あなたは多機能ですか?

<平成18年 (ワ) 19650号 意匠権侵害差止請求権不存在確認請求事件>(判決文はこちら

 昨日は意匠の物品に関連するハナシでしたので、今日も物品関連のハナシを一つ。
 
 ソニーさんの判決で、有名ですので目新しさはないですが…。
 この判決、私の中では「かなり斬新な意匠であれば“全体意匠”が効くー」の好例だと思っておるのですが、多機能物品の類似についても論じられとりますのでご紹介します。

 差止請求権不存在確認請求事件とういことで、
 ・被告さん: 意匠権者さんたるソニーさん、
 ・原告さん: 意匠権の被疑侵害者さんで、意匠権者さんから製品販売の差止めを求められている方、
 となっていて、ちとややこやしいです。

 で、原告さんが、自社
製品意匠は本件登録意匠に類似しないとして、差止請求権不存在確認を請求したのが本事件です。

 原告さんの製品はこちら。「増幅器」でございます。
 

 一方、本件登録意匠(登録第1276011号)はこちら。意匠に係る物品は「増幅器付スピーカー」でございます。
 
 

 「増幅器」vs.「増幅器付スピーカー」。
 なーんも考えずに単純化すれば「増幅器」vs.「スピーカー」。ですが、コトはそんなに単純ではございません。
 
 裁判所は、本件物品の「増幅器付スピーカー」は、増幅器&スピーカーの2つの機能を有する多機能物品であり、増幅器の機能において原告製品「増幅器」と共通し、両物品は類似する、と判示しました(判決文25頁)。

 その理由の一部を以下にピックアップします。

(ア)本件物品では増幅器単体の機能を使うことが予定されておらず、原動機付自転車や太陽電池付時計等と同様に多機能物品じゃない、との原告さんの主張に対する判示です。
 『本件物品の場合,増幅器もスピーカーも,それぞれ音源からの音を再生するために独立して不可欠の機能を有するも
のであって,前者が後者の一部品となるものではない。そして,登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載された意匠に基づいて定められる(法24条)のであり,本件登録意匠の願書,図面等(甲2)に,増幅器単体での機能が発揮されないことを示す記載は認められないから,本件物品は,増幅器の機能をも有する多機能物品であると解すべきである。
』(判決文25頁)
 
(イ)「増幅器付スピーカー」として出願した以上、1意匠1出願の原則(意匠法7条)からして「スピーカー」と捉えるべきだし、本件物品を見てもスピーカーの機能が主たるものだから、「増幅器」とは類似しない、との原告さんの主張に対する判示です。
 『特許庁発行のガイドライン(乙1)によれば,多機能物品に係る意匠登録出願については,「○○付き××」という物品名として当該出願をすることが求められており,そのような多機能物品が有する複数の機能の1つに着目して,対象となる製品との間で物品の類否を検討することは,1意匠1出願の原則と抵触するものではない(原告は,多機能物品が持つ形状や機能からいずれを主とすべきか判断できない場合は,「○○付き××」と「××付き○○」とで,それぞれ別に出願することが,法7条の物品の区分が規定されている趣旨に沿うと主張するが,そのように解すべき合理的根拠はない。)。
 そして,上記(ア)で検討したとおり,本件物品は,増幅器の機能をも有すると認められる…
』(判決文26頁)
 この判示は実務上結構悩ましいと思うのですが…

 そうすると、
 「クライマー機能付き弁理士」でも、「弁理士機能付きクライマー」でも、どっちでもOKということ?
 自分の中ではできれば後者でありたいと願ってきたわけですが。

 本日はこの辺で。
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