【担当:弁理士 浅野令子】

「リブーター」審決取消請求事件

知財高裁令和元年5月30日 平成30(行ケ)10176

判決文PDF
(全文)http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/702/088702_hanrei.pdf

1.事案の概要

(1)概要

①本件商標:リブーター(標準文字)
登録番号:第5590686号
出願日 :平成25年2月8日
登録日 :平成25年6月14日
指定商品:第9類 「配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電気通信機械器具, 測定機械器具,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電子応用機械器具及びその部品」

(2)手続の経緯

被告は,本件商標の商標権者である。
原告が,平成29年12月27日に,指定商品のうち「再起動器を含む電源制御装置」について商標登録無効審判を請求したところ(無効2017-890087号),特許庁は,平成 30年11月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月15日,原告に送達された。

(3)審決の概要

①3条1項1号該当性

無効審判では,本願商標の登録査定時において,『「リブーター」の文字が,商品「電源制御装置」の一般的な名称として,取引者,需要者に認識されていたという事実は認められないから,その指定商品との関係において,普通名称ということができない。』として,3条1項1号該当性が否定されました。

②3条1項3号該当性

『本件商標は,特定の観念を生じない一種の造語を表したものと理解するのが相当であって,特定の商品の品質等とすべき何らかの理由を見いだすこともできないから,自他商品識別標識としての機能を十分に果たし得るものというべきであり,その登録査定時において,商品「電源制御装置」の品質等を具体的に表示するものとして直ちに理解され,認識されていたとはいい難く,商品の品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえない。 』として,3条1項3号該当性が否定されました。

③4条1項16号について

本件商標は3条1項1号にも3条1項3号にも該当しないことから,『本件商標をそのいずれの指定商品に使用しても,商品の品質について誤認を 生じさせるおそれもないというべきである。』として,4条1項16号該当性が否定されました。

2.主要な争点

商標法3条1項1号,3号又は4条1項16号該当性

3.裁判所の判断

裁判所は,3条1項3号及び4条1項16号該当性についてのみ判断しています。

(1)3条1項3号該当性

『「リブート」は,「reboot」という英語を片仮名で 表した語であるところ,「reboot」は,再起動するという意味の動詞であり(当裁判所に顕著な事実),また,「リブート」は,コンピュータなどを再起動すること を意味する語として,各種の用語辞典(用語事典)に掲載されており,さらに,多くの雑誌やウェブサイト,さらには公開特許公報にも,上記の意味で使用されてい ることからすると,「リブート」という語は,再起動することを意味する普通名称であると認められる。

情報・通信の技術分野では,英語を片仮名で表した言葉が非常に多く存在すること,一般的に,英語の動詞の語尾に「er」,「or」等を付することにより,当該動詞が表す動作を行う装置等を意味する名詞となり,「エディタ」,「エンコーダ」,「カウンタ」,「デコ ーダ」,「プリンタ」,「プロセッサ」等,動詞を名詞化した語も多数存在することが 認められるから,情報・通信の技術分野に属する者は,「リブーター」から,「reboot」の語尾に「er」を付した語である「rebooter」を容易に思い浮かべるものと認められる。

コンピュータやルーター等の機器を再起動する装置の需要があり,実際にそのような装置が販売されていることが認められるところ,前記1(2)のとおり,このような再起動装置を「リブーター」又は「リブータ」と呼ぶ例があることが認められる。これに対し,本件証拠上, 「リブーター」の語が,他の意味を有するものとして使用されているという事実は認められない。

なお,前記1(4)ウ,エで認定したウェブサイトの記載によると,情報・通信の技術分野においては,英語を片仮名表記した場合は,語尾の長音符号を省く慣例があるものと認められるから,語尾の長音符号を有するか否かで別の語になるというこ とはできず,上記の「リブータ」も「リブーター」も同一の語であるということができる。』
(判決文引用)

裁判所は,『情報・通信の技術分野においては,通常,「rebooter」 及びこれを片仮名で表した「リブーター」は,再起動をする装置と理解されるものというべきである。したがって,「リブーター」は,再起動装置の品質,用途を普通に用いられる方法で表示する語と認められるから,指定商品が再起動装置又は再起動機能を有する電源制御装置である場合は,本件商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきである。』と認定しました。

(2)4条1項16号該当性
裁判所は,『情報・通信の技術分野においては,通常,「rebooter」及びこれを片仮名で表した「リブーター」は,再起動をする装置と理解されるところ,再起動機能を有さない電源制御装置に,「リブーター」という語を使用すると,需要者,取引者は,当該電源制御装置が再起動機能を有しているものと誤解するおそれがあるというべきである。 』として,『指定商品が再起動機能を有さない電源制御装置である場合は,本件商標は,商品の品質の誤認を生ずるおそれがあり,商標法4条1項16号の商標に 該当するというべきである。 』と判断しています。

4.実務上の指針

(1) 出願人の立場から

識別力を有さず,商標法3条1項各号に該当する商標については,商標登録が認められませんが,識別力の有無の判断時は査定時となります。

そのため,出願時は誰も知らなかったような新しい言葉であっても,その後一気に広まって,査定時には商品の品質等を普通に表す語のように使われる状況になってしまっていた場合,識別力がないと判断されて,登録できない事態となります。

このような事態を回避するため,出願人が商標の使用態様を適切に管理していく必要があります。他人の使用に気を配るのはもちろんですが,出願人自身の使用についても,普通名称化させることがないよう,査定時までの使用に注意する必要があります。

この観点で考えると,出願商標を説明文の中で使用する場合に,「  」(カッコ)等を付したりすることなく,他の説明文と同じフォント・大きさで商標を記載するような場合は,普通名称や一般用語として使用されていると認識される可能性があります。そのような使用は,商標の普通名称化を進めることに繋がるので,避けた方が良いでしょう。

普通名称や一般用語のように使わず,「商標としての使用」を徹底するためには,ウェブサイトやパッケージで使用しているロゴがあればそのロゴで使用する等,使用態様を一貫することが望ましいと言えます。

(2)商標登録を無効にしたいと考える,第三者の立場から

本件訴訟の前の無効審判で,原告は,「再起動装置を「リブーター」又は「リブータ」と呼ぶ例があること」を示す証拠として,文献を4点提出しましたが,本件訴訟で原告はさらに証拠を提出して,この点の主張を増強しました。さらなる証拠には被告の商品の紹介記事が含まれ,商品の説明文中に「リブーター」の文字が,「  」(カッコ)が付されることのないまま使用されているものも含まれていました。

上記の主張に加え,「①「リブート」という語は,再起動することを意味する普通名称であると認められること」と,「②「リブーター」から,「reboot」の語尾に「er」を付した語である「rebooter」を思い浮かべることは容易であること」を合わせ技で主張することで,「リブーター」の文字の自他商品識別力を否定することに成功しています。

本件の証拠及び原告の主張は,他人の登録商標の識別力を否定して,商標登録を無効にしたいと考える場合に,参考になると思われます。