今年の意匠法改正で新たに保護されることとなった「建築物」の意匠と「内装」の意匠について、特許庁から、初めて意匠登録があったとのアナウンスがありました。
『建築物、内装の意匠が初めて意匠登録されました』
https://www.meti.go.jp/press/2020/11/20201102003/20201102003.html
やはりインパクトが大きいですね。
今回は、「建築物」の意匠と「内装」の意匠について、これまでとの対比で徒然に書いてみます。
今年の改正で、不動産としての「建築物」が意匠法の保護対象となったのですが、その中でも「住宅」と関連するものとして、改正前でも、ユニット系住宅等は「組立家屋」として多数登録されていました。
ただし、「組立家屋」の権利が及ぶのは、「組立家屋」及びその類似の物品の範囲であり、意匠法の保護対象でない “建築物としての住宅” には権利が及びませんでした。なので、例えば、工務店さんが類似形状の住宅を建てたとしても、意匠権では止められなかったのでした(著作権もしかり*1)。
したがって、「組立家屋」で登録することは、主として、ユニット系住宅のハウスメーカーさん同士の牽制の意味合いが大きかったように思います。
改正後は、「組立家屋」と「住宅(建築物)」は、審査では相互に類似と判断されるとのことです(意匠審査基準 第Ⅳ部 第2章 建築物の意匠 6.2.3(2))。
権利が及ぶ範囲もこの基準で解釈されれば、「組立家屋」「住宅(建築物)」のどちらかで登録しておくと、両方の範囲で権利が及ぶ可能性があります。
つまり、建築業界全体が、住宅デザインの意匠権を気にしなければならないことになったわけです。
うーん。近所の工務店さん知ってるかなー…。
ただし、(「組立家屋」「建築物」に限ったことではないですが)関連意匠を出願する前に、基礎となる意匠と似た意匠を他人が公開してしまう等、所定の要件を満たさない場合は、関連意匠が登録を受けられなくなるので要注意です。
*1:一般住宅は「建築の著作物」に該当せず、著作権法では保護されないとした判例:福島地裁H3.4.9, 大阪地裁H16. 9.29等。
「内装」の意匠は、改正前も「本棚」「机」「壁」等…単体で登録できていたものを、「内装全体として統一的な美感を起こさせるときは」一意匠と認めようとする、いわば”インテリアの特殊「組物」バージョン”です。
ところで、改正前からある「組物」がどんなものかというと…
「組物」の意匠権は、組物全体として発生し、例えば構成物品の一部を変更されても全体として類似するものについて権利を行使することができます。
※今年の改正で、
・「組物の意匠」(従来は56種)に、「建築物」「画像」が加わりました。
・「組物」を構成する各物品の部分についても、統一感があれば、部分意匠としての登録が認められるようになりました。
さて、この「組物」は、どの程度活用されてきたのでしょうか。
J Plat Patで検索してみると、「組物」は、年間で多くて2桁しか登録されていないようです。なんか少ないな…!?
あくまで推測ですが… 上記のとおり「組物」の意匠権は、組物全体として発生し、個々の構成物品単体に対しては権利行使ができないとされ、個々の物品だけを模倣された場合に対応が難しいことがネックになっていると思われます。
「内装」の意匠も同じような点がネックになり得るんじゃないかって…?
てゆーか、そもそも、全体としての統一的なイメージを表す意匠を保護する制度がなかったから新設された制度だよぉ…。
「内装」でも関連意匠を上手く使う等して工夫すれば、そのイメージのコンセプト保護の一躍を担う可能性があります。特に、UX的にブランド要素となり得るような事案については、まず意匠権で保護をしておいて、周知になったら立体商標として保護するという道筋が有効だと思います。
いずれにせよ、今年の改正で「内装」という選択肢が増えたことになりますので、事案に応じて、個々の物品単体意匠にしてもよし、内装の意匠にしてもよし、両方で保護してもよし。目的や費用等を考慮して選択できるようになったと言えますね。
※ちなみに、改正前もこんなふうに「物品」として登録していたものがあったり。
意匠登録第1540763「組立て屋内設置室」
【参考斜視図】
意匠登録1454662「縦格子付き階段」
【斜視図】
J Plat Pat で、例えば、物品名称「組立家屋」と指定して検索すると、権利者の殆どが、ハウスメーカーさんや自社建築系不動産さんであることに気づかれると思います。また、家具の分類(D7?)で検索する限りでも、権利者はメーカーさんが多いように見受けられます。
一方、新たに登録された「建築物」「内装」の意匠については、ファーストリテイリングさん、JR東日本さん、蔦谷書店のカルチュア・コンビニエンス・クラブさん、くら寿司さんといった、全く業種が異なる施主さんと思われる企業さんが権利者になっていることに気づきます。
なお、立体商標の権利者についても、同じような傾向が見受けられます。
つまり、今後は、様々な業種の企業さんが、建築物系や内装系の意匠や商標の権利者になることも想定されます(これを「新規参入型」と称してしまおう)。
すると、今までのいわゆる “業界内の均衡” 等では解決できないような事案も出てくるかも… と感じた次第です。
保護対象が拡大するのは一面ラッキーなことですが、一方では設計前により注意が必要だということにもなります。設計前のサーチ範囲も広がりますしね…。
あんましまとまりのない内容になってしまいましたが…、せっかく新設された制度、使えるものは上手く使って事業サポートに活かせるといいですね。
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