隣の市のゆるキャラの名前、言えますか?

令和7年3月12日判決 令和6年(行ケ)第10090号
拒絶査定不服審判未成立に対する審決取消請求事件

■判決文
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/958/093958_hanrei.pdf

■本願商標出願
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2021-154842/40/ja

事案の概要

原告Xが、「ぽんちゃん」の文字を標準文字で表した商標(以下、「本願商標」という。)を出願したところ、拒絶査定を受けたため、Xは拒絶査定不服審判を請求したが、
「『ぽんちゃん』の文字は、群馬県館林市が観光事業に使用している著名なマスコットキャラクターである『ぽんちゃん』を認識させるものであるから、本願商標は、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標と認められ、商標法4条1項6号に該当する。」
として、請求は認められなかった。本件は、この審決の取消を請求した事件である。

解説

群馬県館林市のマスコットキャラクター「ぽんちゃん」を引用し、4条1項6号を適用した審決が覆されました!本願は登録される見込みです。

全国の市町村のマスコットキャラクター、いわゆる「ゆるキャラ」の数は、2021年度現在で1553だとか(日本経済新聞調べ)。4条1項6号は、商品・役務に関係なく適用されるから、ゆるキャラの名称が、何でもかんでも4条1項6号に規定する「交易に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なもの」に該当するとなると、膨大な数の商標出願を拒絶できるようなパワーとなり得るわけですね。

私の住む市にもゆるキャラがおりますが、さて、隣の市のゆるキャラの名前を聞かれたら、ぱっとは分からないです。そーいうキャラクターの名称を著名と認め、強大な拒絶パワーを与えて良いかって話ですね。皆さんはどうですか?隣の市のキャラクターの名前、すぐに言えますか?

ゆるキャラの拒絶パワーを減じたこの判決は注目に値すると思いました。

裁判所の判断

(1) 商標法4条1項6号について
・・・その趣旨は、同号に掲げる団体の公益性に鑑み、その権威、信用を尊重するとともに、出所の混同を防いで取引者、需要者の利益を保護することにあると解される。このような趣旨に照らすと、同号にいう「著名なもの」というために、必ずしも、日本全国において広く知られていることを要するものとまでは解されない。すなわち、同号に掲げる団体や事業の地域性を考慮して、著名性の認定に当たり、地理的範囲を限定して考慮する余地があるといえる。
他方、同号に掲げる団体や事業を表示する標章は極めて多数にわたるために、同号は、対象となる標章を「著名なもの」と限定している・・・このことは、著名性の地理的範囲についても同様であって、公益事業等を示す標章として特定の地域でのみ知られている標章と同一又は類似する商標の登録を禁止するとなると、本来であれば一般的に認められるべきはずの、商標権を取得して全国的に当該商標を使用する権利を過度に制約することになりかねない
以上によると、商標法4条1項6号にいう「著名なもの」というためには、同号に掲げる団体や事業の地域性に照らし、必ずしも日本全国にわたって広く認識されている必要はないが、なお相応の規模の地理的範囲において広く認識されていることを要するものと解するのが相当である

 

(2) 検討
イ(ア) 前記1の認定事実によると、本件キャラクターは、館林市のマスコットキャラクターとして、各種の公的な文書への掲載、市内の公的施設や観光施設等での掲示、市内で実施される行事等への参加等、使用実績が積み重なっており、これらにより、館林市内においては知名度を獲得しているものと推認される。 しかし、これらの使用実績は、基本的に館林市民や館林市を訪問する観光客等に向けられたものにとどまっている
(イ) そこで、館林市外に向けて引用キャラクターが使用された実績をみると、埼玉県や東京都で開催された催事への参加は、証拠上、4件にとどまり・・・
新聞記事への掲載実績をみると、引用キャラクター又は引用標章は、平成22年1月から令和5年までの13年余の間に、証拠上は90本弱の新聞記事に掲載されているが(乙1の甲70~甲134、乙2、4、5、9、10、13、16、20、22、24~26、28、29、31、32)、これらの新聞記事は、いずれも、群馬県の地方紙である上毛新聞の記事か、全国紙であっても記事の文面からしていわゆる地方版に掲載された記事である・・・
さらに、日本全国に向けた発信等をみると、引用キャラクターのSNS公式アカウントのフォロワー数は、「X」が3186、インスタグラムは1931(乙1の甲8、乙1の甲9の2。いずれも令和4年時点)にとどまる・・・
(ウ) 以上の事情を総合すると、引用キャラクター及びその愛称である「ぽんちゃん」(引用標章)は、館林市民にはなじみのあるキャラクターとして広く認識されていると認められ得るものの、館林市外への露出は散発的かつ限定的であり、群馬県の総人口約197万人に対して館林市の人口が8万人弱にとどまること(平成28年4月1日現在:乙1の甲116)からしても、群馬県及びその周辺において広く認識されていると認めるには至らない
そうすると、引用標章は、館林市及び館林市観光協会による観光振興事業の地域性を考慮しても、相応の規模の地理的範囲において広く認識されているということはできないから、商標法4条1項6号にいう「著名なもの」に当たらない。

ところで…

この事件、これで終わりじゃありません。
本件、審査段階では、4条1項6号に加え、4条1項7号も拒絶査定の理由となっていました。というのも、原告Xは、「ぽんちゃん」のおひざ元、群馬県館林市にお住いの個人の方で、他にも複数件「ぽんちゃん」の出願をしており、出願の意図がちょっと図りかねる。。。な件でして。(詳しくは、本願の経過情報をご参照ください)

拒絶査定不服審判の審決は、4条1項6号該当の理由のみで下されており、7号の判断をしていなかったのが、本願が登録されることになった一因となったとも言えるから、ちょっと特許庁の手落ちとも言えなくない…

審査段階の意見書などを読むと、Xは、館林市が「ぽんちゃん」の商標出願をしていなかったことに対し、「わが市の大事なぽんちゃんを、商標出願もせず無防備な状態に置くなんて!」と、「愛市心」の裏返しで出願したのじゃないか?とも思え、何というか、疑問が残る事件です…

<担当:上田>

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