商標「CORE ML」審決取消請求事件

 

【担当:弁理士 浅野令子】

 

令和元年(行ケ)10151 商標「CORE ML」審決取消請求事件

判決文PDF
(全文)https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/516/089516_hanrei.pdf

 

1.事実関係

(1) 本願商標
本願商標:CORE ML(標準文字)
出願番号:商願2017-145606
出願日 :平成29年11月6日
指定商品:第9類 コンピュータソフトウェア(「アプリケーション開発用コンピュータソフトウェア・他のコンピュータソフトウェア用アプリケーションの開発に使用されるコンピュータソフトウェア」を除く。)

(2) 引用商標
引用商標1:CORE(標準文字)
登録番号:登録5611369
登録日:平成25年8月30日
指定商品:第9類 電子応用機械器具及びその部品 等

引用商標2:コア(標準文字)
登録番号:登録5611370
登録日:平成25年8月30日
指定商品:第9類 電子応用機械器具及びその部品 等

(3) 手続の経緯

原告は,平成29年11月6日に,本願商標について出願し,平成30年11月9日付けで拒絶査定を受けたので,平成31年2月12日に,拒絶査定不服審判を請求した。

特許庁は,上記の不服審判請求について,令和元年6月25日に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,本件審決の謄本は,同年7月9日に原告に送達された。

(4) 審決の要点
①「CORE」の文字部分について
本願商標の構成中,前半の「CORE」の文字部分は,「ものの中心部。中核。核心。」の意を有する語であって,我が国においても広く知られている語であり,本件指定商品との関係では,その商品の普通名称や品質等を表示するものであるなど,商品の出所識別標識としての機能を果たし得ないと見るべき事情は見当たらないというべきである。

②「ML」の文字部分について
本願商標の構成中,後半の「ML」の文字部分は,本件指定商品との関係において,商品が「MachineLearning(機械学習)」を内容とするものであることを,取引者,需要者に理解させるものであって,商品の品質を表す語として認識されるにすぎないものであるから,商品の出所識別標識としての機能が極めて弱いか,又はその機能を発揮しない。

③本願商標の要部
以上より,本願商標は,その構成中,前半の「CORE」の文字部分が強く支配的な印象を与えるものとみるのが相当であるから,当該文字部分を要部として抽出し,この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許される。

④本願商標と引用商標の類否判断
本願商標の要部である「CORE」の文字部分と引用商標1とは,外観,称呼及び観念において同一であるから,本願商標は,引用商標1と互いに類似する商標というべきである。

本願商標の要部と引用商標2とは,称呼,観念を同一にするものであって,外観における差異も特段印象付けられるものではないから,本願商標は,引用商標2と互いに類似する商標というべきである。

 

2.主な争点

 

本願商標の一部である「CORE」の部分を抽出して,引用商標と比較することができるか

 

3.裁判所の判断

結合商標の類否については、商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,分離観察は原則として許されないと解されます(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

 

本件訴訟では、上記基準にのっとり、本願商標を「CORE」の文字と「ML」の文字とからなる結合商標であると認定した上で、裁判所は以下のように判断しています。

①「CORE」の文字部分について
裁判所は、「「CORE」の語が本件指定商品に使用された場合,「中心部,中核,核心」などの一般の辞書に掲載されている意味のどれとも認識されないか,認識されるとしても,せいぜい「中心部,中核,核心」という意味と認識されるにすぎないというべきである。」と判断しました。

②「ML」の文字部分について
裁判所は、「「ML」の語には,「マシーンラーニング(MachineLearning)」,「メーリングリスト(mailinglist)」,「マークアップ言語(MarkupLanguage)」の略語の意味があることが認められる。」としながらも、以下の事情を考慮し、「本件指定商品に,「CORE」の語の末尾に1文字開けて「ML」を配した語が使用された場合,「ML」から,何らかの観念が生じると認めることはできない。」と判断しました。

