<平成22年(行ケ)第10169号審決取消請求事件(商標)>(判決文はこちら)
木曜日ですが意匠の新着審決のご紹介はお休み。
「ヤクルト容器」の立体商標の事件(by中野判事)を取り上げます。はぁ、ベタですよ、ベタですけどね…
「コカコーラ瓶」の立体商標事件(by飯村判事)の判決文と対比してみたりなんかしましたので、ゆるりとお目通しください。
■概要
○出願された商標はこちら。
指定商品:第29類「乳酸菌飲料」
3(1)3該当・3(2)非該当を理由に拒絶査定→拒絶審決を受けました。
○なお、今まで使用されてきた容器はこちら(判決文19頁)。
写真1:S43以来原告商品「ヤクルト」に使用してきた本件容器。
写真2:H11から原告商品「ヤクルト400」に使用してきた容器
写真3:H20から原告商品「ヤクルト400LT」に使用してきた容器
H21からは「ヤクルトカロリーハーフ」という商品についても本件容器を使用しています。
(写真1) (写真2) (写真3)
■争点
今回の審取訴訟で争われたのは3(2)非該当についてのみ。
■裁判所の判断
ご存知のように、結論としては、裁判所は3(2)該当性を認め、原告さんの請求を認容しました。
以下、その判断です。
○まずは3(2)の解釈を(判決文26頁)。
『商標法3条2項は,「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨規定している。したがって,本願商標のように,「その形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であって同法3条1項3号に該当する場合であっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」に至ったときは,商標登録が許されることになる。
そして,本願商標のような立体的形状を有する商標(立体商標)につき商標法3条2項の適用が肯定されるためには,使用された立体的形状がその形状自体及び使用された商品の分野において出願商標の立体的形状及び指定商品とでいずれも共通であるほか,出願人による相当長期間にわたる使用の結果,使用された立体的形状が同種の商品の形状から区別し得る程度に周知となり,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っていることが必要と解される。この場合,立体的形状を有する使用商品にその出所である企業等の名称や文字商標等が付されていたとしても,そのことのみで上記立体的形状について同法3条2項の適用を否定すべきではなく,上記文字商標等を捨象して残された立体的形状に注目して,独自の自他商品識別力を獲得するに至っているかどうかを判断すべきである。』
○認定事実から指摘された点は以下のとおり(判決文27~28頁)。
ちょっと長いですが、コカコーラ瓶事件と対比するとおもしろいので、そのまま抜粋します。
「ヤクルト容器って、他社の同じような形状の容器が業界で結構あるんじゃね?」的な疑問をお持ちの方、下記(キ)にご注目。
『 (ア) 原告商品は,本願商標の指定商品である乳酸菌飲料である。
(イ) 本件容器とほぼ同一形状の容器は,昭和43年に,原告商品の容器がガラス瓶からプラスティック製のワンウェイ容器に変更された際に,著名なデザイナーによってデザインされたものであり,飲みやすさ,持ちやすさ,コンベアー・ラインでのガイドへの適合性,自動包装機への適応性などの機能性が重視されたシンプルな形状ではあったものの,当時,乳酸菌飲料の容器としては斬新な形状であった。
本件容器は,昭和43年の販売開始以来40年以上ほとんどその形状を変えることなく,一貫して原告商品に使用されてきた。
(ウ) 原告商品の販売額は,平成12年(2000年)以降300億円を超えており,特に平成20年(2008年)には459億円に達している。また,平成10年から平成19年までの間,乳酸菌飲料における原告の市場占有率は常に50%以上であり,原告商品のみでも,業界の約42%以上のシェアを占めている。
(エ) 原告商品の宣伝広告費は,原告商品「ヤクルト」の販売を開始した昭和43年は約9億6000万円であったが,翌年には約20億円に急増し,その後もほぼ年々増加傾向にあって,昭和57年には約50億円,平成元年には約76億円,平成17年には約95億円に達しており,原告商品には毎年巨額の宣伝広告費用が費やされてきた。
(オ) 宣伝広告記事の内容は,本件容器が採用された昭和43年ころから,本件容器の形状の特徴及び利点を強調する宣伝が数多くなされ,その後,原告の宣伝には,ほぼ必ず本件容器の写真若しくは図柄が掲載されており,本件容器があたかも原告のシンボルマークのように扱われて,需要者に強く印象付けられるような態様で宣伝されてきた。
