紛らわしすぎて?当事者適格を誤った審決

<平成27年(行ケ)第10202号 審決取消請求事件>(判決文はこちら
ブログリニューアルしたので真面目に更新しよう!と思ったのもつかの間、最近は外出のお仕事が多くて事務所に腰を落ち着けてお仕事する時間が取れなくて更新をサボっている ひろた です、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
判例も もぎ立てのうちにご紹介したいところですが、気になるものを見つけてから時間が経ってしまいました。旬とはいえませんが、better late than never ということで、1か月遅れでご紹介いたします。
本日ご紹介する事案は、ある商標登録に対し不使用取消審判が請求され、登録取消の審決がなされたため、審判の被請求人さん(通常では商標権者さんですが… )が原告となって審決の取り消しを求めて提起した訴訟です。
■本件商標
まずは、登録取消しの対象となった本件商標はこちら。
「LINE\ライン」
指定商品:第3類「せっけん類,歯磨き,化粧品,植物性天然香料,動物性,天然香料,合成香料,調合香料,精油からなる食品香料,薫料」
ちなみに、本件商標は、もともと、原告さんと同じグループに属する訴外I社さんが登録したものでした。
■使用商標
原告さんを中心とするグループ会社のE社さんは、使用商品の発売元であり、審決では、本件商標の通常使用権者と認められています。そのE社さんが使用していた商標はこちら。
「Rubotan\LINE\LIQUID\ルボタン\ライン」
使用商品:アイライナー
■JPOの審決の要旨
上記のようにJPOは本件商標の登録を取り消す審決をしましたが、その理由を抜粋いたします。
使用商標は,「Rubotan」の欧文字を最上段に大きく,その下部に当該文字よりやや大きく「LINE」の欧文字を配し,その下部に「LIQUID」の欧文字,「ルボタン」及び「ライン」の片仮名を上段の二段に比べ小さく三段に表してなるものであるところ,その構成中の「LIQUID」の文字部分は自他商品の識別力がなく,上部二段の「Rubotan」及び「LINE」の欧文字部分と下部二段の「ルボタン」及び「ライン」の片仮名部分が自他商品識別のための要部というべきであるが,これは,その全体として特定の意味合いを想起させない造語といえるものである。
してみれば,使用商標の識別標識として機能する商標は,「ルボタンライン」の称呼のみを生じ,特定の親しまれた意味合いを想起させない造語といえるものである。
■本件訴訟での争点
争点は3つありました。
取消事由1(本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用事実の有無)
取消事由2(手続的違法性)
取消事由3(当事者適格の欠如)
取消事由1,2は、同じ原告・被告ペアの過去の別件訴訟(平成27年(行ケ)第10203号 審決取消請求事件)でも似た争点で争われていましたので、今回は取消事由3について、ご紹介いたします。
○取消事由3(当事者適格の欠如)
上記したように、本件商標は、もともと、訴外I社さんが権利を取得したものでした。
ちなみに、訴外I社さんは、S43に、もとの旧商号・住所を変更して、現在の商号・住所(=訴外I社)となっています。
そして、そのS43の時点で、原告さんが、訴外I社さんの旧商号・旧住所と同じ商号・住所になりました。
また、本件商標の商標権者につき、訴外I社さんの表示変更登録(旧商標・旧住所から、現在の商号・住所へ、登録原簿の記載を変更する登録)はなされていなかった様子です(つまり、登録原簿上は、訴外I社さんが、旧商号・旧住所のままで権利者として記載されていた様子)。
そして、H26に、原告さんが、本件商標の商標権について更新登録申請の手続を行い、更新登録がなされました。
ご存知のように、更新登録は、商標権者ができることになっていますが(商標法19条2項)、本件商標の商標権については、訴外I社さんから原告さんへ権利の移転はなされていません。
ところが、原告さんの商号・住所は、訴外I社さんの旧商号・旧住所と同じであったため、JPOもスルーして問題なく更新登録がなされたようです。
ちなみに、原告さんは、S58(すなわち、訴外I社さんの旧商号・旧住所と同じ商号・住所になった後)に、他の商標権を取得しておりまして、H18にはその商標権の更新登録申請をしております。そのときの更新登録申請人としての識別番号と、H26時点での本件商標の更新登録申請人としての識別番号は、同じでした。だので、本件商標の権利者が原告さんだと思っても不思議じゃないじゃんね!
