<平成27年(行ケ)第10134号 審決取消請求事件>(判決文はこちら)
金曜日は今年最初の「だが屋」で楽しすぎて、危うく終電を逃すところでした。皆さまありがとうございました、次回5月にまたお会いいたしましょう。
さて、本日は、久しぶりの判例紹介です。先週ニュースにもなった、オムロンさん vs. タニタさんの商標事件の判決を取り上げます。
体脂肪計、タニタの商標無効 知財高裁、オムロンに軍配 -朝日新聞DIGITAL 2016年2月17日
オムロンさんとタニタさんといえば、意匠権侵害訴訟(「Karada Scan214」の意匠権vs.「FitScan FS─100」)で和解されたことが、記憶に新しいところです。
今回は、タニタさんの「デュアルスキャン\DualScan」商標(本件商標)の登録に対し、オムロンさんが自己の「DualScan」登録商標を引用して(引用商標)、4条1項11号で無効審判請求したところ、JPOが請求不成立の審決をしたので、オムロンさんが訴訟を提起した、という事案です。
■経緯とか
ところで、なぜ「DualScan」同士が併存登録できたかというと、両商標の指定商品の類似群コードが異なっていたため、JPOの一律的な審査では「非類似」と推定されたためのようです。
つまり、オムロンさんの「DualScan」(引用商標)は第10類「体脂肪測定器,体組成計」(類似群コード10D01。なお、現在は10C01も付与されていますが、本判決を反映したためかも。2016.2.18現在、J Plat-Patの「商品・役務検索」ページで「体脂肪測定器,体組成計」を検索すると、10D01のみしか付与されていません。)を指定して登録されていた一方、
タニタさんの「デュアルスキャン\DualScan」(本件商標)は第9類「脂肪計付き体重計,体組成計付き体重計,体重計」(類似群コード10C01)を指定していたため、
非類似と推定されたと思われます(現に、タニタさんの出願には拒絶理由通知が出されることなく一発登録されています)。
ちなみに、オムロンさんの「DualScan」は、出願当初、第10類「体脂肪測定器,体組成計,その他の医療用機械器具」とされていましたが、3条1項各号・4条1項6号の拒絶理由を受けて、「,その他の医療用機械器具」を削除補正した上で、登録に至った模様です。
本件商標は、商標自体が引用商標と類似することは一目瞭然ですので、指定商品が類似するといえるか?が争点となりました。
■実際の商品とか
さて、ここで、実際の商品を見てみましょう。
オムロンさんの「DualScan」。
http://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news/2011/0517.html
指定商品が、医療用機械器具を念頭に置いていたこともよくわかります。
タニタさんの「DualScan」…? ∑( ̄□ ̄;)「Innner Scan」「Dual」(そもそもこの名称だったのかな…?それとも変えたのかな…?)
http://www.tanita.co.jp/content/innerscandual/rd902_903.html
仮にこれだったとしたら、いわゆる家庭用体脂肪計ですね…
■JPO審決での判断
上記のとおりJPOは、オムロンさんが請求した無効審判において、本件商標は引用商標とは類似しない(指定商品が非類似)と判断し、請求不成立の審決をしました。
審決中では、取引の実情(品質,用途,生産部門,販売部門,需要者の範囲)も検討されていますが、ざっくりいうと、本件商標の指定商品は家庭用で一般消費者が需要者であり、引用商標の指定商品は衣料用で医療従事者が需要者であり、誤認混同のおそれはない…といった旨判断されました(判決文4-5頁)。
■裁判所の判断
○裁判所は、まず、指定商品の類否についての判断基準の大枠を示してます。
該当部分を抜粋いたします(判決文29-30頁)。