(マシーンラーニング MachineLearningについて)
・「ML」の語が何らの説明もなく使用された場合,「マシーンラーニング(MachineLearning)」の略語を意味すると認識されるとはいえない。
・ブランド名と「ML」を結合し,「ML」を「MachineLearning」として用いる例があるとしても,「CORE」のみでは,本件指定商品との関係ではブランド名とは認められない。

(マークアップ言語(MarkupLanguage)について)
コンピュータ関連の用語辞典には,「ML」を「マークアップ言語」を意味するものと説明しているものはない。
本件証拠上,「ML」の語が「マークアップ言語」の略語の意味として使用されていると認められる例は,「SGML」,「XML」,「HTML」のみである。

(メーリングリスト(mailinglist))について
「IT用語辞典e-Words」の他に,「ML」の語が「メーリングリスト」の意味で使用されている例を示す証拠は提出されていない。

③本願商標の要部抽出の可否
以上からすると、本願商標が本件指定商品に使用された場合,「CORE」の部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできないのに対し,「ML」の部分が「CORE」の部分に比べて特段出所識別標識としての機能が弱いということはできないとして,裁判所は、「本願商標と引用商標との類否を判断するに当たっては,本願商標全体と引用商標を対比すべきであり,本願商標から「CORE」の部分を抽出し,これを引用商標と対比してその類否を判断することは許されないというべきである。」と判断しました。

④本願商標と引用商標の類否判断
本願商標全体と引用商標1、2を対比した結果、裁判所は、「本願商標の「COREML」の「CORE」の部分と,引用商標1の「CORE」及び引用商標2の「コア」では,「中心部,中核,核心」といった観念が生じる点で,観念が共通することがあるものの,上記のとおり,本願商標と引用商標1,2とは,称呼と外観において異なっており,称呼における差異は大きいことからすると,本願商標は,引用商標のいずれとも類似していない。」と判断しました。

 

4.実務上の指針

(1) 結合商標を構成する各部分の識別力と、分離抽出の可否について

本件訴訟で裁判所は、分離観察を認めた審決の判断を覆し、本願商標の一部である「CORE」の部分のみを抽出して引用商標と比較することは認められないと判断しています。

ローマ字2字からなる部分は出所識別標識としての称呼、観念が生じないとされて、結合商標において、本件審決のように分離観察される場合もあると考えますが、本件訴訟では、本件指定商品の取引実情が考慮されて、「CORE」と「ML」の二つの部分それぞれの出所識別機能を検討した結果、分離抽出できないとの結論が導かれています。

すなわち、本件訴訟では、
「CORE」の部分は、せいぜい「中心部,中核,核心」といった一般的な意味が認識されるにすぎず,「CORE」の部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできないと認定されるとともに、
「ML」の部分から特定の観念を生じることはなく,「ML」の部分が「CORE」の部分に比べて特段出所識別標識としての機能が弱いということはできない
と認定されたことにより、「CORE」の部分のみを抽出して引用商標と対比することはできない、との判断がなされました。

本件訴訟は、結合商標である本願商標を構成する部分の出所識別機能を検討し、特に、アルファベット2文字からなる部分につき、取引の実情を考慮した上で、識別標識としての機能が弱いということはできないとし、本願商標は分離観察できないとの判断がなされている点が、参考になる事案です。

 

(2) 引用商標の商標権者の立場からの検討

本事案を引用商標の商標権者の立場から考えると、登録商標「ABC」に、識別力が強くないと思われる語「〇〇」をくっつけた結合商標「ABC 〇〇」が、登録商標「ABC」と非類似と判断される可能性を本事案は示唆しています。

登録商標「ABC」を有していても、使用商標が「ABC 〇〇」の場合、「ABC 〇〇」について第三者が出願して商標権を取得する可能性があるかもしれません。そうした場合、商標権者が「ABC 〇〇」を使用できなくなってしまうおそれがあります。

もし登録商標と異なる態様で使用するなら、実際に使用する態様の商標について、出願して権利化する必要があるといえるでしょう。また、そうすることで、登録商標を使用していないとして、登録が取り消されるリスクを回避することができると考えます。

 

 

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