なんと紛らわしい…。
そういうわけで、被告さんは原告さんを不使用取消審判の被請求人として、審判請求したということになったのだと思われます。
しかも、JPOも、そこに突っ込み入れることなく登録取消審決をしましたので、その段階までは「問題なし」として進んでいたハズ…。
ですが、原告さんとしては「やっぱりおかしくね?」ということで、訴訟で当事者適格の欠如が争われることになりました。
では、裁判所はどのように判断したかというと…。
これらの事情を総合的に考慮すると,本件商標の商標権者は訴外会社であって,原告ではないと見るほかない。そうである以上,本件審判請求は,正しくは商標権者である訴外会社を被請求人としなければならないところ,原告を被請求人としてされた不適法なものであり,かつ,その補正をすることはできないことから,これを却下すべきであったにもかかわらず,本件審決がこれをしなかったことは違法であり,取り消すのが相当である。
 これに対し,被告はるる主張するが,本件商標の設定登録が行われた昭和39年8月18日時点においては,原告は未だ設立されていなかったのであるから,原告が,本件商標の商標権者として登録されたということはあり得ない事柄であるといわざるを得ない。なお,冒頭で認定した各事実に証拠(乙1ないし4)を併せると,昭和49年に本件商標の存続期間の更新登録がされた際,誤って訴外会社ではなく原告が更新登録申請手続を行い,その当時,原告の商号が「株式会社伊勢半」,所在地が「東京都千代田区<以下略>」であって,当初登録当時の訴外会社の商号,所在地と同様であったところから,特許庁長官も,申請者が訴外会社とは異なることを看過して更新登録をしてしまった可能性はあり得るものと認められる(そのように考えれば,被告が主張する識別番号の点も,理解できることになる。)。しかし,商標権は,いったん設定登録がされた後は,その存続期間が更新されていくだけであって,更新の際に,新たな権利が設定・登録されるものではないから(商標法19条,20条参照),更新手続が上記のように誤って行われたとしても,本件商標に係る商標権者は,依然として訴外会社であったと解すべきものである。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。』(判決文9-10頁)
Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン
裁判所では、当事者適格が認められず、審決が取り消されました…。
■コメント
なんと言いますか… この結論は、被告さんとしては、すごくモヤモヤ感が残ったのでは…。
取消審判請求をする場合、まずは登録原簿を取り寄せて権利者を確認するわけですけど、名称・住所の表示変更登録もされてなかったとすると、見かけ上は、権利者は原告さんと思われる記載だったでしょう。(更新登録申請人の識別番号からしても、怪しいとは わからんかったと思いますし…。)
JPOも、基本的には、商標権者さんの方から申請がないと、名称・住所が変更になったとはわからんわけですから、本件商標についての更新登録申請人がよもや別法人とは思わんかったのでしょう。だので、それを責めるのはちと酷な気がしないでもありません。もっとも「審決出す前に、ちゃんと深堀すればわかっただろうにと」と言われれば、それはそうなんですが…。
被告さんとしては、不使用取消審判のやり直しはできるかもしれんけど(原告さん側がまだ実質的同一の態様で使ってなければ)、すでに審取訴訟の段階まで来てるとかなり痛いですよね…
この判例の教訓としては、
「審判請求する場合は、商標権者の法人登記簿まで検める必要がある」
ということなのでしょうか!?
(※ちなみに、上記した過去の別件訴訟はこちら→平成27年(行ケ)第10203号 審決取消請求事件
 
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