ランプシェード事件

令和6年10月30日判決 令和6年(行ケ)第10025号 無効審判不成立に対する審決取消請求事件

■判決文
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/481/093481_hanrei.pdf

■本件商標登録(権利者:被告Y)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2013-098030/40/ja

■当事者
原告:X
被告:Y

事案の概要・解説

本件商標登録は、商標の判例百選でもお馴染みの立体商標です。デンマークのデザイナー、ポール・ヘニングセンがデザインした、「PH5」と呼ばれる照明器具を表したものです。

原告Xが、商標法4条1項7号該当,4条1項10号該当を理由に、本件商標登録の無効の請求を不成立として審決の取り消しを請求した事件ですが、あっさり棄却されました。

それもそのはず、というか、原告Xが本件商標権に無効審判を請求して、それが認められなかったので審決取消訴訟を起こしたのはこれで2回目。。。あ、いや、正確には、1回目の無効審判請求人(と原告)は、Xではなく別の者Zでしたが、今回の原告Xは、どうもZの親会社のようで、Zが親会社Xの名前を借りて無効審判を請求したように思われます。裁判所も、「またですか…」と思った?

※1回目の審決取消訴訟
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/067/089067_hanrei.pdf

ZとYの間ではこれまでに何件もの訴訟が争われてきました(判例百選に記載の事件もその一つ)。Zは、日本国内において、意匠権等の権利が元から取得されていないか、あるいは権利が失効した家具や照明のリプロダクト品を販売している会社です。Yは、2016年に本件商標権を取得しました(それも、Xのリプロダクト品の販売に対抗するためだった)が、Z(またはX)は、日本国内で意匠権が取得されていなかったPH5のデザインは、パブリックドメインであって誰でも実施してもいい、と強くつよーく信じているため、本件商標権が邪魔で仕方なく、その無効を請求しているものです。

1回目の審決取消訴訟は、上告までされたようですが、今回と同様、無効理由として4条1項7号も挙げられており、今回、Zが親会社Xの名前を借りて無効審判請求(及び訴訟提起)をしたのは、ひょっとすると一事不再理とされることを警戒した可能性があります。

厳しい条件をクリアして登録された立体商標は強い。Xはまだがんばるつもりか…?

裁判所の判断

1 取消事由1(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について

(1) 原告は、被告は特許庁を欺いて本件商標権を取得したものであり、国際信義則及び公序良俗に反し、これは商標法4条1項7号に該当する旨主張する。

(2) まず、原告は、被告が A 又はその相続人から本件商標に係る商品の著作権についてライセンス契約の締結を受けていないとして、これを問題とするところ、商標法には、他人の著作権と抵触するような商標登録を禁じる規定はなく、むしろそのような商標登録が発生し得ることを前提に、同法29条により先行著作権との調整を図っているのであって、他人の著作権との抵触の一事をもってしては、同法4条1項7号に該当しないというべきである。 A の相続人と被告との間の著作権に関するライセンス契約の成否、有効性いかんの問題は、同号該当性に影響を及ぼすものではない(蛇足ながらあえて付け加えると、乙1、2に係るライセンス契約の成立及び有効性を疑うべき事情は見当たらない。)。

(3) また、本件商標は、出願過程において、被告の業務に係る商品であることが広く認識されていたことが認められて商標法3条2項が適用されているところ、被告と A 又はその相続人との間で、本件商標に係る著作権について紛争となっている等、その出願が国際信義に反するような事情が生じていることの主張立証はない。本件は、単に、原告において、「被告によるA のデザインの盗用」という根拠のない憶測を述べているにすぎない事案といわざるを得ない。

(4) 以上のとおりであって、本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

※「A」は、PH5のデザイナー「ポール・ヘニングセン」のこと

2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について

(1) 原告は、本件商標は、 A の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されている商標として、商標法4条1項10号に該当する旨主張する。
しかし、原告は、本件商標が「 A の」業務に係る商品を表示するものであることを表示するものとして周知であることを示す具体的な立証をしない。甲25、26を含め、本件商標の形状をデザインした者が Aであることを示す証拠はあるが、業務の主体が A であることを示すものではない。

(2) 原告は、 A の相続人と被告の間で締結されたライセンス契約が有効でないとすれば、デザイナーの有名な商品を盗用して商品化した業者が、立体商標の登録出願をして権利を取得できるようになる旨主張するが、同主張は商標法4条1項10号の要件とはかかわりのないものである(なお、上記ライセンス契約の成立及び有効性を疑うべき事情がないことは上記のとおりである。)。

(3) 以上のとおりであって、本件商標が商標法4条1項10号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

 

[担当:上田]

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