初めまして。あいぎ特許事務所の岩田と申します。
「名古屋の商標亭と意匠亭」の投稿メンバーに加えていただきました。
まだまだ勉強中の身ではありますが、よろしくお願いいたします。
先週末、弁理士試験の最終関門である、口述試験が行われました。
特許庁の公表によると
意匠は、1日目が「関連意匠制度」で2日目が「一意匠、組物の意匠、内装の意匠」
商標は、1日目が「色彩のみからなる商標」で2日目が「商標法第52条の2の審判」が出題されたようです。
今月頭に行われた口述練習会で、私は恐れ多くも意匠分野の講師役を務めさせていただいたのですが、まさしく「関連意匠制度」についてあれこれ質問しておりました。
受験生の方が落ち着いて回答できていると嬉しいですね。
さて、今回ご紹介する商標の審決も、口述試験テーマにちなんで52条の2の審判、いわゆる「商標権の移転に伴う商標権者の不正使用による取消審判」の事例にしようかと思ったのですが、いかんせん2012年以降の審決例が見当たらず。
代わりに50条の不使用取消審判からのご紹介です。
商標は、黒猫を擬人化したキャラクターの図形の右下に、「ふてねこ」の文字が記載されているものです。
9類の指定商品のうち、「インターネットを通じてダウンロード可能な映像・画像,録画済ビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物,家庭用テレビゲーム機用プログラム」に対して不使用取消請求され、被請求人がいくつか証拠を提出しましたが、いずれも使用証拠として認められず、取消となりました。
被請求人は、平成27年(2015年)6月12日に本件商標の登録後、同年にLINEスタンプとして登録・販売し、現在に至るまで販売中のため、本件審判の請求は成り立たない旨を答弁しています。
証拠として提出されたのが「LINEスタンプの販売ページ、売上レポート、アイテム管理の出力物」です。
これに対し、審判官の判断は、次にようになりました。
まず、LINEスタンプのタイトルについて
『被請求人は、「nenneko」又は「ねんねこ」のタイトルでLINEスタンプを販売したといえる。
他方、本件商標(別掲)は、上記第1のとおり、黒猫を擬人化したキャラクターの図形の右下に「ふてねこ」の文字を書してなるものである。
よって、本件商標と「nenneko」又は「ねんねこ」の文字とは、称呼、観念及び外観が相違するから、これらの文字によって、本件商標と同一又は社会通念上同一の商標が使用されたということはできない。』
となっています。
実は、LINEスタンプのタイトルになっているのは被請求人の別のキャラクターである白猫の「ねんねこ」で、販売ページの先頭にあるアイコン画像も、白猫の「ねんねこ」になっていました。
「ねんねこ」と「ふてねこ」は明らかに違う商標なので、本件商標の使用証拠とは認められませんね。
次に、LINEスタンプの紹介文についてですが
スタンプの紹介文には、「りらっくすで平和主義な主人公、白ねこの「ねんねこ」、ちょっとやんちゃな黒ねこの「ふてねこ」、甘えん坊さんな三毛ねこの「そいねこ」のスタンプ第1弾。」の記載があり、文言上は本件商標の文字部分である「ふてねこ」が含まれています。
しかし、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できる態様での表示であるとは認められませんでした。
LINEスタンプに登場するキャラクターの紹介であって、誰がこのLINEスタンプを販売しているかという情報ではないので、いわゆる出所表示機能を果たしていないということですね。
最後に、LINEスタンプの画像については、
『LINEスタンプ販売ページ(乙1、乙2)には、「ちょっとやんちゃな黒ねこの「ふてねこ」」の記載、及び様々な表情を有する黒猫を擬人化したキャラクターのスタンプ画像が表示されているものの、本件商標を構成する黒猫を擬人化したキャラクターの図形と同一の図形からなるスタンプ画像は見当たらない上、これらの表示は、LINEスタンプそのものを表したと理解されるものであって、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できる態様での表示であるとは認められない。』
という判断がされています。
つまり、仮にLINEスタンプの画像のうちの一枚に、登録商標と全く同じイラストがあったとしても、いわゆる「商標としての使用」とは認められません。
LINEスタンプの画像は、「インターネットを通じてダウンロード可能な画像」そのものなので、誰がこのLINEスタンプを販売しているかという情報ではないということですね。
まとめると、キャラクターを商標として登録している場合、
不使用取消審判でせっかくの商標を取り消されないためには、次のことに注意する必要があります。
・登録商標と同一の画像(同じ表情&ポーズの画像)を使用しておく。
・登録商標が画像と文字のセットになっている場合(キャラクターのイラストと名前など)、セットで使用しておく。
・LINEスタンプの画像のうちの一枚に使用していても、販売元を示すような使い方ではないので、使用証拠とは認められない。
それぞれ基本的なことでもありますが、実際に審決例として出ていると、お客さんへの説得力がある気がします。
ちなみに、本件の本筋ではありませんが、
審決文を読む限り、LINEスタンプではスタンプのタイトルを英語と日本語で登録でき、被請求人が提出した売上レポートには、英語タイトル名である「nenneko」の方が記載されていたようです。
そして、審判官は日英タイトル双方を使用商標と認めているように見受けられます。
本件では、双方ともに登録商標に類似するものではなく、日本語タイトルの音訳がそのまま英語タイトルになっているので判断に差は出ていません。
販売ページを英語に切り替えない限り、スタンプの英語タイトルは表示されないので、もし仮に登録商標と同一の商標を英語タイトルだけに使用している場合に、日本における商標の使用と認められるかは注意しなければならないところだと思います。
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