Re就活事件で詠む

Re就活事件(平成30年(ワ)第11672号 商標権侵害差止等請求事件)

 

使ってて 登録しても 侵害か
 業態違いで 損害わずか

 ※1段目の詠み人:岡村さん( Brandesign @zohebu_D_nosomo )

【解説】

原告さん登録商標「Re就活」vs 被告さん使用標章「リシュ活」の商標権侵害事件を詠んでみました。
すでに和解で決着をみている事件です。この地裁判決では被告さんの侵害が認められていました。

○1段目 「使ってて 登録しても 侵害か」
被告さんは、訴訟提起後に「リシュ活」(標準文字)を商標登録を得て、異議申立でも維持決定が出ているんですね(異議2019-900352)。
特許庁では「Re就活」vs「リシュ活」は非類似判断となったわけですが、裁判所で判断される侵害事件では、被告さんが実際に使用している商標の態様を問題とし、具体的な取引実情も重視するので、特許庁判断とは異なることがあります。この事件では、平たくいえば「求職者は気軽な感じでサービスを利用してて、なんとなく覚えてる称呼で検索するので、混同しやすいよねー」(←かなりの意訳)と認定されて、被告さんの使用行為が侵害と判断されました。
ちなみに、被告さんは、登録商標使用の抗弁は主張してません(登録商標使用の抗弁の関連判例は下記をご参照ください)。

○2段目「業種違いで 損害わずか」
原告さんは損害額として1億円を請求してました。
ですが、38条2項の損害額については、被告さんの役務提供の対価として得たシステム使用料 223 万 9196 円が認定された一方、被告さんの経費(ウエブページ制作費、メンテナンス費、履修履歴データ利用料、バナー設置費用、ドメイン更新料等)として約 264 万円が認定されたため、売上より経費が上回ってるじゃん…ということで、 38 条 2 項に係る原告さんの主張は認められませんでした。

また、38条3項の損害額については、原告さんが第二新卒向けのサービスを行っていて、被告さんは学生向けのサービスを行っていたので、直接競合しないよね、なので原告さん商標の顧客吸引力はそれほど高くないよね、ということで、(ライセンス使用料のアンケート結果から)使用料相当額を10%と認定し、上記売上高 223 万 9196 円の 10%にあたる 22 万 3919 円が損害額と認定されました。これに弁護士費用 22 万円が加算され、合計 44 万 3919 円の損害賠償となりました。

 

この事件はその他にも個別に注目すべき論点がありますので、是非判決をご覧ください~

 

判決文 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/994/089994_hanrei.pdf

判決日 事件番号 裁判所 種別 本件商標 結論 被告商標 使用商品役務
2021/1/12 平成30年(ワ)第11672号 大阪地裁 商標権侵害差止等請求事件 「Re就活」(標準文字 ) 一部認容(侵害認定)

35 類「広告、求人情報の提供ほか」
事案の概要(抜粋・簡略)
原告は,インターネット上に本件商標を掲げたウェブイトを開設し,求人企業の依頼を受けて,「第二新卒」の求職者を対象とした求人広告や就職活動に関する情報を掲載するとともに,会員登録をした求職者に対し,希望条件等に合致する求人企業の求人情報等のメールを送信するサービスを実施している。

被告は,被告標章1である「リシュ活」を含む複数の標章を使用し,①スマホアプリによる大学生求職者向けウェブサービス,②求人企業向け履修履歴オファーサービスに関する広告を内容とするパンフレット,価格表,取引書類を展示,頒布し,また,インターネット上で被告役務を提供し,被告役務に係る情報を掲載している。

