商標の判例紹介です。
「本件商標は、その構成中の『Jimny』部分が、結合商標において分離観察が許される場合の1類型『1部分が、取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合』に該当するため、各引用商標に類似し、かつ、本件商標が指定商品に使用されれば、スズキ(株)との間で、商品の出所について混同を生ずるおそれがある」と、審査基準通りの判断がなされた審決を、取引の実情を大いに考慮して取り消した事件です。
8月に審決を取り消す旨の判決が出た割には、まだ登録になっていないようなのが気になりますが。。。
さて、詳しい内容です。
審決取消請求事件(不服審判不成立に対する審決取消請求事件)
本件商標
指定商品:第16類「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」
引用商標1 引用商標2
■原告:エスエスシー出版有限会社
■結論:請求認容
■判決文はコチラ
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/267/093267_hanrei.pdf
■事案の概要
原告は、当初、第16類「印刷物」を指定商品として本件商標を出願したが、拒絶理由が通知されたため、指定商品を上記「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」と補正した。その後受けた拒絶査定に対して拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁は、「本件審判の請求は、成り立たない」との審決をした。
審決理由の骨子は、本願商標は、商標法4条1項11号に該当し、仮に同号に該当しないとしても、同項15号に該当するから、登録することができないというものであった。
■裁判所の判断:
一般的に、自動車メーカーが、自ら又は系列ディーラー等を通じて、自動車の関連グッズを販売したり、メンテナンス等の付随サービスを提供することは珍しくないが、本願商標の補正後の指定商品は、第16類「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」という極めて狭い市場において流通すると考えられる(いわゆるニッチな)商品である点に特徴があり、そのような本願補正商品についても、自動車の関連グッズや付随サービスに関する上記の一般論が妥当するのか等につき、取引の実情を明らかにした上、当該取引の実情に基づいて、商標法4条1項11号及び15号該当性の判断をする必要がある。
本裁判では、このような観点から、職権により原告代表者尋問が行われました。(珍しいことのようです。)これらの証拠調べから得られた認定事実が、取引の実情として裁判所の判断に考慮されました。
因みに、原告代表者は、元スズキの社員で、退職後、日本ジムニークラブ(ジムニーを通じて、その魅力を追求しながら会員相互の親睦を深め、これらの活動を広く紹介することを目的とするクラブ)を立ち上げ、その会長を務める方だそうです。拒絶理由通知や審決中、Jimny商標の著名性を示す別掲事項に、原告代表者さんの発言が引用されているところが興味深いです。
取消事由1:本願商標と引用商標の類否(商標法4条1項11号)の判断の誤りについて
。。。ところで、結合商標の構成部分の一部が、取引者・需要者に対して商品・役務の出所の識別標識として強く支配的な印象を与える場合、当該一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断するという手法が妥当することはある(最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。これを本件について見るに、確かに、Jimny商標(「Jimny (ジムニー)」)がスズキ社の製造販売するオフロード車の名称を表示するものとして、我が国の幅広い年齢層の自動車ユーザー等の間で広く知られていたことは上記のとおりであり、したがって、仮に、Jimny商標が「自動車」に使用された場合を想定すれば、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると判断することには十分な理由があるといえる。しかし、本件で問題とすべきは、本願商標を本願補正商品に使用したときに、取引者・需要者が出所識別標識としていかなる認識を有するかということである。
このような観点から考えると、まず、客観的な事実として、スズキ社を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」を発行している事実は認められない。のみならず、原告代表者によれば、スズキ社を含む自動車メーカーは、前述したジムニーのカスタマイズ市場(上記 2(2)ア参照)等に係る業務に対して、第三者の活動を側面から援助することはあっても、主体的に関わることは避けていることがうかがわれる。このような中、本願商標を使用した本願補正商品に接した取引者・需要者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系列ディーラー等が発行主体となっている(可能性がある)と認識するとは考え難い(そのような認識を基礎づける証拠は一切提出されていない。)。 なお、オフロード車の改造に関心を有しているであろう本願補正商品の取引者・需要者が本願商標に接した場合、本願商標中の「Jimny」 及び「ジムニー」の部分が、改造のベースとなる車両として強く支配的な印象を与えることは想像に難くないが(実際、本件雑誌がそれを意図 していることは明らかである。)、それは「出所識別標識」とは次元の異なる問題であり、「Jimny」及び「ジムニー」の部分を結合商標の要部として抽出する根拠となるものではない。 本件審決が、「本願商標は、その構成中の『Jimny』の欧文字及 び『ジムニー』の片仮名が強く支配的な印象を与えるものであり、引用商標との類否を判断するに当たって、当該文字を本願商標の要部として抽出し、これを引用商標と比較して商標の類否を判断することも許される」とした判断は、「商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与える場合」に結合商標の要部認定を認める前記最判の趣旨を正解しないものといわざるを得ない。
「次元の異なる問題」 魔法の杖ですね!
取消事由2:本願商標に係る「混同を生ずるおそれ」(商標法4条1項15号)の判断の誤りについて
。。。そこで、次に、本願商標の指定商品(本願補正商品)とスズキ社の業務に係る商品・役務との関連性について検討する。
ア 上記1(3)でも述べたように、自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて自動車の関連グッズを販売したり付随サービスを提供したりすることは珍しくないと解され、スズキ社においても、オフロード車(ジムニー)そのものにとどまらない一定の商品・役務につき、周知のJimny商標に係る信用を利用して、ジムニー関連ビジネスというべき業務を展開することは十分考えられる。
イ しかし、本願商標の指定商品(本願補正商品)は、第16類「オフロー ド車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」という極めてニッチな商品であるところ、取引の実情として先に認定したとおり、スズキ社を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」を発行している事実はなく、また、本願商標を使用した本願補正商品に接した取引者・需要者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系列ディーラー等が発行主体となっている(可能性がある)と認識するとも考え難い。
加えて、スズキ社は、原告が本願商標の構成と同じ題名の本件雑誌を 10年以上にわたって発行していることを知悉しながら、Jimny商標との関係での誤認混同を生じさせるといった警告、クレームを原告に伝えたことがないばかりか、原告に広告料を支払って本件雑誌にジムニーの広告を掲載するなどして本件雑誌の発行を援助していることも前述のとおりである。
ウ 以上の事実関係に原告代表者の供述を総合すると、スズキ社がJimny商標の下で展開する業務としては、オフロード車(ジムニー)そのものにとどまらない関連グッズ、付随サービスを含み得るものではあるが、 「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」に係る業務は、スズキ社又はその系列ディーラー等とは直接関係のない第三者によって提供されているのが実情であり、スズキ社とは抵触関係に立たない「棲み分け」が成立していると認められる。
(3) 以上によれば、本願商標を本願補正商品に使用したとしても、スズキ社 のJimny商標に係る商品・役務との混同を生ずるおそれは認められないというべきである。よって、本願商標は、商標法4条1項15号に該当するものではない。 なお、Jimny商標に係る商品(オフロード車)と本願商標の指定商品 (本願補正商品)の取引者・需要者は、相当程度共通していると推認されるが、そうだとしても、上記判断が左右されるものではない。
[担当:上田]
コメント