『指定商品の類似性の有無については,「それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞がある認められる関係にある」か否かにより判断されるべきであり(最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁),「商品の品質,形状,用途が同一であるかどうかを基準とするだけではなく,さらに,その用途において密接な関連を有するかどうかとか,同一の店舗で販売されるのが通常であるかどうかというような取引の実情をも考慮すべき」である(最高裁昭和39年6月16日第三小法廷決・民集18巻5号774頁)。そして,「商品自体が取引上互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは,同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがある場合」には,「類似の商品」に当たると解すべきである(最高裁昭和43年11月15日第二小法廷判決・民集22巻12号2559頁)。なお,上記判断は,誤認混同のおそれの判断は,商標の類似性と商品の類似性の両方が要素となり,これらの要素を総合的に考慮して行うことを示すものであるが,商品の類似性は,商標の類似性とは独立した要素であり,登録に係る商標や引用商標の具体的な構成を離れて,判断すべきである。』
○次に、本件についての検討をしています。
・まずは、本件商標と引用商標の指定商品について。
裁判所は、「区分」の分類の仕方に則って、
引用商標の第10類指定商品「体脂肪測定器,体組成計」は、
『医療行為に供する程度の品質,性能を保有することが予定されている体脂肪率,筋肉量,基礎代謝量等の体組成の測定機器を指すものというべきである』とし(判決文32頁)、
引用商標の第9類指定商品「脂肪計付き体重計,体組成計付き体重計,体重計」は、
『体脂肪率,筋肉量,基礎代謝量等の体組成や体重の測定機器を指すというべきである。そして,測定の対象自体は引用商標の指定商品と重なる部分があるが,医療行為に供することが予定されていないという意味において,医療行為に供する場合よりも,品質や性能が劣るものを予定しているというべきである』(判決文32-33頁)としています。
なお、原告のオムロンさんは、一つの商品の区分の帰属が択一関係にあることを否定すべき旨主張されておられましたが、
裁判所は、『省令別表は,特定の商品が多数の類型に同時に属することを,本来,予定していないと解するのが相当というべきである』(判決文33頁)として、この点については原告さんの主張を退けています。
・次に、本件商標と引用商標の指定商品に関する取引実情について。
裁判所は、取引実情を検討する理由として、このように述べています(判決文35-36頁。下線は私が付しました)。
『本件商標の指定商品は,医療行為に供する性能を有しない体重計で,体脂肪率の測定機能やそれ以外の体組成の測定機能の付いたものと,それらの機能が付加していないものを全て含む。本件商標の指定商品と引用商標の指定商品との違いは,医療行為に供する性能の有無と,体重測定機能のみを有する機器を含むか否かという点にあり,測定対象自体は共通する部分があるところ,家庭用として販売されている体重計であっても,体脂肪率やそれ以外の体組成の測定機能を有する機種も多く,このような機種は体脂肪計や体組成計でもあるといえるし,医療用として販売される製品の中にも体重測定機能しかない機種も存在する。そして,体脂肪率の測定機能が付加した体重計につき,体脂肪計と区別するために体重体組成計と称する場合もあれば,単に体組成計や体脂肪計と称する場合もあり,その呼称はメーカーや商品により異なり,体重測定機能しかない機器を特にヘルスメーターと称することもあるが,呼称自体に特に意味はない。内臓脂肪などの体脂肪の測定機能を有した大型機器の呼称も,内臓脂肪測定装置,腹部脂肪計などと様々であるが,いずれも体脂肪率を測定する機能を有するものである。機器の性能や機能の有無,内容,精度は必ずしも外観だけではしゅん別できないから,需要者に対する誤認混同が生じるおそれがある商品といえるか否かを判断するためには,性能や測定対象の内容いかんにかかわらず,体脂肪率を測定する機能を有する機器である体脂肪計,それ以外の体組成の測定機能を有する機器である体組成計,体重を測定する機能を有する機器である体重計(当然,複数の属性を兼ねる場合があるが,必要がない限り,以下,明示しない。)全てを対象として,取引状況を見ていくこととする。』
そして、裁判所は、生産部門、販売部門、価格及び性能、需要者に関する事情、市場のシェアについて、詳細に検討しています(判決文35-53頁)。
裁判所は、本件商標と引用商標の指定商品の類否につき、どのような結論に至ったのでしょうか。
関連部分を一部抜粋します(判決文55-56頁)