(カ) 平成20年及び同21年の各アンケート調査の結果によれば,男女480人を対象とした東京及び大阪における会場テストにまた男女5000人を対象としたインターネット調査においても,本願商標と同一の立体形状の無色容器を示された回答者の98%以上が,同容器から「ヤクルト」を想起すると回答している。
(キ) 現在,乳酸菌飲料を取り扱う市場においては,本件容器と類似する立体的形状の容器を使用した他社商品が多数販売されており,証拠上確認できるものだけでも本件容器と類似する立体的形状の商品が12種類以上存在しているが,いずれも,原告が昭和43年に本件容器を採用した以降に登場した商品であること,インターネット上の記事(乙1ないし乙5)によれば,本件容器と酷似する立体的形状の商品に接した需要者は,それらの容器を「ヤクルトとそっくりな容器」,「ヤクルトのそっくりさん」,「ヤクルトもどき」,「この容器はヤクルトを連想する」というように,それらの容器が本件容器の模倣品であるとの意識を持っていることが窺われる。』
○上記認定事実から、以下のように判断しています(判決文28~29頁)。
『ウ 以上によれば,本件容器を使用した原告商品は,本願商標と同一の乳酸菌飲料であり,また同商品は,昭和43年に販売が開始されて以来,驚異的な販売実績と市場占有率とを有し,毎年巨額の宣伝広告費が費やされ,特に,本件容器の立体的形状を需要者に強く印象付ける広告方法
が採られ,発売開始以来40年以上も容器の形状を変更することなく販売が継続され,その間,本件容器と類似の形状を有する数多くの乳酸菌飲料が市場に出回っているにもかかわらず,最近のアンケート調査においても,98%以上の需要者が本件容器を見て「ヤクルト」を想起すると回答している点等を総合勘案すれば,平成20年9月3日に出願された本願商標については,審決がなされた平成22年4月12日の時点では,本件容器の立体的形状は,需要者によって原告商品を他社商品との間で識別する指標として認識されていたというべきである。
そして,原告商品に使用されている本件容器には,前記のとおり,赤色若しくは青色の図柄や原告の著名な商標である「ヤクルト」の文字商標が大きく記載されているが,上記のとおり,平成20年及び同21年の各アンケート調査によれば,本件容器の立体的形状のみを提示された回答者のほとんどが原告商品「ヤクルト」を想起すると回答していること,容器に記載された商品名が明らかに異なるにもかかわらず,本件容器の立体的形状と酷似する商品を「ヤクルトのそっくりさん」と認識している需要者が存在していること等からすれば,本件容器の立体的形状は,本件容器に付された平面商標や図柄と同等あるいはそれ以上に需要者の目に付きやすく,需要者に強い印象を与えるものと認められるから,本件容器の立体的形状はそれ自体独立して自他商品識別力を獲得していると認めるのが相当である。』
○その他被告の主張に対する判断のうち、おもしろかった箇所だけ抜粋(判決文29~31頁)。
「ヤクルト容器って、他社の同じような形状の容器が業界で結構あるんじゃね?」的疑問に関する箇所です。
『(ウ)被告は,…取引の実情において,他社の類似する形状の包装用容器が多数存在すること,それにもかかわらず,原告が他社の類似容器の存在に対し適切な処置を講じてこなかったことを問題視する。
しかし,市場に類似の立体的形状の商品が出回る理由として,通常は,先行する商品の立体的形状が優れている結果,先行商品の販売の直後からその模倣品が数多く市場に出回ることが多いと認められるところ,取引者及び需要者がそれらの商品を先行商品の類似品若しくは模倣品と認識し,市場において先行商品と類似品若しくは模倣品との区別が認識されている限り,先行商品の立体的形状自体の自他商品識別力は類似品や模倣品の存在によって失われることはないというべきである。』
『(エ)被告は,…インターネット上の記事に関し,要するに,原告の「ヤクルト」をはじめとする乳酸菌飲料の容器はどれも皆似たようなものだという,一般的な需要者の感覚や認識が存在することからして,本願商標は,その立体的形状のみでは自他商品識別力を獲得するに至っていないことが裏付けられると主張する。
しかし,前記認定のとおり,インターネット上の記事から認められる重要な事実は,被告が主張するような「乳酸菌飲料の容器は原告商品も含めどれも皆似たようなものだ」という漠然としたものではなく,むしろ乳酸菌飲料の容器には本件容器と酷似した模倣品が数多く存在するとの需要者の認識であって,この事実は,被告の主張とは逆に,類似の形状の容器を使用する数多くの他社商品が存在するにもかかわらず,需要者はそれら容器の立体的形状は本件容器の模倣品であると認識しているということを示していると認められるのであって,それは,本件容器の立体的形状に自他商品識別力があることを強く推認させるというべきである。』
■コカコーラ瓶事件(平成19年(行ケ)第10215号審決取消請求事件 判決文はこちら)
さて、コカコーラ事件を振り返ってみませう。
コカコーラ瓶の形状はコカ・コーラ社以外に他社が使ってないところが、今回のヤクルト容器との相違でしょうか(下記(カ)とか(キ)辺りにご注目)。
