まず鉄筋用スペーサの意匠

<平成21年(ネ)第2465号特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁 判所平成20年(ワ)第3277号)>(判決文はこちら)→(原審の判決文はこちら

  「鉄筋用スペーサ」と「鉄筋用スペーサーの成形金型」の意匠権侵害訴訟をご紹介します。基本的には原審の判決の結論が支持されたので、主として原審の判決から内容をピックアップいたします。
 
 原審で争われた原告さんの登録意匠は2つありました。
 下記の登録意匠1「鉄筋用スペーサ」と、次回ご紹介する登録意匠2「鉄筋用スペーサーの成形金型」です(実は登録意匠2の意匠権に関しては控訴されなかったのですが、原審での判断をご紹介する意味で敢えて取り上げさしてもらいます)。
 ※なお、原審では特許権でも争われたのですが特許権侵害は認められず、特許権に関しては控訴されませんでした。


■登録意匠1について

 原審において、登録意匠1は創作容易で無効とすべきものとされ、準特104条の3第1項により意匠権行使できない、と判断されています。本件控訴審も基本的にはこの判断をサポートしています。

 登録意匠1(登録第1265621号)「鉄筋用スペーサ」
  
 この「鉄筋用スペーサ」はどういうものかというと、例えばこんな風に使用します(使用状態を示す参考図)↓
 
 
 創作容易の判断でメインとなった引用意匠(引用意匠3)はこちら(カタログに掲載されていたもの)。

 
  原審では、登録意匠1と引用意匠3との差異点は、以下の3つとされています(原審判決文85頁)。
 差異点①:材質がコンクリート(登録意匠1)かセラミック(引用意匠3)か,
 差異点②:かぶり厚さの寸法が3種(登録意匠1)に設定されているか4種(引用意匠3)に設定されているか(その結果,長手中心線を挟んで対向する係止用凹局面が対称であるか非対称であるか,また同局面に表示される具体的な数字が異なることになる。)
 差異点③:かぶり厚さを表示する数字が陥没数字(登録意匠1)か印字(引用意匠3)されたものか。

 そして、差異点の評価において参酌された公知意匠の一つがこちら(乙28公報:意匠登録第808607号)
 

 それでは、上記差異点①~③について、どんな評価がされたのか。
 
 差異点①について(原審判決文86~87頁)
 証拠からすると、材質の相違が「形状、模様若しくは色彩」(2条1項)において特段の差異があるとは認められませんでした。
 また、上記乙28公報で、鉄筋用スペーサの材質をコンクリートにすることについて明示されていたので、材質の置き換えは当業者にとってありふれた手法で、この点について格別の意匠上の創作があったとは認められないと判断されました。
  
 差異点②について(原審判決文87頁)
 上記乙28公報のスペーサーは3種のかぶり厚さのもので、他にも登録意匠1の構成態様を備えているので、かぶり厚さの数字を付する以外の形状において本件登録意匠1と類似するものと認められ、したがって、引用意匠3のかぶり厚さを登録意匠1のように3種に変更することは、当業者にとって極めて容易であったと認められました。
 また、かぶり厚さを3種に変更すれば、長手中心線を挟んで対向する係止用凹局面が対称となることは、必然ではないにしても極めて自然なことであり、この点において本件登録意匠1に特段の創作があったとも認め難い、とされました。
 なお、係止用凹曲面に付する数字については、かぶり厚さの変更に伴って当然に変更されるものなので、創作性が介在する余地はないとされています。

 差異点③について(原審判決文87~88頁)
 複数の証拠において、かぶり厚さが陥没数字で示されていることがみとめられるので、鉄筋用スペーサーにおいて、かぶり厚さを陥没数字で表示することは、周知な表示手段というべきで、印字された数字を陥没数字に置き換えることはありふれた手段で格別の意匠上の創作があったとは認められない、とされました。

 なお、本件控訴審において、原告さんは、登録意匠1と引用意匠3の「角隅部の形状」の相違につき追加補充主張をしました。→『コンクリート打ちっ放し工法を用いる場合にはコンクリート壁面に表れる形状が異なることから,角隅部の形状の意匠的意義は大きく、両意匠の美感は相違しており,容易創作性の判断に影響を及ぼす』。

 これについて裁判所は、『コンクリート打ちっ放し工法を用いる場合の,両意匠を用いたスペーサーのコンクリート壁面に表れる形状については,これを認めるに足りない。引用意匠3の角隅部に平坦な部分が存在するとはいっても,わずかにすぎず,これを理由に両意匠の美感が相違しているとはいえない。』としました(判決文7頁)。

 以上のように、本件控訴審では、原審における判断(登録意匠1は創作容易で無効とすべきもの、準特104条の3第1項により意匠権行使できない)がサポートされ、
 その余の争点について判断するまでもなく被告製品の製造販売は本件意匠権1の侵害とは認められない、とされました。

 
 それでは、登録意匠2についてですが…

 登録意匠2については次回にて。
 次回も見ていただける方、ぷちっと押していただけると嬉しいです。
 ↓↓↓
 
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この記事を読んでひろた興味を持たれた方は…

【執筆記事】
 
  「知財管理」誌 VOL.60  NO.6
  (並行輸入と商標権侵害 -並行輸入の抗弁における「同一人性の要件」及び「品質管理性の要件」-)

 
 
「知財産管理」誌 VOL.58 NO.5
  (「腸能力」審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第10042号 審決取消請求事件)
     内容は
こちらからどうぞ

【関係事件】
 代理人になった事件です。負けたのでご紹介するのをためらっておりましたが、思い切って…。
 
平成18年(行ケ)第10367号審決取消請求事件
 なお、牛木理一先生のHPで紹介いただいているので(「特許ニュース」2007年6月29日号の記事です)、そちらも併せてご覧ください~(こちらのB-27の項です)。

【ZIP FM Z-TIME BIZ】

 
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