学習塾のキャッチフレーズ?

<平成20年(ワ)第34852号商標権侵害差止等請求事件>(判決文はこちら

 唐突ですが、ん十年前に子供時代・学生時代を過ごした自分は学習塾に通ったことがありませんでした(大学受験の予備校も)。なぜなら“塾に通う”ってのは、割とセレブな家庭の子供だけに許されていた特権で、一般ピープルにとってはちょっと背伸び系だったので(←昭和っぽいわー、自分、どんだけ古いヒトやねん(笑)。地域性もあるんかな?)。
 でも、今の状況を見ると、自宅近くにある学習塾ではかなり夜遅くまで授業があるようでして(10時でもやっている)、大変な時代になったんだなぁ…としみじみ感じます。

 そんなわけで、今日は学習塾さんの商標権侵害訴訟事件をご紹介します。原告さんは名古屋の学習塾さんです。

■概要
○原告さん所有の登録商標
 H14出願、H15登録(登録第4684359号)、指定役務:第41類「学習塾における教授」
 

 ちなみに原告さんサイトはこちら

○被告さん使用標章「塾なのに家庭教師」
(1)被告標章1(新聞折り込み広告チラシ)
 ・被告標章1が,被告チラシ1の上部にチラシ全体の横幅の4分の3程度を占める長さで,チラシ全体の中で最も大きな文字で表示されている。

(2)被告標章2(新聞折り込み広告チラシ)
 ・最上部に,赤地に白抜き文字の「個別指導塾No.1」の標章が表示されている。「個別指導塾No.1」の標章の下に,被告標章2が,被告チラシ2の上部にチラシ全体の横幅の4分の3程度を占める長さで,チラシ全体の中で最も大きな文字で表示されている。

(3)被告標章3(新聞折り込み広告チラシ)
 ・被告チラシ3の最上部の青地の長方形の枠内に,左側に,赤色の「TKG」の文字と鳥のイラスト図形からなる標章,中央部に被告標章3,右側に,被告標章3に比してやや大きい白抜き文字の「TKG」標章及びその下に被告標章3に比して小さい白抜き文字の「東京個別指導学院名古屋校」の標章(「名古屋校」の部分は「東京個別指導学院」の部分に比してさらに文字が小さい。)が表示されている。

(4)被告標章4(新聞折り込み広告チラシ)
 ・被告標章4が,被告チラシ4の中央部にチラシ全体の中で最も大きな文字で表示されている。

(5)被告標章5(被告さんウェブサイト)
 ・画面左上部に,紺色の「TKG」の標章,同標章に比して小さな文字で同標章と横並びになった被告標章5が表示され,画面右上部に被告標章5に比してやや大きな青地に白抜き文字の「東京個別指導学院」の標章が表示されている。このような態様で「TKG」の標章,被告標章5及び「東京個別指導学院」の標章とが表示されたウェブページが,被告ウェブサイト上に合計26か所ある。

 ちなみに被告さんサイトはこちら。左上の「関西個別指導学院」のすぐ下に「塾なのに家庭教師」と小さく表示されていたりします。

 なお、googleで「塾なのに家庭教師」を入力して検索すると、トップと2番目に被告さんのサイトがヒットし、3番目に原告さんのサイトがヒットしました(2010年11月29日現在)。 

■争点
 
争点は7つありましたが、裁判所が判断したのは争点1-2だけでした。

①被告による被告各標章の使用が,本件登録商標と同一又は類似の商標の使用として本件商標権の侵害行為又は侵害とみなす行為(商標法37条1号)に該当するか(争点1),具体的には,被告各標章は本件登録商標と同一又は類似の商標に該当するか(争点1-1),被告各標章が被告チラシ及び被告ウェブサイトにおいて「商標的使用」がされているか(争点1-2),
②本件商標権の効力が商標法26条1項3号により被告各標章に及ばないか(争点2),
③本件登録商標の商標登録に無効理由があり,原告の本件商標権の行使が商標法39条において準用する特許法104条の3第1項により制限されるか(争点3),
④権利濫用の成否(争点4),
⑤先使用権(商標法32条1項)の成否(争点5),
⑥⑤の先使用権が成立するとされた場合,原告は,商標法32条2項に基づき,被告標章1ないし4の使用時に出所混同防止のための適当な表示を付すことを請求できるか(争点6),
⑦被告が賠償すべき原告の損害額(争点7)

