 
 ということで、さっそくネット検索してみました。わかりやすそうな「moginavi」さんのサイトをご覧ください。
 
 えー、判決文によると、原告さんは遅くともH12頃から販売していたそうなんですが(判決文33頁)、サントリーさんが伊右衛門を売り出したのはH16っぽいですね(判決文24頁)。かつ、引用商標の出願はH15。
 原告さんがH16より前に出願していれば、今回のように本件商標の登録が無効になることはなかったわけですね…うーん…。
 
 本日はこの辺で。次回も見てくれるならぷちっと
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この記事を読んでひろた興味を持たれた方は…

【執筆記事】
  
「知財管理」誌 VOL.60  NO.6
  (並行輸入と商標権侵害 -並行輸入の抗弁における「同一人性の要件」及び「品質管理性の要件」-)

  「知財産管理」誌 VOL.58 NO.5
  (「腸能力」審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第10042号 審決取消請求事件)
     内容は
こちらからどうぞ

【関係事件】
 代理人になった事件です。負けたのでご紹介するのをためらっておりましたが、思い切って…。
 
平成18年(行ケ)第10367号審決取消請求事件
 なお、牛木理一先生のHPで紹介いただいているので(「特許ニュース」2007年6月29日号の記事です)、そちらも併せてご覧ください~(こちらのB-27の項です)。

【ZIP FM Z-TIME BIZ】
 
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