恵方に向かって招福を叫ぶ

<平成20年(ネ)第2836号商標権侵害差止等請求控訴事件>(判決文はこちら

 明日は節分ですね。だからといってタイミングを見計らっていたわけではありませんが(単に取り上げる余裕がなかっただけ)、本日は「招福巻」の事件です。

 この「招福巻」については、一昨年の10月に地裁の判決が出ていましたが、今回はその控訴審です。控訴人(原審の被告)はイオン、被控訴人(原審の原告)は商標権者です。
 原審では、控訴人は,控訴人標章中「招福巻」の部分が法26条1項2号,4号の商標に該当し本件商標権の効力が及ばないなどとして争いました。しかし、原審は,被控訴人の請求のうち差止め等の請求については全部(金銭請求については一部認容したのでありました。

 それでは、まず、本件商標はこちら。指定商品は第30類「すし」等です。
 
 そして、イオンの行為はこちら(判決文11~12頁)。
 『平成18年と19年のいずれも節分に向けた時期において,①「2月3日(土)節分恵方巻」「予約承り中」と大書した広告ビラに「イオンの太巻で,今年も福招き。恵方を向いて,丸かぶり。」「2月3日の節分の日には,『恵方(えほう)』と呼ばれるその年の縁起の良い方角を向き,太巻きを切らずに一本がぶりと黙って食べ,福を招くという習わしがあります。今年の恵方は「北北西」です。」との一般的説明を付した上,「穴子,海老など色とりどりの12種の具材を贅沢に使った恵方巻です。」として,価格とともに控訴人標章をゴシック体文字で「十二単の」の部分を小さく「招福巻」なる部分を大きく横書きし(甲3),宮城県,山形県,福島県,富山県,石川県,長野県,静岡県,岐阜県,愛知県,三重県のジャスコ各店舗の広告チラシ中で,②「1/30火までご予約承り」「2月3日は節分節分恵方巻」と大書された枠内に,価格とともに控訴人標章をゴシック体で「十二単の」の部分を小さく「招福巻」なる部分を大きく横書きし(甲4の1~3),又は,「イオンの節分」と大書した枠内に「福を呼ぶ「巻き寿司」丸かぶりで今年も家族の幸せを迎えましょう。」「その年の縁起の良い歳徳神が司る方位,つまり恵方(えほう)を向いて,無言で巻き寿司(福を巻き込む)を丸かぶり(縁を切らないために包丁を入れない)すると福を呼ぶと言われています。」との一般的説明を付した上,価格とともに控訴人標章を同じ大きさのゴシック体文字で横書き又は縦書きした控訴人標章を付し(甲4の4~11),これを配布する等し,節分用巻き寿司を包装するパックに同じ大きさのゴシック体文字(タイプ文字)で横書きしてなる控訴人標章の記載された商品シールを貼付し(甲5),これを展示,販売した
(下線は私が付しました)

 争点1は、「控訴人標章が本件商標に類似するか」です。

 裁判所は、
 『控訴人標章にいう「十二単の」の部分は,消費者等には,巻き寿司に12種類の具材が入っていることを示す記述的説明(甲3参照)が付加されたものと受け取るのが自然であって,控訴人主張のように,「十二単の招福巻」の表示をもって全体として一連一体のものとみることは困難である。
 そして「十二単」の部分に独立した自他識別力がない以上,後記のとおり「招福巻」が普通名称化しているとしても,控訴人標章に接した消費者等が「招福巻」の部分に着目することは明らかというべきであり,その意味で,「招福巻」の部分が共通する本件商標と控訴人標章とは類似するものといわざるを得ない。

 とし、控訴人の行為は37条1号に該当すると判示しています(判決文7~8頁)。

 次に、争点2は「本件商標権の効力は控訴人標章に及ばないか」です。

 これに関し、まず、節分用巻き寿司については、辞典やビラ等の証拠から『節分に恵方を向いて巻き寿司を丸かぶりする風習は遅くとも昭和7年の段階で少なくとも大阪の一部地域で行われていたものであり,大阪の巻き寿司関連業界の宣伝活動によって次第に広がり,昭和の終わりころには,大阪以外の関西地方,さらには関西地方以外の地域にも広がり,近年は,乙8のような全国の一般家庭向けの冠婚葬祭事典にも紹介される等,さらに広範囲に広がりつつあるということができる。』とされています。

