【担当:弁理士 浅野令子】

「BULK AAA」審決取消請求事件

知財高裁平成31年3月7日(平成30(行ケ)10141)

判決文PDF
(全文)http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/475/088475_hanrei.pdf

1.事案の概要

(1) 概要
①本件商標

BULK AAA(標準文字)

登録番号:第5931607号
出願日: 平成28年9月20日
登録日: 平成29年3月10日
指定商品:第3類 化粧品,せっけん類,香料,薫料,歯磨き

②引用商標2
(※引用商標1は登録取消しが確定しています。)

登録番号:第5738351号
出願日: 平成26年7月16日
登録日: 平成27年2月6日
指定商品:第3類男性用の化粧品,男性用のおしろい,男性用の化粧水,男性用のクリーム,男性用の紅,男性用の頭髪用化粧品,男性用の香水類,男性用のせっけん類,男性用の歯磨き,男性用の香料,男性用の薫料,男性用のつけづめ,男性用のつけまつ毛

(3) 手続の経緯
被告は,本件商標の商標権者である。原告は,本件商標について平成29年12月15日付けで商標登録無効審判を請求したところ(無効2017-890079),特許庁は,平成30年8月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月31日,原告に送達されました。原告は,平成30年9月28日付けで,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起しました。

(4) 審決の概要
無効審判では,本件商標「BULK AAA」は,“一体不可分の商標というべきものであって,「バルクトリプルエー」の称呼のみを生じるもの”と認定され,本件商標と引用商標とは,“外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標である”と判断されました。

2. 争点

本件商標と引用商標の類似性

3. 裁判所の判断

(1) 本件商標について
被告は,種々証拠を挙げて,『化粧品分野では,化粧品との関係において,「BULK」(バルク)との文字列又は呼称は,化粧品の中身を意味する語として広く一般に使用されており,特定の企業を指す語として使用されていない(甲37の1~15)。』と主張しました。

しかしながら,裁判所は以下のように認定しています。

遅くとも平成30年2月9日には,片仮名「バルク」は,化粧品製造業界において,「化粧品の中身」を意味する用語として使用されていたことが認められ,本件商標の査定日(平成29年2月21日)前の使用例(前記(ア)b(a)~(c),d,e)が複数存在することを考慮すると,本件商標の査定日においても,片仮名「バルク」は,化粧品製造業界において,「化粧品の中身」を意味する用語として使用されていたものと推認される。しかし,前記(ア)b~rの広告やウェブサイトには,化粧品の受託製造業者のものが少なくなく,これらは必ずしも一般消費者に向けられたものとはいい難い上,欧文字「BULK」が「化粧品の中身」を意味する用語である旨を示したものは原告及び被告の商品に関するもの以外にはなく,また,欧文字「BULK」や片仮名「バルク」という用語を当然に「化粧品の中身」を意味する用語として使用するのではなく,「化粧品の中身」という意味である旨を併記して使用するものがほとんどである。そうすると,本件の全証拠によっても,本件商標の査定日において,欧文字「BULK」が,本件商標の指定商品(化粧品,せっけん類,香料,薫料,歯磨き)の一般消費者を含む取引者,需要者に,「化粧品の中身」を意味する用語として知られていたことを認めるには足りない。このことは,引用商標2の指定商品(男性用の化粧品,男性用のおしろい,男性用の化粧水,男性用のクリーム,男性用の紅,男性用の頭髪用化粧品,男性用の香水類,男性用のせっけん類,男性用の歯磨き,男性用の香料,男性用の薫料,男性用のつけづめ,男性用のつけまつ毛)との関係においても,同様である。

そして,『欧文字「BULK」は,本件商標の査定日において,本件商標の指定商品の取引者,需要者に,上記指定商品との関係において,出所識別標識として認識されるものということができる。』と認定しました。

一方、「AAA」については,『一般に,最上位又は優良な評価を意味する表示であると認識されていたものと認められる」として,本件商標の要部は,欧文字「BULK」である。』と認定しました。

(2) 引用商標について
引用商標については,『上段部分「BULKHOMME」が「商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。』とした上で,『引用商標2の構成部分である「BULK」は,引用商標2の指定商品との関係において,出所識別標識として認識されるものである』と認定しました。

「HOMME」は,『引用商標2の指定商品が含まれる分野では,男性用のものを意味する語として認識される上,引用商標2の指定商品は男性用のものに限られていること,「HOMME」は,「BULK」よりも細い字体で記載されていること』を考慮し,引用商標の要部は,欧文字「BULK」であると認定しました。

(3) 本件商標と引用商標2の類否判断

結合商標の類否については,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるものと解されます(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

本件訴訟では,上記基準にのっとり,本件商標を「BULK」と「AAA」との結合商標であると認定した上で,各種証拠より「AAA」は,最上位又は優良な評価を意味する表示であると認識されていたものと認定し,「BULK」が出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分であるため,本件商標の構成部分の一部「BULK」のみを抽出し,この部分だけを引用商標2と比較して商標の類否を判断することが許されるとして,分離観察による類否判断がなされました。

『本件商標の要部と引用商標2の要部は,いずれも,欧文字「BULK」であるから,その外観は類似し,観念及び称呼は一致する。』として,『本件商標と引用商標2とは,類似する。』と結論付けています。

4. 実務上の指針

出願したい商標と同一・類似の商標について,既に他人に商標権を取られていたことが事前の調査で発覚する,ということはよく起こります。

同一・類似の先行商標が見つかった場合は,名称を再考するのが一般的な対応ですが,ネーミングに思い入れがあり,どうしてもその名称を使いたいので,文字や図形などの要素を付け加えることで,先行商標と類似しないようにして,なんとか登録させた,というご経験をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

しかし,業界ではよく使われている語でも,指定商品・役務の需要者層にはそれほど知られていない場合は,本事案の「BULK」のように,識別力が認められてしまうことがあります。
また、識別力のある語に,一般的によく使われており指定商品・役務との関係で品質等を表すと考えられる語(例えば、本件商標では「AAA」)を付け加えた結合商標は,分離観察される可能性があります。
このような結合商標は,先行商標と類似するとして登録が無効になるリスクがある点に留意する必要があります。