形状の差別化

<平成16年(行ケ)第216号 審決取消請求事件>(判決文はこちら

 さて、昨日の続きです。

 実は、この事件は裁判まで行ったのですが、出願した商標が『識別力』を有するか否かについて、裁判所は以下のように原則を述べました。
 その形状が同種の商品の用途,機能から予測し難いような特異な形態や特別な印象を与える装飾的形態を備えているものと認められるような場合でない限り,自他商品識別力を欠く

 それで、この事件で問題となった靴底商標については、このように判断しました。
 『
本願商標の形状は,指定商品である「運動靴,スニーカー」の用途,機能から予測し難いような特異な形態や特別な印象を与える装飾的形態を備えているものとは,到底認められず,指定商品の取引者,需要者は,本願商標から,「運動靴,スニーカー」において採用し得る機能又は美感の範囲内のものであると感得し,「運動靴,スニーカー」の底面(接地面)の形状そのものを認識するにとどまるものと認められる。
 
すなわち,本願商標は,自他商品識別力を有するものとは認められず,「商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であるというべきであって,商標法3条1項3号に該当するものとして,登録は許されない。

 でも、識別力がないと認められる商標であっても、使用することによって商標としての識別力を獲得したと認定できるような場合は、登録されることもありました(商標法3条2項)。例外的に認めてあげよう、というわけです。
 
 この靴底は「VANSのワッフル・ソール」として有名で、その靴底を使用した商品は結構売れていたようですが、裁判所はどう判断したでしょうか?
 
 例外的に認めるわけですので、要件を満たしているか否かの認定ハードルは結構高くなります。この事件で問題となったのは、出願した靴底商標と実際に商品として使用した靴底が同一性を有するか否か、でした。いくら実際の商品が著名になっていたとしても、それと出願した商標が同一でなければ、“出願した商標が識別力を獲得した”とは認められないことになります。

 昨日の写真をよ~く見ると、出願した靴底商標(左側)の中央エリアは、菱形と六角形が交互に配された模様になっていますね。一方、実際の商品の靴底(右側)は、六角形のみの模様になっています。
 
 これについて、裁判所は、こう述べました。要点だけ掻い摘みます。
 『・中央エリア以外の部分は菱形のみの模様なので、全体の基調は菱形模様との印象を与えるが、中央エリアは強く注目を引く部分なので、出願商標と使用商品の違いは一層
際だって印象付けられる。
 
 ・使用商品では、右上から左下に向かう等間隔の斜線と、左上から右下に向かう等間隔の斜線が認識され、これらが交差することで菱形の模様が形成されているが、これらの斜線は中央エリアを含め、全体を貫いている。そして、中央エリアでは、真上から真下に向かう等間隔の実線が更に加わって、この実線と2種類の斜線とが互いに交差することで六角形の模様が形成されている。
  一方、出願商標では、中央エリアにおいて、真上から真下に向かう実線が存在しない。中央エリアでは、菱形と六角形とが交互に配されるという比較的複雑な模様を形成している。出願商標では、使用商品のように、極めて目を引く真上から真下に向かう実線が存在しない点で全く異なった印象を与えている。

 ということで、出願商標と実際の使用商品は同一性を有しないと判断されました。
 3条2項はあくまで例外ですので、同一性の認定ハードルも高くなるのですね。

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