意匠の類否判断と、特許出願→意匠登録出願変更(その2)

<平成23年(ワ)第9476号 意匠権侵害差止請求事件>(判決文はこちら

本日は、昨日の続きで、大阪地裁で争われた意匠権侵害訴訟のご紹介です。まずは、昨日のエントリにておさらいをしていただけるとわかりやすいかと。

本日取り上げる争点は、以下の4つ、つまり本件意匠と被告意匠の類否判断に関する争点です。
(1) イ号意匠は,本件意匠1に類似するか (争点1)
(2) ロ-1号意匠は,本件意匠2に類似するか (争点2)
(3) ロ-2号意匠は,本件意匠2に類似するか (争点3)
(4) ロ-3号意匠は,本件意匠2に類似するか (争点4)

■争点1(イ号意匠は,本件意匠1に類似するか)

もいっかい、簡単に、本件意匠1と、被告イ号意匠と、その他ひろたが勝手に関連しそうだと思った意匠を、載っけておきます、

本件意匠1(角度調整金具用浮動くさび)

ちなみに、同じ意匠権者さんが持っている「…くさび」の登録意匠の一覧はこちら。
登録第1379531号が本件意匠1です。
また、本が登録第1408724号+関連が登録第1408973号・1408972号のグループと、本が登録第1408722号+関連が登録第1408971号・1408970号のグループがあります。

被告イ号意匠(角度調整金具用浮動くさび)

※昨日も触れましたが、被告さんは、下記の登録意匠(登録第1364780号)の意匠権者さんです。なお、この登録意匠に係る物品は「ラチェット爪」で、異なる意匠分類が付されていますが、用途・機能は「…くさび」と同じようなものの様子。ちなみに、今回の訴訟の原告さんは、この意匠の登録に対し、無効審判を請求しておられるようです(無効2012-880003)。

さて。
あくまで一見しただけの感想ですが、被告イ号意匠と、被告さんの登録意匠(登録第1364780号)ってまぁまぁ印象似てるなー。そいで、被告さんの登録意匠は、原告さんの本件意匠1より後に出願されて登録されてるので、当然ながら、本件意匠1と被告さんの登録意匠は非類似と判断されたわけだよなー。

…で?

裁判所はどう判断したの?以下、裁判所の判断を見ていきます。

○本件意匠1の要部

本件意匠1の実施品の性質、用途及び使用態様から、基本的構成態様(イ)(ウ)(エ)(オ)が、注意を惹きつける部分だと認めてています。また、理由は定かではありませんが、基本的構成態様(ア)も要部と認めています。

基本的構成態様
(ア) 正面視において,縦長であり,上方にいくにしたがって左右幅がわずかに減少する形状である。
(イ) 右側面には,複数個のギア歯が列設され,歯面がゆるやかな凹状として形成されている。
(ウ) 左側面には,滑らかで,ゆるやかな凸弯曲の当接面が形成されている。

(エ) 左右の各側面視における輪郭は,縦横比の差が小さな長方形である。
(オ) 平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である。

…従来の角度調整金具は,爪片のギアへの噛合によりアームの揺動を抑止する構成のものであったこと,角度調整金具に作用する力は,人間の体重を支える非常に大きなものであるため,従来の金具では,爪片,ギアの歯が大きくなることから,ギアの歯数を少なくせざるをえず,角度切替えの段数が少なく,微調整もできないという課題があったこと,本件実施品1及び2を用いた角度調整金具では,浮動くさび部材(本件実施品1)の外方側の当接面と弾発部材とが当接することによる当接力,浮動くさび部材の歯部とギアとの噛合及び浮動くさび部材とギアとの間の圧迫力により揺動を抑止するため,ギア部の歯が小さくとも,大きな荷重を受け持つことができ,ギア歯の数を増やすことができるという効果を奏することが認められる。
 これらのことからすると,本件実施品1及び2を用いた角度調整金具を使用する需要者ないし取引者は,上記作用効果を奏することに関するギア部分(本件意匠1の基本的構成態様(イ))と当接面(同(ウ))の各構成に注意を惹かれると認めることができる。』(判決文36頁)

