今年もAdventarにエントリーしました。書く内容はずいぶん前から決まっていたのですが、思いがこみあげてきて、なかなか書き進められなかったです。
唐突ですが、MANDARA や 今昔マップ というソフトをご存知でしょうか。地理や地図の世界では、かなり有名なソフトです。
(この地図は、「MANDARA JS」((C)谷 謙二)により作成したものです。)
(この地図は、時系列地形図閲覧サイト「今昔マップ on the web」((C)谷 謙二)により作成したものです。)
これらのソフトを開発したのは、埼玉大学で教授をされていた 谷 謙二 氏です。
このブログを読まれている方の中に、もしかしたら、ご存知の方がいらっしゃるかもしれません。
谷くんのことを「谷謙二氏」と呼ぶのはちょっと気恥ずかしいので、以下では「谷くん」と呼ばせていただきます。
谷くんは、wikiにも掲載されている研究者です。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B0%B7%E8%AC%99%E4%BA%8C
谷くんの作ったサイトでの自己紹介はこちらです。
https://ktgis.net/lab/study/profile/index.html
以下、長すぎる前置きから。まじで前置き長いです、ご承知置きを…。
谷くんは、もともと愛知県出身で、埼玉県に行ってしまうまでは、愛知県のA山岳会に所属していました。
その頃、わたしは、別のW山岳会にダンナと共に所属していたのですが、谷くんの所属していたA山岳会と我々のW山岳会は、同じ連盟に加盟していたので、互いの会で交流がありました。
A山岳会にはFさんという女性会員がいて、わたしは、Fさんとロープを組んで、よく岩や山に行ってました。ときどき谷くんを誘って、Fさん・わたし・ダンナの4人でも、岩や山に行っていました。
谷くんは、当時若くて、体力が有り余るほどの元気な「ガチの山屋」さんで、Fさんと共に厳冬期の北岳に登ったり…と、ガンガン登ってたと記憶してます。(谷くんとFさんは頻繁に一緒に山に行ってました。)
われわれ皆 20代~30代と若く、突撃系の山行を結構やってました。
色んな思い出があります。上手くいかなかった山行も結構あったけど、それも含めて楽しかったなぁ。
MANDARAがだんだんと有名になっていった頃だったと思います。
谷くんとはもともと別の山岳会ということもあり、谷くんが埼玉県に行ってからは次第に疎遠となり、ときどき研究者としてのご活躍を耳にするくらいでした。
埼玉県に行ってからは、山よりも ボルダリングにハマってると風のうわさにも聞いてました(当時はボルダリングといえば、外岩ボルダーを登ることを指してました)。おそらく、研究に時間が取られるので、山ではなく、気軽に行って帰ってこれるボルダリングを始めたのかな?と思ったりしてました。
ダンナと谷くんは同じ大学出身で、谷くんは、ダンナの年の離れた後輩ということもあり、わたしよりもダンナの方が谷くんと交流がありました。年賀状のやりとりもしてたように思います。
※わたしの記憶の中の谷くんの風貌が残っている写真を見付けました。「元気な山男子」を想像できますよね?
http://www.saitama-u.ac.jp/edu/content/tani1.pdf
そうしてるうちに、○十年ほど過ぎました。
…
さて、何がきっかけだったか忘れましたが、たまたま、twitter上で谷くんのアカウント( @ktgis )を見つけました。谷くんは既に有名な研究者になっていたので、色んな方がリツイートしてて、それで気付いたのかもしれません。
見つけたときは「え、谷くん?? 懐かしい~!!!」と、すごく嬉しかったです。
界隈では有名人だったにも拘わらず、「名古屋のひろたです!」と名乗ったら、即、フォローしてくださいました。
ときどき、山に関するtweetもされていたので、リプなどで交流もしてました。
Fさんが山から遠ざかった後もときどきやりとりしてたのですが、つい最近、ある事情があって、久し振りにFさんに連絡を取ってみました。そしたら、Fさんはちょうど山に復帰したいと思っていたところだったようで、「また山に行こう!」と二人でテンション上がって盛り上がっていたところでした。
そんなこともあり、
「そういえば、谷くんに、Fさんとまた山に行くかもしれないって、お知らせしよっかな。
ところで、最近、谷くん、twitterで見かけてないような? 様子を見てみよっかな。」
と思い、
本当に、
何気に、
谷くんの名前で、軽く google検索したのです。
目を疑いました。
「谷 謙二 訃報」
…????????????
