先週は、ある居酒屋での出来事を問題としていました。
とっても楽しげに大声で話しているAさんと、たまたま近くの席にいた同業者のBさんが登場人物です。
Aさん:「今度、『X』っちゅう名前で新しい商売始めることになったんだわ。絶対成功するて!」
Bさん:(心の中で)「『X』だと。なかなかいい名前だがや。商標登録してまったろ。」
…というわけで、AさんよりもBさんが先に「X」を商標出願しました。さて、「X」は登録になるのでしょうか?
上記例のように、他人の採択した(採択しようとしている)商標を冒用した出願は、「公序良俗違反」(4条1項7号)として拒絶される場合があります。
しかしながら、「公序良俗違反」と認められるには、出願人にある程度強い悪意があることが要求されていると考えられます。
その理由は、4条1項19号という規定との兼合いです。
4条1項19号というのは、「他人の周知・著名な商標を不正の目的をもって出願した場合は、拒絶します(登録できません)」といった内容です(もし商標「X」が既に周知になっていれば、Bさんの出願に対して4条1項19号が適用されたかもしれません)。
商標は使ってなんぼのものだと言いましたが、周知・著名になっていれば、保護する価値が大きいということですので、商標としては立派なものと言えます。こういった商標を「不正の目的」で出願されたものを排除する目的で設けられた規定です。
それに対し、4条1項7号の「公序良俗違反」って、漠然としていますね。
そもそも公益的な目的を持つ規定です。これを、他人の商標の冒用出願に適用しようとするわけですが、それに際しては出願人の主観(悪意等)が問題となります。
でも、主観を客観的に判断するのは難しいですよね。したがって、何でもかんでも「公序良俗違反だから拒絶!」とやっていたら、きちんとした出願まで割を食ってしまうことになります。
そもそも、日本の商標法は「先願主義」を採用しているので、『先に出願した者が登録を受けることができる』というのが基本です。「公序良俗違反」は、あくまで「先願主義」の例外ということになります。したがって、例外的な取扱いを無制限に拡大するのは不味いと考えられます。
というわけで、「公序良俗違反」とされるためには、少なくとも4条1項19号の「不正の目的」よりも強い悪意がないとだめだと考えられるのですが…。でも、最近は、何となく4条1項7号のセール中(?)のような…(気のせいでしょうか)。
では、先の例のBさんの「X」の出願についてはどうでしょう?居酒屋での事情を知らない審査官がこの時点で「公序良俗違反だ」と判断するのは難しいですね。しかも、状況からして客観的に『Bさんに悪意があった』と立証することも難しそうですね…。
ということは、「X」が登録になってしまう可能性が大きいと思われます。
そんな悲しいことがないように、ナイスなネーミングを考えたら、居酒屋で自慢するよりまず商標出願を!
で、Bさんが「X」を商標登録した場合、Aさんが「X」を使うと商標権侵害になっちゃうの?
…それについては、また今度。
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