…,本件意匠1は,基本的構成態様(エ)(左右の各側面視における輪郭は,縦横比の差が小さな長方形である。)及び同(オ)(平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である。)の形状により,全体的に扁平な印象を与えるものであると認めることができる。そして,これが意匠全体の美感に及ぼす影響は大きいものであるいうことができるから,これらの形状も需要者ないし取引者の注意を惹き付ける部分であるということができる。』(判決文36頁)

なお、昨日も触れたとおり、被告さんは、公知意匠(乙56~59)を挙げていましたが、全て、本件意匠1の基本的構成態様の構成とは異なる等として、上記要部認定に影響を与えなかった模様です。

ところで、本件意匠1の底部は耳朶状円形で、被告イ号意匠と異なっています。しかしながら、裁判所は、本件意匠1の底部が耳朶状円形であることは、本件意匠1の要部ではないとしています。
…当該部分は,角度調整金具の部品として本件実施品1の作用効果を奏する部分であるとは認めることができない上,立体的形状として本件意匠1をみたときにも,【使用状態を示す参考図3】のとおり意匠全体のうちわずかな部分を占めるにすぎないこと,使用状態では通常目立たない底面部の形状であることからしても,需要者の注意を惹き付ける部分であるとか,全体の美感を左右するものであるということは困難である。』(判決文42頁)

○類否判断

それでは、裁判所の類否判断を。

…,イ号意匠と本件意匠1は,本件意匠1の要部において構成態様を共通にするものであり,具体的構成態様における差違は,需要者の注意を惹き付ける点ではなく,両意匠の差異点は,両意匠の共通点を凌駕するものではないから,需要者に異なる印象を与えないということができる。
 したがって,イ号意匠と本件意匠1は,全体として需要者の視覚を通じて起こさせる美感を共通にしているということができるから,類似するというべきである。』(判決文45頁)

おお、被告イ号意匠と本件意匠1は類似と判断されました。

■争点2-4( ロ-1号意匠は,本件意匠2に類似するか 、ロ-2号意匠は,本件意匠2に類似するか、ロ-3号意匠は,本件意匠2に類似するか )

もっかい、簡単に、本件意匠2と、被告ロー1号意匠、ロー2号意匠、ロー3号意匠を載っけておきます。

本件意匠2(角度調整金具用浮動アーム)

被告ロー1号意匠(角度調整金具用浮動アーム)

被告ロー2号意匠(角度調整金具用浮動アーム)

被告ロー3号意匠(角度調整金具用浮動アーム)

 
○本件意匠2の要部

本件意匠2の実施品の性質、用途及び使用態様から、基本的構成態様(ア)(イ)が、注意を惹きつける部分だと認めてています。
基本的構成態様
(ア) 正面視において,各突隆部のギア部側には,ラジアル外方向にゆくにしたがってギア部から離れる方向へ傾斜する直線状の勾配線が形成されている。
(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約104度の範囲に配設されている。

…,本件実施品1及び2を用いた角度調整金具において,浮動くさび部材(本件実施品1)の動作は,最大展開状態から最大折り畳み状態までは本件実施品2のギア部と当接面とに挟れ,くさび作用によりアームを任意の折り畳み角度(傾斜角度)に調整可能で,その角度を維持させることができること,最大折り畳み状態を越えると,浮動くさび部材(本件実施品1)は,押し返し突部(本件実施品2の上側の突隆部)により押圧されて,退避空間部内に収容され,アームが揺動自由状態となること,最大展開状態に戻されると,浮動くさび部材(本件実施品1)は押し出し突部(本件実施品2の下側の突隆部)により押圧されて退避空間部から押し出され,ギア部と再び噛合状態となることが認められる。
 そうすると,本件実施品1及び2を用いた角度調整金具を使用する需要者ないし取引者は,上記作用効果を奏することに関する,2枚のギア板の配設状況,ギア歯及びその周辺の特徴的な構成である突隆部の形状(本件意匠2の基本的構成態様(ア),(イ))に注意を惹かれると認めることができる。』(判決文46-47頁)

つまり、2枚のギア板の配設状況、ギア歯及び突隆部の形状が、本件意匠2の要部と認められたわけです。

なお、昨日も触れたとおり、被告さんは、公知意匠(乙29)を挙げていましたが、公知意匠は、歯の大きさも大きく、歯の数も多数とはいいがい等の態様から、本件意匠2の基本的構成態様の構成を備えているとはいえないとして、上記要部認定に影響を与えなかった模様です。