 また、全国のスーパーマーケット等における「招福巻」の使用例については、原判決のとおり認定されています(こちらでちら見

 そして…
 『「招福」はもともと「福を招く」を名詞化したもので馴染みやすい語であり,これと巻き寿司を意味する「巻」(乙10,11)を結合させた「招福巻」なる語を一般人がみれば,節分の日に恵方を向いて巻き寿司を丸かぶりする風習の普及とも相まって,極めて容易に節分をはじめとする目出度い行事等に供される巻き寿司を意味すると理解し,被控訴人の本件商標が登録されていることを知らないで「招福巻」の文字を目にする需要者は,その商品は特定の業者が提供するものではなく,一般にそのような意味づけを持つ寿司が出回っているものと理解してしまう商品名ということができる。
 
 
現に,上記(3)によれば,遅くとも平成17年以降は極めて多くのスーパーマーケット等で「招福巻」の商品名が用いられていることが認められる上,同じ頃頒布されたと思料される阪急百貨店の広告チラシ(乙3の2の1)中では,被控訴人の商品(小鯛雀鮨「すし萬」招福巻)と並んで「京都・嵐山「錦味」錦の招福巻」や「「大善」穴子招福巻」が並記されていることからも,スーパーマーケット等のチラシをみて,「招福巻」と表示される巻き寿司が特定のメーカーないし販売業者の商品であると認する需用者はいなくなるに至っていたことが窺われるというべきであるし,それより早い平成16年の時点で全国に極めて多くの店舗を展開するダイエーのチラシに「招福巻」なる名称の巻き寿司の商品広告が掲載されたことも,それ以前から「招福巻」が節分用巻き寿司の名称として一般化していたことを推認せしめるものといえる。
 そ、そうだったんですね…。いまいち知
らんかった
(っていうか、何気に関西チックでない?↑)

 『なお,広辞苑に「招福」の語が収録されたのは平成20年発行の第6版(乙44)からであるが,既にみたとおり,「新辞林」や「大辞林」にはそれ以前から収録されていたし,上記広辞苑への収録も,それまでの少なくとも数年間の使用実態を踏まえてのことと考えられるから,その収録の事実は平成16年当時に「招福」の語も普通名称化していたことを裏付けるものといえる。したがって,「招福巻」は,巻き寿司の一態様を示す商品名として,遅くとも平成17年には普通名称となっていたというべきである
 もっとも,「招福巻」が,本件商標の指定商品に含まれる巻き寿司についての登録商標であることが一般に周知されてきていれば格別であるが,被控訴人が警告をし始めたのはようやく平成19年になってからであり(甲21ないし22の各1・2),本件全証拠によってもその時点までに本件商標が登録商標として周知されていたと認めるに足りず,かえって上記警告の時点までに「招福巻」の語は既に普通名称化していたものというべきである。
 
 『さらに,控訴人標章中「招福巻」の部分の使用は,前記認定に係るその書体,表示方法,表示場所等に照らし,商品名を普通に用いられる方法で表示するものと認めることができる。この点に関し,被控訴人は,控訴人標章は,商品の包装及びチラシにおいて本件商品の名称として自他識別機能を果たす態様で使用している「普通に表示される方法で表示したもの」に当たらない旨主張するが,被控訴人がどの点を捉えて自他識別機能を果たす態様での使用と主張しているのか不明であるし,控訴人標章の使用をもって専ら自他を識別するために使用されているものとまでは認められないから,この点の被控訴人の主張は採用することができない。

 以上より、『控訴人標章中「招福巻」の部分は,法26条1項2号の普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標に該当するものとして,本件商標の商標権の効力が及ばないというべきである。』とされたのでありました。

 うう、商標権者にとってのカウンターパンチの一言「普通名称化」が出されてしまいました…

 (というわけで、結論としては、原判決中の、控訴人敗訴部分が取消されたのでありました。)

 本日はこの辺で。
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