包装前の包装容器と、一日違い頒布

<平成22年(行ケ)第10012号審決取消請求事件>(←勝手に第一事件、判決文はこちら
<平成22年(行ケ)第10013号審決取消請求事件>(←勝手に第二事件、判決文はこちら

 本日は商標登録の不使用取消しのハナシです。
 不使用取消審判の審決では請求が成り立たないとされたので、審決を取り消すべく請求人さんが原告さんとなって提起した事件です。
 経緯を見ると、何となく被告さんの立場が少々身に詰まされるような…

■概要

○対象となった本件商標はこちら。
 
 第一事件:
 指定商品:第11類「電球類及び照明器具」
 「エコルクス」(標準文字)

 第二事件:
 指定商品:第11類「電球類及び照明器具」
 

○経緯
・被告さんは、商標登録以来約6年8月未使用だった本件商標をLEDランプに採用することを決定し、H21.4.6に外部デザイン会社に包装用容器のパッケージデザインを発注しまし、H21.4.8に社内担当者にメール添付ファイルでパッケージデザイン案を送付しました(デザイン案には本件商標と社会通念上同一と認められる標章が付されていました)。外部デザイン会社は、担当者からの要望を受けて、H21.4.10にパッケージデザイン案の修正案をメール添付ファイルで送付し、そこにも本件商標と社会通念上同一と認められる標章が付されていました。

・H21.4.14に上記2つの本件商標の登録につき不使用取消審判が請求され、H21.4.30に請求が登録されました

・被告さんは以前より情報誌を定期的に発行し各地小売店に送付していましたが、H21.4.2に5.5付発行分の編集を開始し、H21.4.30に印刷業者から情報誌の納品を受けました(情報誌の裏面には、販売予定の家電用品として、前記パッケージデザインが2通り印刷されていました)。
 そして、この情報誌はH21.4.30に発送され、最初に小売店に届いたのはH21.5.1の午後でした。

・被告さんは、中国にて、H21.6.11に商品の生産を開始、6.28頃に包装用容器の量産を開始し、8.9頃包装済みの商品が日本に輸入されるに至りました。

■審決での判断(取消2009-300445,2009-300446)

 『上記1の認定事実によれば,被請求人は,本件審判の請求の登録日(平成21年4月30日)前である平成20年12月から平成21年3月にかけて数次の社内会議を開催し,請求に係る指定商品「LEDランプ」と同一といえる本件商品の販売に関する計画・準備を現実に進め,平成21年3月30日のプレゼ会議において本件商品に本件商標を採択使用することを決定し,さらに外部デザイン会社に本件商品の包装用容器のパッケージデザインを依頼し,同年4月10日には外部デザイン会社から該パッケージデザインが納品されたものと認められる。そして,上記パッケージデザインには本件商標と社会通念上同一と認められる商標が明示されており,本件審判の請求の登録後ではあるが,被請求人は上記パッケージデザインによる包装容器を用いた本件商品の宣伝広告及び商談会を実際に行ったものと認められる。
 以上を総合すると,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に請求に係る指定商品の範疇に属する商品と認められる本件商品の包装に本件商標を付する行為を行ったものと認めるのが相当である。

■裁判所の判断

○商標法2条3項1号に基づく本件商標の使用の有無について
 『商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」とは,同号に並列して掲げられている「商品に標章を付する行為」と同視できる態様のもの,すなわち,指定商品を現実に包装したものに標章を付し又は標章を付した包装用紙等で指定商品を現実に包装するなどの行為をいい,指定商品を包装していない単なる包装紙等に標章を付する行為又は単に標章の電子データを作成若しくは保持する行為は,商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」に当たらないものと解するのが相当である。
 『これを本件についてみると,前記認定のとおり,被告は,本件請求登録日以前から,本件容器に本件商標を付して販売するための準備を進めていたところ,被告が平成21年4月10日に外部会社から受領したものは,本件容器のパッケージデザインの電子データであるにすぎない。したがって,被告が上記電子データを受領し,これを保持することになったからといって,これをもって商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」ということはできない。

