たこ焼き工房事件(平成31年(ワ)第784号 商標権侵害差止等請求事件)
先使用 主張するも ハードル高かった
【解説】
原告さん登録商標「たこ焼き工房」vs 被告さん使用商標「蛸焼工房」の商標権侵害訴訟事件について詠んでみました。
○登録商標の指定役務と、実際に販売していた商品との乖離
被告さんは原告さんより前に「蛸焼工房」を登録してたのですが、指定してたのが「飲食物の提供」という役務であり、商品「たこ焼き」を指定してなかったため、原告さんが後から商品「たこ焼き」等を指定して「たこ焼き工房」を登録しました。被告さんはテイクアウトで「たこ焼き」を販売していたため、商標権侵害が認められてしまった…という事件です。
商標登録をしたから絶対安全というわけではなく、事業展開するうちに当初の登録商標の権利範囲から外れてしまうことがあるので、実際の事業で使っている商品は何か?役務は何か?をよく確認すべし…と教訓になります。
○先使用権
また、被告さんは、15年以上も前から愛知県を中心として店舗展開してたので、周知性を主張して、先使用権と4(1)10の無効理由を主張したのですが、周知性は認められませんでした。判決文では詳細に理由が判示されているので、参考になります。
ちなみに、先使用権が一旦認められると、その効力が全国に及ぶとされる判例が多いようですが、周知性が認められた範囲を超えて先使用権を認めるのはどうなんですかねー?先使用権が全国に及ぶとなると、先使用権を認めるのにも慎重にならんとかんのではと思う派です…
判決文 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/322/090322_hanrei.pdf
判決日 | 事件番号 | 裁判所 | 種別 | 本件商標 | 指定商品役務 | 結論 | 被告商標 | 使用商品役務 |
2021/4/26 | 平成31年(ワ)第784号 | 大阪地裁 | 商標権侵害差止等請求事件 | 「たこ焼工房」(標準文字) | 30類 たこ焼き,たこ焼きソース,たこ焼き用の粉 | 一部認容(侵害認定) | 被告標章
蛸焼工房 (登録第4653322号) |
たこ焼き等
被告登録商標 |
事案の概要(抜粋・簡略) |
被告は,平成11年1月頃から,被告標章を付した看板及びショウウィンドウを使用する店舗においてたこ焼きを製造,販売し,又は販売のために展示しているところ,その際,被告標章を商品の包装に付して使用していたまた,被告は,その運営するウェブサイトにおいて,被告標章を付した商品の広告を掲載していた。原告は,平成30年2月9日,被告に対して警告書を送付し,被告標章の使用が本件商標権の侵害に当たる旨指摘した上で,ライセンス契約締結による解決を提案した。しかし,被告は,同年3月6日,これを拒否した。そこで,原告は,同年5月17日,特許庁に対し,被告標章が本件商標権の効力の範囲に属するとの判定を求めて判定請求をしたが,被告はこれに対し何ら答弁せず,特許庁は,同年815 月21日,その旨の判定をした。これを受けて,原告は,同年9月11日及び同年10月1日,被告に対し,改めてライセンス契約の締結又は業務提携の交渉を求めたが,被告は,同月15日,これを拒否した。その後の平成31年1月30日,原告は,被告に対し,本件訴訟を提起した。 |
判決(抜粋・簡略) |
○被告標章の周知性の有無(争点1-2)について (ア) 「需要者の間に広く認識されている」(商標法32条1項)といえるためには,全国的に知られている必要はないものの,商品又は役務の性質等を踏まえつつ,取引の実情を考慮して,一定の地理的範囲において広く知られているものといえることを要すると解される。本件においては,たこ焼きの需要者はたこ焼きを購入しようとする一般の消費者であると見られること,たこ焼きは,通常,加熱調理されて温かい状態で食べられる食品であることなどを考慮すると,被告標章が「需要者の間に広く認識されている」といえるためには,被告店舗が多数存在する愛知県及びその近隣県の需要者の多くに認識されていることを要するといえる。 (イ) 前記認定事実((1)ア)によれば,被告は,本件商標の登録出願まで15年以上にわたって被告標章を使用し,店舗を展開してきたものであり,また,被告の売上,愛知県内の店舗数,各店舗の総来店者数のいずれも,決して少ないとはいえ ない。 