 ちなみに、被告さんは、“「塾なのに家庭教師」というキャッチフレーズを、自分がH5頃から他の塾に先駆けて使用し始めたところ、原告商標の出願時には業界で広く使用されており、特定の出所を表す標識として認識されるものではなく、原告商標が登録されたのは“黄色の文字列と青色の縁取り&2つの感嘆符”という独特の組み合わせが識別力を有するためだ”、と主張しておりました(判決文14~18頁)。

■裁判所の判断
 上記のように、裁判所は、争点1-2(被告各標章が被告チラシ及び被告ウェブサイトにおいて「商標的使用」がされているか)のみにつき判断をしています。
 結論から言えば、被告標章1~5全てにつき『役務の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから,被告標章1等の使用は,本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないというべきである。』と判断し、その他の争点について判断せずに原告さんの請求を棄却しました。

(1)被告標章1について(判決文35~36頁)
 『被告チラシ1に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては,被告標章1の「塾なのに家庭教師」の語は,チラシ中央部の集団塾の長所及び短所と家庭教師の長所及び短所を対比した説明文(前記(ア)a)や,チラシ右側の「東京個別指導学院の特徴」の説明文(前記(ア)b)などの他の記載部分と相俟って,学習塾であるにもかかわらず,自分で選んだ講師から家庭教師のような個別指導が受けられるなど,集団塾の長所と家庭教師の長所を組み合わせた学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し,他方で,その役務の出所については,チラシ下部に付された「東京個別指導学院名古屋校」,「東京個別個別指導学院」又は「関西個別指導学院」の標章及び「TKG」の標章(前記(ア)c,d)から想起し,「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。

(2)被告標章2について(判決文38~39頁)
 『被告チラシ2に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては,被告標章2の「塾なのに家庭教師」の語は,チラシ中央部の集団塾の長所及び短所と家庭教師の長所及び短所を対比した説明文(前記(ア)a)や,チラシ右側の説明文(前記(ア)b)などの他の記載部分と相俟って,学習塾であるにもかかわらず,自分で選んだ講師から家庭教師のような「きめ細かな」個別指導が受けられるなど,集団塾の長所と家庭教師の長所を組み合わせた学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し,他方で,その役務の出所については,チラシ下部に付された「東京個別指導学院名古屋校」の標章及び「TKG」の標章(前記(ア)c)から想起し,「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。
 
(3)被告標章3について(判決文40頁)
 『被告チラシ3に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては,被告標章3の「塾なのに家庭教師」の語は,チラシ上部の「きめ細やかさは,「勉強の教え方」だけではありません。」の文章(前記(ア)a),チラシ右側に「東京個別指導学院がNo.1な理由」として掲げられた「1対2or1対1の「完全個別指導」」,「指名後の変更も可能「講師指名制度」」等の各項目(前記(ア)b)などの他の記載部分と相俟って,学習塾であるにもかかわらず,講師から家庭教師のような「きめ細やかな」個別指導が受けられるなどの学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し,他方で,その役務の出所については,チラシ最上部に付された「TKG」の標章(前記(ア)a)から想起し,「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。

(4)被告標章4について(判決文42頁)
 『被告チラシ4に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては,被告標章4の「塾なのに家庭教師」の語は,チラシ上部の「進学塾の情報力・指導ノウハウと家庭教師のきめ細かさ。」との文章(前記(ア)a),チラシ右側の説明文(前記(ア)b)などの他の記載部分と相俟って,学習塾であるにもかかわらず,自分で選んだ講師から家庭教師のような「きめ細かな」個別指導が受けられるなどの学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し,他方で,その役務の出所については,チラシ下部に付された「東京個別指導学院名古屋校」の標章及び「TKG」の標章(前記(ア)c)から想起し,「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。

