歌手名・アーティスト名をそのまま表示した商標について、新しい審決が出ていましたのでご紹介いたします。
レコード等に、よく知られた歌手名・アーティスト名・音楽グループ名等をそのまま表示した商標は、第3条第1項第3号に該当し、商標登録を受けられないことになっています。
「LADY GAGA」事件が有名ですね。
レコード等を指定商品とする商標「LADY GAGA」は登録が認められませんでした。
LADY GAGAさんの歌が記録されたレコードを売りたい人は、レコードに「LADY GAGA」と書いて売りたいですよね。
消費者も、レコードに「LADY GAGA」と書いてあれば、LADY GAGAさんの歌が聴けると思って買います。また、LADY GAGAさんの歌が聴きたい時には「LADY GAGA」と書いてあるレコードを探します。
小説のジャンルにミステリーがあるように、レコードのジャンルにLADY GAGAさんの歌がある、くらいのイメージでしょうか。LADY GAGAさんの歌さえ聴ければ、どこのレコード会社が出したレコードなのかを気にしない人もいるでしょう。
つまり、LADY GAGAさんくらい有名なると、かえってレコード会社としての出所表示機能が小さくなり、レコードの内容を紹介したもの(=商品の質を表示したもの)になり、みんなが使用したいので、レコード会社に独占させるわけにはいかないというわけです(第3条第1項第3号)。
また、LADY GAGAさんの歌が録音されていないレコードに「LADY GAGA」と表示する場合は、商品の品質について誤認を生じるおそれがあるため、第4条第1項第16号に該当します。
ところで、歌手名等そのままの商標登録が認められない指定商品役務は、レコードだけでしょうか。
実は、今回ご紹介する審決は、この点に広がりをもたせてくれるものなのです。
審査基準では、
「録音済みの磁気テープ」、「録音済みのコンパクトディスク」、「レコード」だけが挙げられています。
先に挙げた「LADY GAGA」事件(知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第10158号同年12月17日判決では、
指定商品のうち、「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」が第3条第1項第3号に該当すると判断されました。
さらに、不服2022-15789(商標「マックス チャンミン」)の審決では
「レコード,インターネットを利用して受信し及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物,映写フィルム,スライドフィルム」について、商品の品質(内容)を表示したものにあたるとされました。
本願商標は、上記1のとおり、「マックス チャンミン」の文字を標準文字にて表してなるところ、原審で提示した証拠(別掲1)によれば、「マックス チャンミン」の文字からは、韓国の音楽グループ「東方神起」のメンバーの一人を表したものと認識されることが認められる。
ところで、原審説示のとおり、いわゆる音楽CDや映像DVD等には、その媒体の表面ないしジャケットに、音楽CDや映像DVD等に記録された内容(コンテンツ)を総称するタイトルや個々の収録曲のタイトルのほか、その収録曲を歌唱する歌手等の名前も表示されていることは、これら商品の需要者に広く知られているところであり、通信ネットワークを通じた音楽・映像等の販売や提供においても同様のことがいえる。
そして、これらの実情及び「マックス チャンミン」に係る音楽CD等が販売されていることは、別掲2ないし8のとおり、当審における職権調査からも、うかがい知ることができる。
以上よりすると、「マックス チャンミン」の文字からなる本願商標を、その指定商品「レコード,インターネットを利用して受信し及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物,映写フィルム,スライドフィルム」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、当該商品に係る収録曲を歌唱する者、又は映像に出演し歌唱・演技等する者(出演者)を表示したもの、すなわち、商品の品質(内容)を表示したものとして一般に認識するというのが相当である。
そして、不服2023-3061(商標「Aimer」)の審決では、
「インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル,録画済みの磁気カード・磁気シート・磁気ディスク・光ディスク・ビデオテープ・ビデオディスク・DVD,電子出版物」についても同様であるとの判断がなされました。
「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」においては、当該商品に係る収録曲を歌唱する者、又は映像に出演し歌唱している者が誰であるかは、当該商品の主要な品質(内容)に該当するものである(知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第10158号同年12月17日判決)。
このことは、「インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル,録画済みの磁気カード・磁気シート・磁気ディスク・光ディスク・ビデオテープ・ビデオディスク・DVD,電子出版物」についても同様であると解される。
オンラインで提供される音楽・画像ファイルや、録画済みビデオディスクなどの映像の記録物、さらには電子出版物まで含まれると解釈されるようになっているのが面白いですね。
[担当:岩田]
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