しかし,本件商標の登録出願当時における愛知県を除く隣接県の店舗数は,各県とも数店舗にとどまる(前記(1)ア)。愛知県においても,本件商標の登録出願後の数ではあるものの愛知県内に500店舗を超えるたこ焼き店が存在すること(前記(1)ア)に鑑みれば,被告店舗数は,それ自体をもって被告標章が需要者の多く に認識されていることを裏付けるに足りるほど多数であるとまではいえない。しかも,基本的には SC 内,しかも多くは地域密着型の総合スーパーマーケットに出店し,単独で又は他のファーストフード店その他の飲食店と共に,専門店として1階に位置し,店舗出入り口付近又はフードコートに配置され,たこ焼き,お好み焼き,たい焼き,焼きそば,フライドポテト,杵つき団子,ソフトクリーム等を主要な取扱商品とするという被告店舗の出店態様等(前記(1)イ)を考慮すると,その来店客は,基本的にはスーパーマーケットを中心とする SC 内の他店での買い物を目的とする買い物客のうち,買い物の合間の食事や持ち帰りの軽食として手軽に食べられる飲食物を購入するために来店する者が多数を占め,被告店舗での購入を主要な目的として来店する者は必ずしも多くないものと推察される。さらに,被告店舗において,被告標章は来店客により容易に認識され得る態様で表示されているといえるものの,こうした来店客が被告標章に払う注意の程度は必ずしも高くないと思われる。 また,上記出店態様等に鑑みると,出店先の SC がその商圏内で配布する広告宣伝用の折込チラシ等に被告店舗の広告も掲載される例が多いことが推察され,現にその例も認められるものの(前記(1)ウ(オ)),そのような折込チラシの性質上,被告の店舗に関する広告は,SC 内に出店する専門店の1つとして掲載されるにとどまり,その掲載スペースも大きくはないものと推察される(乙23添付の資料3及び4では,被告店舗に割り当てられているスペースは全体の 1/16 程度である。)。 求人広告においても被告標章が表示されていることが認められるものの,これに触れる者は求職中の者に自ずと限定されることに鑑みると,これをもって需要者に広く認識されていることを裏付ける事情としては必ずしも考慮し得ない。広告宣伝費としての支出額(前記(1)ウ(ア))も,売上及び店舗数を踏まえると,被告と同じ業種ないし業態の事業者に比して顕著な額を投下していることが明らかとまではいい難い。 本件商標の登録出願までに被告店舗がマスコミ等に取り上げられた状況(前記15 (1)ウ(イ)~(エ))を見ても,その回数はむしろ少なく,かつ,その影響が及ぶ範囲も限定的である。他方,上記時期に限らず,その後も含めた被告のウェブサイトの総閲覧者数,口コミサイトや第三者のブログ等での掲載状況(前記(1)ウ(カ),エ(ア))を見ても,その掲載数等が多いとはいえない。 これらの事情を総合的に考慮すると,被告標章は,本件商標の登録出願の際,被告の業務に係る商品又は役務を表示するものとして,愛知県及びその隣接県の需要者の多くに認識されていた,すなわち「需要者の間に広く認識されて」いたとは認められない。これに反する被告の主張は採用できない。 |
○損害額について ・38条3項の損害額にいて,被告店舗の展開地域における原告の事業ないし本件商標の知名度は低く,本件商標に類似する被告標章の使用が被告の売上及び利益に貢献する程度はかなり低いと見るのが相当とされ,被告が原告に支払うべき合理的な使用料率は,被告の被告標章を付した看板等を使用していた被告店舗におけるたこ焼きの売上の0.1%とするのが相当とされた。 |
備考・コメント |
原告登録商標は,H28.4出願,H28.9登録。
被告登録商標は,H14.4出願,H14.3登録。 被告は,令和2年5月17日~同年7月1日の間に順次,被告店舗全部につき屋号を「蛸焼工房」から 「蛸家くるり」に変更。 |
関連判例等 |
○先使用権には地域的限定がないとされた事例。 ・ゼルダ事件(平成 3 年(ネ)第 4601 号) ・コタン事件(平成 7 年(ワ)第 13225 号) ・Cache事件(平成 24 年(ワ)第 6896号) ・ベークノズル事件(平成 12 年(ネ)第 5059 号)○先使用権は周知性を獲得した範囲に限って認められるとした事例。 ・ケンちゃん餃子事件(平成 19 年(ワ)3083) 原告は一定地域における先使用権の確認を求めていた。 |
コメント