ぶっちゃけ「商標登録しなくていいんじゃない?」

twitterで下記のアンケートをとったら、面白い結果となりました。

(※実はアンケートフォーム失敗して「0」という回答欄がなかったです…。MECEになってなかった…、すみません汗)

 

結果を見ると、「商標登録した方がいい」と思った選択肢が3つという回答が一番多かい、ということですね(4つのうちどれを選んだかまでわからないですが)。

あえて色んな前提条件を示さなかったので、様々な考え方ができるのではないかと思います。
(※ちなみに『他人の出願商標/登録商標と被ってない』という前提だけは、暗黙の了解で…汗)

狙いどおり、いろいろ議論してくださった方もいらっしゃり、嬉しいです~。

 

以下、一つ一つについてコメントしていきます~。

 

1.知財の損益分岐点

そもそも事業として上手くいってない場合は、現実的に、
「商標登録うんぬんの前に、売上げ立てるの先じゃん?」
ってなりますね。
知財の権利を取得するにはお金がかかるので、回収できる程度の売上は欲しいと思うのは自然です。

ということであれば、
「4つ」
という回答になりますね。

ちなみに、知財の権利取得にかかるお金を回収できる損益分岐点について、過去に触れたことがあります。
売上高営業利益率から考察しています。
一つの考え方として、ご参考に~

https://aigipat.com/tm/2019/02/28/%e7%89%b9%e8%a8%b1-%e6%84%8f%e5%8c%a0-%e5%95%86%e6%a8%99%e3%81%ae%e6%a8%a9%e5%88%a9%e3%82%92%e5%8f%96%e5%be%97%e3%81%97%e3%81%a6%e3%82%82%e3%80%8c%e6%90%8d%e3%80%8d%e3%82%92%e3%81%97%e3%81%aa%e3%81%84/

 

2.長く続いている/続けたい事業に関係する名称(『①10年前からあるけどマニアにしか知られてないブティックの名前』)

とはいえ、知財は、”未来への投資”という面があります。
特に、商標の場合ですと、ある名前を長く使っててユーザーに浸透している場合は、その名前に一定の信用が蓄積していると思います。
なので、いま現在売上がそれほどなくても「今後も名称を変えたくない」という気持ちがあれば、登録しておく方が安心ではあります。

これ…

ポジショントークでもなんでもないっす!

つい先日も新規のお客様から「細々と使っていたごだわりの名称を、仲間割れした知人が登録してしまった」と悲痛なご相談があったり、
先月受けたセミナーでも講師の方の失敗事例として「社内勉強会として小さく始めた事業を徐々に外部でも行うようになって、いざ収益化しようとしたら、他人に商標登録されていて、非常に苦労した」ケースを挙げられてらっしゃいました。

というくらいに、珍しいことではないっす!

なので、
『①5年前からあるけどマニアにしか知られてないブティックの名前』
は商標登録すべき、
と考えられた方も少なくなかったのではないでしょうか。

 

3.短期間で終わってしまう事業に関係する名称(『②季節限定(単年)で販売するお菓子の名前』)

逆に、短期間で終わってしまう事業の名称はどうでしょうか。

事業開始後に、仮に、他人に同じ名称を出願されたとしても、登録されるまでに通常は1年程度(早期審査でも早くて2ヶ月程度?)かかりますね。
「じゃあ、2~3ヶ月で終わってしまうような事業の名称は、他人の出願商標が登録される頃には逃げ切っちゃえばいいじゃん!」
と考えられた方も少なくなかったのではないでしょうか。

なので
『②3ヶ月の季節限定(単年)で販売するお菓子の名前』
は商標登録は不要、
と考えられた方もいらっしゃるのでは。
ぶっちゃけ、自分も、そういうふうに言いそうな気がします。

(もっとも、出願中も、出願人には「金銭的請求権」というものがあって、出願中に相手に警告しておけば、商標が登録された後に遡って、出願中に発生した損害金額を請求することができます。損害金額が立証されてしまうと支払わなければならないですが、現実的にはどうでしょうか…。)

一方、こんな回答もいただきました。
『単年でも紐づけ的なお名前に育てば取らざるを得なくなるのかなと。
商標は育てる事業、権利なんだなとこのアンケートでしみじみ思いました』

うん、確かにそうですね!
今後も、その名前でシリーズ化していくような使い方をする場合は、まさに、育てる事業の”将来への投資”として、商標登録しておくべき、という考え方になると思います。

 

4.商号(『③「㈱」付きでしか使ってない社名(社名自体は造語)』)

よくあるご質問の一つに
「社名(商号)だから商標登録しなくても大丈夫でしょ?」
というものがあります。

このご質問に対する回答は、ケースバイケースで変わります。

まず、そもそも
「「ありふれた氏又は名称」を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」
は登録できないことになっているので、
例えば、ありふれた姓に「㈱」等を付した「㈱田中」といった名称(普通の書体のもの)は、登録しなくていい(というか、できない)です(ただし、例外的に、めちゃ有名になったら商標登録できるようになることもありますが、例外ということで)。