以下、裁判所の類否判断です。

○本件意匠2と被告ロー1号意匠との類否判断

…,ロ-1号意匠と本件意匠2は,本件意匠2の要部において構成態様を共通にするものであり,具体的構成態様における差違は,需要者の注意を惹き付けるものではなく,両意匠の差異点は,両意匠の共通点を凌駕するものではないから,需要者に異なる印象を与えないということができる。
 したがって,ロ-1号意匠と本件意匠2は,全体として需要者の視覚を通じて起こさせる美感を共通にしているものということができるから,類似するというべきである。

ということで、本件意匠2と被告ロー1号意匠とは、類似と判断されました。

○本件意匠2と被告ロー2号意匠との類否判断

裁判所は、ロー2号意匠は、ロー1号意匠のうち赤色部分を切除改変したものいすぎないので、この改変部分が、ロー2号意匠と本件意匠2との類否判断に影響を与えるかについて検討を加えれば足りるとした上で、結論としては改変部分は類否判断に影響を与えるものではない、としています(判決文53-54頁)。

つまり、結局、本件意匠2と被告ロー2号意匠とは、類似と判断されました(判決文54頁)。

○本件意匠2と被告ロー3号意匠との類否判断

裁判所は、ロー3号意匠は、ロー2号意匠のうち赤色部分を切除改変したものいすぎないので、この改変部分が、ロー3号意匠と本件意匠2との類否判断に影響を与えるかについて検討を加えれば足りるとしています(判決文55頁)。

…そこで検討すると,本件意匠2は,上下突隆部が,ラジアル外方向へ向けて突出しているため,ギア部の両端から,ギア部全体を,両手を広げて支えるという印象を与えていたところ,ロ-1号意匠,ロ-2号意匠は,これと同じ印象を与えるものであるが(この点は,本件意匠2と全く同じである。),上記改変では,上下突隆部のギア部側を小さく略U字形に切除した結果,ギア部の両端から,突隆部によって,挟み込むといった異なる印象を与えている。また,窪部の切欠きの程度も小さいが,要部であるギア歯の両端という,看者の注意が惹かれる箇所でもあり,本件意匠2が部分意匠であり,上下突隆部はその要部であることからすると,その対比において,上記窪部の存在が,ロ-3号意匠に占める程度は低いとはいえない。
 これらのことからすると,上記改変部分は,正面視の左上に,細かいギア歯の一定程度のまとまりという特徴あるその余の構成態様の共通性を打ち消すものであるとまではいえないものの,上記改変部分に係る差異点は,本件意匠2とロ-3号意匠の共通点を凌駕するということができる。
 以上によれば,ロ-3号意匠と本件意匠2は,本件意匠2の要部において構成態様を共通にするものであるが,両意匠の差異点は,両意匠の共通点を凌駕するということができる。
 したがって,ロ-3号意匠と本件意匠2は,全体として需要者の視覚を通じて起こさせる美感を異にしているということができるから,類似しないというべきである。』(判決文55-56頁)

このように、本件意匠2と被告ロー3号意匠とは、類似しないと判断されました。

さて、皆さんの類否判断は、裁判所の類否判断と同じだったでしょうか?個人的には、本件意匠1と被告イ号意匠の類否がなんとも…

次回は、争点5の、特許出願→意匠登録出願変更が適法だったかどうか等について、裁判所の判断をご紹介いたします。

本日は以上です!次回も見ていただけるならぷちっと押してくださいな(。-_-。)/
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  字数制限が厳しかったので尻切れトンボ気味ですが…

【関係事件】
 代理人になった事件です。負けたのでご紹介するのをためらっておりましたが、思い切って…。
 
平成18年(行ケ)第10367号審決取消請求事件
 なお、牛木理一先生のHPで紹介いただいているので(「特許ニュース」2007年6月29日号の記事です)、そちらも併せてご覧ください~(こちらのB-27の項です)。

【紹介記事】
  知らないうちに、紹介記事を書いてくださっていました(かなり前の講座ですが、たまたま発見しました)。
  
2010年9月 岐阜県立城北高等学校での講座

【ZIP FM Z-TIME BIZ】
 2008/07/23 商標の話題で出演

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