【担当:弁理士 浅野令子】

「キリンコーン」審決取消請求事件

知財高裁平成31年3月12日(平成30(行ケ)10121)

判決文PDF
(全文)http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/544/088544_hanrei.pdf

1.事案の概要

(1) 概要

① 本件商標

登録番号:第5882929号
出願日: 平成28年3月3日
登録日: 平成28年9月16日
指定商品:第31類 とうもろこし

② 引用商標

引用商標1

指定商品:第30類 米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦

引用商標2

指定商品:第29類 冷凍野菜,第31類 野菜(「茶の葉」を除く。)

引用商標3,4,7

引用商標3指定商品:第30類 穀物の加工品
引用商標4指定商品:第29類 豆,加工野菜,冷凍野菜
引用商標7指定商品:第29類 加工野菜

引用商標5

指定商品:第29類 加工野菜,冷凍野菜,第30類 穀物の加工品

引用商標6

指定商品:第29類 加工野菜,第30類 穀物の加工品

(3) 手続の経緯
被告は,本件商標の商標権者である。原告は,本件商標について平成29年11月13日付けで商標登録無効審判を請求したところ(無効2017-890075),特許庁は,平成30年7月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,本件審決の謄本は,同年8月6日,原告に送達されました。原告は,同年8月27日付けで,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起しました。

(4) 審決の概要
無効審判では,本件商標「キリンコーン」は,その構成全体として,一体不可分の商標といえ,その構成文字に相応して,「キリンコーン」の一連の称呼のみを生じるものと認定され,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であると判断し,4条1項11号該当性を否定しました。

2. 争点

本件商標と引用商標の類似性,本件商標の商標法4条1項15号該当性

3. 裁判所の判断

裁判所は,本件商標と引用商標の類似性の争点のみ判断しています。
そのち、以下では、分離観察の可否のみを取り上げます。
(他に「商品の類否について」等、注目すべき判断がありますので、詳細は判決文をご覧ください。)

1.分離観察の可否について

結合商標の類否については,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるものと解されます(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

本件訴訟では,上記基準にのっとり,本件商標を「キリン」と「コーン」との結合商標であると認定した上で,「コーン」が本件指定商品である「とうもろこし」の意味を有することから,本件指定商品である「とうもろこし」との関係で「コーン」の識別力が低いと認定しました。そして,「キリン」が本件指定商品との関係で識別力が高く,出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分であるため,本件商標の構成部分の一部「キリン」のみを抽出し,この部分だけを引用商標と比較して商標の類否を判断することが許されるとして,分離観察による類否判断がなされました。

かかる分離観察により本件商標と引用商標とを対比すると,いずれも「キリン」の称呼及び観念において共通し,また,「キリン」の片仮名を縦又は横に記載した引用商標1,2,6と本件商標とは,外観が類似するとして,本件商標と引用商標は類似する商標であると結論付けています。

本件商標を一連一体のものと解すべきと主張する被告は,食品業界において「〇〇コーン」として一体的に使用されている実情があること等を主張しましたが,裁判所は,被告が指摘する各例は,「コーン」とほかの語が結合されることで特定の意味を有する一つの語として機能しているのであり,「キリンコーン」それ自体は特段の意味を有さないため一体として認識,称呼されるとはいい難いとして,被告の主張を退けています。

4. 実務上の指針

本事案の「キリンコーン」程度にまとまりよく一体的な外観を有している商標でも,指定商品・役務との関係で要部認定がなされ,識別力の弱い語と分離観察される可能性があることを,本判決は示唆しています。

指定商品との関係で,識別力の弱い語と結合することで,なんとか商標登録させたようなケースでは,本事案のように分離観察される可能性があり,先行商標と類似するとして登録が無効になるリスクがある点に留意しておくべきでしょう。

(参考)結合商標の類否について
平成29年に改訂された商標審査基準(平成29年4月1日以降の審査に適用)において,結合商標の類否についての基本的な考え方が記載されました。
上記改訂後の審査基準では,「リラ宝塚事件」(最判昭和38年12月5日)にて要部抽出し得る場合として示された基準に基づき,「各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど強く結合しているものと認められない場合には,その一部だけから称呼,観念が生じ得る。」と,結合商標を分離観察できる場合の考え方が明記されました。

ご紹介した「BULK AAA商標事件」および「キリンコーン商標事件」は,いずれも上記の審査基準改訂前に登録になった商標に対する無効審判の,請求棄却審決(登録維持審決)に対する審決取消訴訟です。

結合商標については,出願の審査では全体観察され,先行商標と非類似と判断されて登録になった場合でも,その後の審判・訴訟では結合された語の識別性・周知性等を考慮して分離観察される可能性があり,先行商標と類似すると判断されて,登録が無効になるおそれがある点に留意しておかねばなりません。

以下にご参考として,近年の商標の拒絶査定不服審判において,結合商標の類否判断がなされた事案の一部をリストアップしましたのでご覧ください。