○商標法2条3項8号に基づく本件商標の使用の有無について
 『商標法2条3項8号所定の標章を付した広告等の「頒布」とは,同号に並列して掲げられている「展示」及び「電磁的方法により提供する行為」と同視できる態様のもの,すなわち,標章を付した広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に置かれることをいい,標章を付した広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に置かれていない場合には,商標法2条3項8号所定の標章を付した広告の「頒布」に当たらないものと解するのが相当である。
 『これを本件についてみると,前記認定のとおり,本件容器の写真が広告として掲載された本件情報誌が小売店に配達され,もって一般公衆による閲覧可能な状態に置かれたのは,平成21年5月1日である。したがって,被告が本件容器の広告写真が掲載された本件情報誌を頒布したのは,同日(平成21年5月1日)であるというべきであって,被告が前日(平成21年4月30日)に発送を行ったからといって,当該発送行為をもって本件商標を付した広告等の頒布に該当するとはいえない。そして,我が国において本件商標を付した広告等が本件請求登録日よりも前に,被告により頒布されたと認めるに足りる証拠は存在しない。したがって,被告は,本件商標について,本件請求登録日よりも前の3年以内に我が国において商標法2条3項8号所定の本件商品に関する広告の「頒布」がされた事実を証明していないというほか
ない。

 こうして、審判請求登録前3年以内に被告さんが本件商標を使用していたことを証明していないとされ、審決は取消すべきものと判断されました。

■コメント

 本件では、2-3-1の「使用」と2-3-8の「使用」につき、審決と異なる判断がなされました。
 
 特に2-3-1の「使用」について、審決では、商標を採択使用することを決定し外部デザイン会社からデザイン案が納品された等の事実から「使用」があったと判断していましたが、判決では、「現実」に標章を包装に付したか、標章を付した包装紙等で「現実に」商品を包装する等の行為がなければ「使用」と認めらない、としました。
 この点につき、参考書籍では、『「包装」とは、現実に商品が収納されている容器、包装箱であり、未収納の包装箱は含まれない。この場合は標章を表示した包装に商品が収納された時点において「商品の包装に標章を付する行為」があったといえよう。』(『注解 商標法 新版』 編者 小野昌延 上巻 p.92 )とか、『商品未包装の「包装紙」は、ここの一定の「商品の包装」に入らない。なぜなら何の商品を包むかわからないからである。…その包装紙は、ある商品を包装したときに、その商品の包装になる。すなわち、ここの1号の商品の包装になる。』(新・商標法概説 小野昌延・三山峻司 著 p.14)とされています(なお、侵害の場面では、侵害予防請求の対象物となり得ると記載)

 本日は以上です!
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この記事を読んでひろた興味を持たれた方は…

【執筆記事】
  
「知財管理」誌 VOL.60  NO.6
  (並行輸入と商標権侵害 -並行輸入の抗弁における「同一人性の要件」及び「品質管理性の要件」-)

  「知財産管理」誌 VOL.58 NO.5
  (「腸能力」審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第10042号 審決取消請求事件)
     内容は
こちらからどうぞ

【関係事件】
 代理人になった事件です。負けたのでご紹介するのをためらっておりましたが、思い切って…。
 
平成18年(行ケ)第10367号審決取消請求事件
 なお、牛木理一先生のHPで紹介いただいているので(「特許ニュース」2007年6月29日号の記事です)、そちらも併せてご覧ください~(こちらのB-27の項です)。

【ZIP FM Z-TIME BIZ】
 ここのフォトギャラリーになぜかわたくしが。
  見付からないよ~?→2008/07/23のところ…


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コメント

  1. 【商標権:審決取消請求事件(行政訴訟)/知財高裁/平22・12・15/平22(行ケ)10012】原告:X/被告:アイリスオーヤマ(株)
    事案の概要(by Bot): 本件は,原告が,下記1の被告の本件商標に係る登録商標のうち,指定商品「LEDランプ」に係る商標登録について,不使用を理由とする当該登録の取消しを求める原告の下記2の本件審判請求が成り立たないとした特許庁の別紙審決書(写し)の本件審決(そ…

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