判決(抜粋・簡略)
 ○争点1(役務の類否)について
・被告は,「リシュ活」のサービスは,企業にオファーメッセージの送信のためのプラットフォームを利用可能とするものであるので,指定役務区分第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に区分され,学生にアプリ「リシュ活」を提供するものであるので,同じく第9類の「ダウンロード可能なコンピュータソフトウェア」に区分される役務であると主張。
・これに対し裁判所は,①は「求人情報の提供」に,②は「職業のあっせん」,「求人情報の提供」に類似すると判断。○ 争点2(本件商標と被告標章の類否)について
(ア) …外観は同一ではなく,類似するものとも認め難い。
また,…観念の点において,両者が同一又は類似ということはできない。
しかしながら,称呼においては,両者は長音の有無が異なるに過ぎず,長音は他の明確な発音と比べて比較的印象に残りにくいことから,離隔的に観察した場合,同一のものと誤認しやすく,極めて類似しているといえる。…本件商標も被告標章1も造語であるため,固定したアクセントがあるわけではなく,時と場所を異にしてもアクセントの違いで区別できるほど,印象が異なるものとは認め難い。(イ) 取引の実情を踏まえて検討するに,需要者である求人企業においては,…新規に正社員を採用するという企業にとって日常の営業活動とは異なる重要な活動の一環として行われる取引であるから,求人に係る媒体の事業者が多数ある中で,どの程度の経費を投じていかなる媒体でいかなる広告や勧誘を行うかは,各事業者の役務内容等を考慮して慎重に検討するものと考えられ,外観や観念が類似しない本件商標と被告標章1について,需要者である求人企業が,称呼の類似性により誤認混同するおそれがあるとは認め難い。
しかしながら,求職者についてみると,…気軽に利用できるように簡単に会員登録ができることを宣伝しているところ,情報を得て就職先の選択肢を広げる意味で複数のサイトに会員登録する動機がある一方で,複数のサイトに会員登録することに何らの制約もなく,現実に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録していることが認められる。そうすると,求職者については,必ずしも役務内容を事前に精査して比較検討するのではなく,会員登録が無料で簡易であるため,役務の名称を見てとりあえず会員登録してみることがあるものと考えられる
そして,本件商標も被告標章1も短く平易な文字列であり,発音も容易であること,本件商標に係る役務や被告役務はインターネット上で提供されているところ,インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法としては,検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり,正確な表記ではなく,称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており,ウェブサイトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるようにしていることが広く知られていることからすれば,需要者である求職者は,外観よりも称呼をより強く記憶し,称呼によって役務の利用に至ることが多いものというべきである
そうすると,求職者が需要者に含まれるという取引の実情にかんがみれば,需要者に与える印象や記憶においては,本件商標と被告標章1とでは,外観の差異よりも,称呼の類似性の影響が大きく,被告標章1は特定の観念を生じず,観念の点から称呼の類似性の影響を覆すほどの印象を受けるものではないから,…必ずしも事前に精査の上会員登録するわけではない学生等の求職者において,被告標章1を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり,本件商標に係る役務と被告役務とが,同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがあると認められる
○争点4(損害の発生及び損害額)
※原告は1億円の損害賠償を求めていたが,判決が認定した損害額は弁護士費用 22 万円を含めて44 万 3919 円。
・38条2項の主張は認めず。認定された売上高より経費額が上回ったため。
・38条3項の損害額。ライセンスアンケート結果より売上高の10%と認定。+ 弁護士費用 22 万円加算=合計 44 万 3919 円。(3)商標法38条3項の主張について
…イ …,本件商標に係る役務は既卒の就職希望者や転職希望者を対象としたものであり,被告役務は新卒の就職希望者を対象としたものであるから,各役務に登録しようとする求職者が異なり,役務を利用しようとする求人企業もその差異を前提として使い分けることになり,役務自体は市場において競合する関係にはない。もっとも,前記のとおり,原告は,新卒求職者向けに「あさがくナビ」という名称の役務を提供しており,「あさがくナビ」との関係では,被告役務は競争関係にあるといえる。
また,原告は,本件商標に係る役務について多数の広告宣伝活動を行っており(甲47ないし270),前記のとおり,転職希望者の間で本件商標はある程度認知されているといえるが,本件商標は,「通常の時期よりも後に行う就職活動」ないし「再び行う就職活動」という観念を生じるから,通常の時期の新卒採用を希望する学生を対象とする被告役務とは整合せず,被告役務が本件商標に係る役務に関係があると認識させることによる顧客誘引力は,それほど高いものとは考え難い
備考・コメント
被告は「リシュ活」(標準文字)を35類「求人情報の提供」「職業のあっせん」,「求人情報の提供」等を指定して登録、異議申立されるも維持決定(異議2019-900352)。

その後、被告が商標権を侵害していないことを認める和解が成立している。

関連判例等
・インディアン事件(平成8年(ワ)第14026号)
 被告の商標登録が審判で無効とされ、登録商標の抗弁が排斥された。・モンシュシュ事件(平成23年第2238号,平成24年第293号) 被告の登録商標に無効事由があるとされ、登録商標使用の抗弁が排斥された。・モト事件(平成29年(ワ)第15776号)
 被告の登録商標に無効事由があるとされ、登録商標使用の抗弁が排斥された。・KAMUI事件(平成 24 年(ネ)第 10019 号)
 一部標章について登録商標使用の抗弁が認められた珍しい事例。

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