(5)被告標章5について(判決文44頁)
 『被告チラシ5(←ママ。被告ウェブサイトの誤り?)に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては,被告標章5の「塾なのに家庭教師」の語は,別紙5のウェブページにおける「TKGの特色」の標章及びその下の「塾なのに家庭教師,それがTKG」の標章,集団塾の長所及び短所と家庭教師の長所及び短所を対比した説明文(前記(ア)b)などの他の記載部分と相俟って,学習塾であるにもかかわらず,自分で選んだ講師から家庭教師のような個別指導が受けられるなど,集団塾の長所と家庭教師の長所を組み合わせた学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し,他方で,その役務の出所については,画面左上部に表示された「TKG」の標章(前記(ア)a)から想起し,「塾なのに家庭教師」の語から想起するものではないものと認められる。また,被告ウェブサイトのうち,「安全・安心への取り組み」,「教育理念・指導方針」,「講師について」等の項目の説明などが掲載された他のウェブページは,別紙5のウェブページに続く,同ウェブページに関連する事項を掲載したものといえるから,上記需要者においては,上記他のウェブページに表示された被告標章5の「塾なのに家庭教師」についても,別紙5のウェブページに表示されたものと同様に認識するものと認められる。

 その他の原告さんの主張も採用されず、被告標章1~5の使用は、商標的使用に当たらないと判断されたのでした。

■ひとこと
 被告さんの標章「塾なのに家庭教師」は、割と目立つように大きく表示されていたのもあったみたいですが、商標的使用に当たるとは認められませんでした。やはり、業界で広く使われていることが効いたんでしょうか。
 また、ネットで「塾なのに家庭教師」で検索すると、被告さんのサイトがトップでヒットすることも気になるところ。検索ワードと商標との絡みは新しい問題でもありますので、また触れてみたいと思います~。

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コメント

  1. 受験戦争?
    こんにちは。塾に関しては地域差ですね(Hirotaセンセが私より一回り以上上なら別ですが( ̄▽ ̄;)。

    また同じ東京でも、下町、山手、多摩・武蔵でも全然違います。小学校の時に都内でわずか遠方に引っ越しのですが、ある程度の成績の子は中学受験するのが普通の学校に転校してしまいました。

    それこそセレブが多いとこだったのです。

    「中学校って無試験で入れるんじゃ…」と思っていた少女アマサイにはパニックです。クラスに慣れるのに時間がかかりました。

    もっとも、大手大学受験予備校だけで4つあった♪早稲田の森の隣♪だったのでかなり特殊な場所でありました。

    えーと、本文はまだ砕いてもいいと思いますが、あまりやると同業者から突っ込まれるかな。

    これからの記事にも期待しています。

    (http://page-only-one.cocolog-nifty.com/imotora7/

  2. Unknown
    アマサイさん、こんにちは!
    コメントありがとうございます<(_ _)>

    そうですねー、地域差は大きいですよね。東京では中学から受験ですか。さすがじゃ…

    でも名古屋も、いわゆる山の手のセレブなお方の状況は違ったのかも。

    これからも宜しくお願いします~!

    …つか、アマサイさん…女性…?

  3. 【知財(商標権):商標権侵害差止等請求事件/東京地裁/平22・11・25/平20(ワ)34852】原告:(株)名学館/被告:(株)東京個別指導学院
    事案の概要(by Bot): 本件は,後記の登録商標の商標権者である原告が,被告が自ら経営する学習塾の生徒募集及び従業員募集等の新聞折り込み広告及びウェブサイト上の広告に使用している別紙被告標章目録1ないし5記載の各標章は,原告の登録商標と同一又は類似の商標であ…

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