○コカコーラ事件での認定事実で指摘された点は以下のとおりでした(判決文45~49頁の概要)。
(ア)原告商品入りリターナブル瓶の形状はS32に我が国で販売されて以来変更されず、一貫して同一の形状を備えてきた、
(イ)リターナブル瓶入り原告商品の販売数量は、販売開始以来、驚異的な実績を上げてきた、
(ウ)リターナブル瓶入りの原告商品を含めた宣伝広告は、媒体費用だけでも巨額が投じられ、リターナブル瓶入りの原告商品の形状が需要者に印象づけられるような態様で広告が実施されてきた、特に、缶入り商品やペットボトル入り商品の販売が開始され、その販売比率が高まってから後は,リターナブル瓶入りの原告商品の形状を原告の販売に係るコーラ飲料の出所識別表示として機能させるよう,その形状を意識的に広告媒体に放映、掲載等させている、
(エ)本願商標と同一の立体的形状の無色容器を示された調査結果において,6割から8割の回答者が,その商品名を「コカ・コーラ」と回答している、
(オ)リターナブル瓶の形状については、相当数の専門家が自他商品識別力を有する典型例として指摘している&リターナブル瓶入りの原告商品の形状に関連する歴史、エピソード,形状の特異性等を解説した書籍が数多く出版されてきた、
(カ)本願商標の立体的形状の本願商標の特徴点aないしfを兼ね備えた清涼飲料水の容器を用いた商品で、市場に流通するものは存在しない&原告は、第三者が類似容器を使用したり図柄を使用する事実を発見したら、直ちに厳格な姿勢で臨み、その使用を中止させてきた、
(キ)リターナブル瓶入りの原告商品の形状は,それ自体が「ブランド・シンボル」として認識されるようになっている、
その他の事実
(ア)リターナブル瓶入り原告商品に付された「Coka-cola」表示との関係について: 取引実情に基づき『当該商品に平面的に表記された文字,図形,記号等が付され,また,そのような文字等が商標登録されていたからといって,
直ちに,当該商品の他の特徴的部分(平面的な標章及び立体的形状等を含む。)が,商品の出所を識別し,自他商品の区別をするものとして機能する余地がないと解することはできない』とし、上記認定事実に鑑みて『本件において,リターナブル瓶
入りの原告商品に「Coca-Cola」などの表示が付されている点が,本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上で障害になるというべきではない(なお,本願商標に係る形状
が,商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標といえないことはいうまでもない。)。』と判示。
(イ)口部の形状が、リターナブル瓶の立体的形状では王冠用 vs. 本願商標ではスクリューキャップ用 について: 口部の形状は,機能に直結形状&ありふれた形状なので、本願商標の特徴的な部分でないし、リターナブル瓶入の形状について蓄積された自他商品識別力は極めて強いといえるので、その形状の相違が自他商品識別機能を獲得していると認める上で障害となるというべきでない。
どでしたかー?
え…長かっただけ?……すんませんでした…orz
今日はこの辺で。
明日は…意匠か商標の新着審決のご紹介の予定なのでよければ見てね、そして見ていただけるんならぷちっと押してね…
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この記事を読んでひろた興味を持たれた方は…
【執筆記事】
「知財管理」誌 VOL.60 NO.6
(並行輸入と商標権侵害 -並行輸入の抗弁における「同一人性の要件」及び「品質管理性の要件」-)
「知財産管理」誌 VOL.58 NO.5
(「腸能力」審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第10042号 審決取消請求事件)
内容はこちらからどうぞ
【関係事件】
代理人になった事件です。負けたのでご紹介するのをためらっておりましたが、思い切って…。
平成18年(行ケ)第10367号審決取消請求事件
なお、牛木理一先生のHPで紹介いただいているので(「特許ニュース」2007年6月29日号の記事です)、そちらも併せてご覧ください~(こちらのB-27の項です)。
※注意!弁理士さんや知財部門のご担当など、クロートの方へ!
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コメント
【商標権:審決取消請求事件(行政訴訟)/知財高裁/平22・11・16/平22(行ケ)10169】原告:(株)ヤクルト本社/被告:特許庁長官
事案の概要(by Bot): 本件は,原告が,下記商標につき平成20年。9月3日付けで立体商標として商標登録出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。 2 争点…