『…エ このように,家庭用の体重計の需要者である一般消費者は,医療用の体組成計,体重計も入手可能な状況となっていたといえる上に,医療用の体組成計,体重計は,医療現場での利用に限定されず,学校やフィットネスクラブ,企業等でも利用されるから,その需要者は,医療関係者に限定されず,学校関係者やフィットネス関係会社,企業の物品購入部門,健康管理部門の従業員も含まれる。そして,医療用の体組成計及び体重計のシェアの正確な数値は不明であるが,被告の医療用の体組成計の販売台数は相当数に及び,販売シェアも小さくないから,これらの需要者は,家庭等で被告の家庭用の体組成計を目にするだけでなく,学校やフィットネスクラブ等で被告の医療用の体組成計を目にする機会もあることが推認される。
また,一般消費者の一部を構成する医療従事者は,一般消費者よりも高い注意力をもって商品を観察するとはいえ,医療用と家庭用の両方の製品を製造し,家庭用のシェアの大半を占める原告と被告の製品に日常的に接することになるから,医療用製品の出所について,家庭用製品の出所と区別して認識することが困難な状況といえる。
さらに,その他の学校関係者,フィットネス関係会社や企業の物品購入部門,健康管理部門の従業員には,一般的な消費者も含まれており,しかも,医療用と家庭用の体重計,体組成計の測定対象は同じであり,性能等が近づきつつあるといえる上に,精度の違いは一般消費者には識別し難い場合があることから,性能による明確な区別も困難である。
オ よって,本件査定時においては,医療用の「体脂肪測定器,体組成計」と家庭用の「脂肪計付き体重計,体組成計付き体重計,体重計」は,誤認混同のおそれがある類似した商品に属するというべきである。…』
以上のように、本件商標と引用商標の指定商品は類似と判断されました。
○最後に、被告さんの主張に対する判断が述べられています。
このうち、特に気になった部分だけ触れたいと思います、
・“出願経過(当初指定商品から「その他の医療用機械器具」を削除したこと)からすると、オムロンさんが非医療用の商品について保護を求める意図はなかったので非類似の根拠となる”という主張に対して、
裁判所は、“本件は、出願経過を考慮すべき侵害訴訟でなく4条1項11号該当性を問題とする事案であるため、出願人の主観的意図とは切り離して考えるべき”旨判示しました(判決文56頁)。
その他の被告さんの主張に対しても、裁判所は、採用できない旨述べています。
○以上のように、判決では、結論として、JPOの審決は取り消されるべき、とされたのでした。
■コメント
本件は、“商品役務の類似は、類似群コードによって類似/非類似が推定されるものの、最終的には、取引実情も加味して、需要者が誤認混同するか否かで決定される…”という基本に立ち返った事例ともいえるのではないかと思います。
だけど、こんだけ詳細に取引実情を検討する等して商品・役務の類否判断を行うのは、日々の審査では、ぶっちゃけ やっとられん-ってことで、類似群コードの制度が存在するわけです。
ところで、自己の出願が、引用商標の商品や指定商品・役務と「類似」と推定されて、4条1項11号の拒絶理由を受けることは、たいていの場合想定範囲内だと思います(出願前に調査しているため)。この場合は、出願時から、類似の推定を覆す覚悟の上で臨んでいると思います。
けど、引用商標の権利者がコンペティターですと、たとえ登録できたとしても、かなり危険な臭いがするので、出願を躊躇することが多いのではないでしょうか。
一方、コンペティターが製造販売する商品のテリトリーに割に近いかも…という商標or商品・役務でも、すんなり登録できてしまうことが想定される場合は、出願を躊躇するか…? の見極めは、最終的には企業さんの経営方針だとか業界事情等、色んな要因で決定されると思います。
特に、今回の事案では、実務上、第10類の医療機器は薬事法の認定が必要で、第9類の計測器は薬事法の認定が不要である、という明確な棲み分けができていたようですので、出願に至ったのかもしれません。
ただ、コンペティターさんとの関係で微妙なラインを突いた登録したものであったり、競合範囲がその商品・役務にとどまらない場合は、コンペティターさんが無効にしたくなる商標、ということにもなる可能性があるでしょうから、出願するという結論になったら、登録後に紛争に巻き込まれることも、念のために想定しとかんとかん…と改めて思いました。
ギリギリ(?)登録できた商標については、“登録できたものの後に争いに巻き込まれて、結局、無効になる等して使えなくなった(名称を変えざるを得なくなった)…”という過去の事例を、ここのところのセミナー等でも取り上げていましたが、今回の件も踏まえて、決してレアケースではないと思いました…。自ら肝に銘じたいと思います。
今日はこれでおしまい!
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