一方、ありふれてなくて、ちょっとひねった言葉(造語)を社名にした場合はどうか?
というと、商標登録できる可能性はあります。

となると、そういう社名を、実際に、商標登録しなくてもリスクがないか/した場合にメリットがあるか、という観点で検討することになります。
ポイントは、あくまで「商号」としてしか使わないか、それとも「商標」としても使う場面があるか、ということです。

a)「商号」としてしか使わない。例えば、会社のHPみても、よく探さんと どこに社名が書いてあるのか見つけられんくらいに、すみっこに小さく「株式会社○○」と書いてある。その他でも、社名は表立って出さない。これなら「商号」としてしか使ってないと言えそう。

b)例えば、HPや広告等で大きく社名を出して、自社商品・サービスをアピールしている。これだと、いくら㈱付きであっても、「商標」として使っていることになるので、先に他人に出願されてしまうと、なかなか痛いことになる。

 

うんうん、じゃあ a)なら、商標登録はいらんよね。

じゃが…!

a)のつもりでいても、年数が経ったり担当者が変わったりして、知らんうちに b)になってる…
ってのは、よくあるパターンです。
(ムネニ テヲアテテ オモイダシテクダサーイ)

こういった事情も考慮して、
『③「㈱」付きでしか使ってない社名(社名自体は造語』
は商標登録すべき、
と回答された方が多かったのではないか…と推測しています。

 

5.慈善事業の名称(『④慈善団体の募金活動の名称』)

これは悩まれた方が多かったのではないでしょうか。色んな考え方ができるんじゃないかなーって思います。

 

ポイント1
商標の世界での役務(サービス)は「他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たりうべきものをいう」とされているけど、「募金」って誰のためにやんの?

自己の事業のための募金だったら、そもそも役務(サービス)に該当しないんじゃ…?と思ったり(例えば、団体の事務所の賃貸費用を募金をする、とか?)。

誰かのために成り代わって募金する場合は、役務(サービス)に該当しそうですね(例えば、災害被害に遭った方に届ける食料品を購入するために募金をする、とか?)。

 

ポイント2
商標の世界での役務(サービス)は「業として」使用しするものだけど、「募金」って「業として」なの?

「業として」には、非営利事業も含まれており、経済上一定の収支決算の上に立っているものは、該当する可能性があります。

ところで、リプでもやりとりされていたのですが、似たような議論として、最高裁で”宗教法人の活動は、非営利事業には該当せず「業として」とはいえない”と判断された事件がありました(最高裁平成17年(受)第575号 天理教事件)。
『宗教法人の活動についてみるに,宗教儀礼の執行や教義の普及伝道活動等の本来的な宗教活動に関しては,営業の自由の保障の下で自由競争が行われる取引社会を前提とするものではなく,不正競争防止法の対象とする競争秩序の維持を観念することはできないものであるから,取引社会における事業活動と評価することはできず,同法の適用の対象外であると解するのが相当である。また,それ自体を取り上げれば収益事業と認められるものであっても,教義の普及伝道のために行われる出版,講演等本来的な宗教活動と密接不可分の関係にあると認められる事業についても,本来的な宗教活動と切り離してこれと別異に取り扱うことは適切でないから,同法の適用の対象外であると解するのが相当である。』

この点、上記最高裁が出る前に、「不競法の「営業」には慈善事業なども含まれる」と明言されている先生もいらっしゃいます(https://www.ipaj.org/bulletin/pdfs/JIPAJ12-2PDF/12-2_p60-80.pdf)。

また、上記最高裁より前に、慈善事業が「業として」に該当することを前提として商標の周知性が議論された審決もあります(ただし、慈善活動と指定役務との関連性がみとめらなかった https://shohyo.shinketsu.jp/originaltext/tm/1271223.html

(※ちなみに、J Plat Patでも、慈善活動系の募金活動は、役務リストで出てきます。)

 

上記最高裁が出た後としては、
a)本来的な慈善事業が『取引社会における事業活動』といえるかどうか
b)『取引社会における事業活動』といえないとして、その事業活動と密接な関係性をもつ役務(サービス)であるか、
がポイントとなりそうですね。

※こちらの判決でも、宗教法人の活動であっても、本来的な宗教活動及びこれと密接不可分な関係にあると認められる事業を除く事業は、役務(サービス)に該当し得るという旨が述べられております。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/075/086075_hanrei.pdf

って簡単に言いましたけど、ボーダーライン引くのは結構難しそうです。
例えば、医療の場合、どういった種類の病院での医療だと「業として」に該当しなさそうでしょうか。離島での地域医療を地域のヒトから乞われて行う医療は「業として」でしょうか?国境なき医師団が行う医療は…?

自分にはボーダーラインが明確に引けないです(すみません)。

ボーダーライン上にありそうな場合、
安全サイドなら
『他人に取られて嫌だと思うなら取っとけ』
何とかするぞサイドなら
『他人に取られてなんか言われたら「業としてじゃないし」って頑張ろう』
ってことになるのかなー。

皆さんは、どう考えられたでしょうか?

 

 

本日は以上です!

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