「何これ…!!」
見た瞬間、隣にいたダンナに言ったっきり、言葉を継げなかったです。
ショックでした。
その後わかったのですが、谷くんは、10年以上に白血病を発病してずっと闘病されていたとのことです。随分前から、山はおろか、当然ながらボルダリングにも行ってない。
tweetの言葉の端々から「病気されてるのかな?」と感じてはいたのですが、若い頃の元気な谷くんのイメージしか頭に残っていないので、そのうち治る病気と思い込んでいました(twitterをじっくり見ているわけではないし…)。
Fさんにもすぐ連絡したのですが、全く事情を知らなかったようで、かなり動揺していました。
Fさんも、谷くんからの年賀状で、病気されていることは知っていたけど、そんなに悪いとは思ってなかったようでした。
私は、8年ほど前にも、自分の山岳会でとても仲良くしていただいていた おっちゃん が病気で亡くなった経験があり、そのときは ほんとに辛くて、半年ぐらい立ち直れなかったです。
谷くんとは何年も疎遠になってましたが、おっちゃんが亡くなったときの悲しい気持ちが まざまざと蘇りました。山の中で笑い合ってた仲間が亡くなるのは、ほんとに悲しい気持ちでいっぱいになります。
悲しすぎて、思わず衝動的に、谷くんをご存知の 鈴木健治先生( @info_kvaluation )にDMをしてしまった(お忙しいところ、つまらない長文スミマセンでした…)。
そのあとしばらくして、谷くんの奥様から、訃報をお知らせの ハガキをいただきました。
(奥様も、谷くんとFさんが所属していたA山岳会にいらした方で、岩場で一度お会いしたことがあります。)
それから少し時間が経ちました。谷くんの業績を改めて見てみると、本当に、世の中にとって多大な貢献をしていたんだなぁとしみじみと感じています。
昔から気のいい子だったので、自分が開発した MANDARAも今昔マップも自由に使えるようにしていて、地理の教育や研究のみならず、防災の分野や企業などで、幅広く活用されているようです。
他にも色んなソフトやサービスを提供しています。
https://ktgis.net/lab/software/index.html
https://ktgis.net/service/index.html
谷くんの気持ちを勝手に推測すると、今後も色んな人に利用していって欲しかったんだろうなぁと思います。
MANDRAと今昔マップなど、谷くんが開発したソフトを、今後も継続して広く使ってもらったり、発展させようとすると、色々手を加える必要が出てくると思います。そうすると、どうしても、知的財産がどうなっているのかを知っておいた方がいい場面が出てくると思います。
知財業界に身を置いている者として、知財のことを少し書いてみます。
知財業界の方には釈迦に説法かもしれんですが、一般の方にも知っていただきたいです。
ソフトウェアに関連する知的財産といえば、著作権が代表的なものですね。
(なお、谷くんが出願人や発明者になっている特許権、商標権がないことは確認しました。そもそもフリーソフトとしてオープンにしてたくらいなので、権利取得するという考えすら浮かばなかったでしょうね…。)
◆著作権はいつまで続くか
MANDARAと今昔マップなど、谷くんが創作した著作物の著作権は、来年の1月1日から70年続くことになります(著作権法51条、57条)。
◆谷くんが持っていた著作権は誰が持つことになるか
谷くんが生前これらソフトの著作権を第三者に譲渡していたのでなければ、ご遺族である奥様に著作権が承継されていると思います(民法896条)。
○著作者人格権
一方、著作権の中でも「著作者人格権」(著作権者にのみ認められている権利)については、相続の対象にならず、著作権者の死亡とともに消滅することとなっています。
「著作者人格権」としては、例えば、
・「氏名表示権」(著作権法19条):氏名の表示を求める権利
・「同一性保持権」(著作権法20条):無断での改変を禁止する権利
・「名誉声望を害する方法での利用を禁止する権利」(著作権法113条11項):著作者の名誉を害するような方法で使用されることを禁止する権利
などがあります。
これら「著作権者人格権」は、著作者が亡くなれば消滅するわけです。
ただし、著作権者が生きているとしたならば「著作者人格権」を侵害するような行為は禁止されており(著作権法60条)、ご遺族の方は、「著作者人格権」を侵害した者に、侵害の差止め・予防等や、侵害行為者に故意過失がある場合は名誉回復等の措置を請求することができます(著作権法116条1項)。
◆どういう行為が問題となりそうか
以上を踏まえて、谷くんのソフトを今後も維持・発展させていこうとすると、以下のことが問題になるでしょうか。
①OSやブラウザのバージョンアップに合わせた修正やバグの修正、処理速度を向上させるための修正や機能追加・拡大等の修正など
著作権法では、
「プログラムの著作物を特定の電子計算機において利用し得るようにするため,又は電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変」
については、「同一性保持権」が及ばないとされています(著作権法20条2項3号)。
平たくいうと、改修の範疇といえるような修正は、特に断りなく行っても大丈夫、ということになります。
ソフトをちゃんと機能させようとすると、改修は必要になりますもんね…。
MANDARAの最終更新日は2022/4/2 となっています。春は元気だった…。
更新履歴を見ると、かなり頻繁にエラー修正などしていますね…。
当面は機能していても、今後、例えば、OSのバージョンアップ等で上手く動かなくなることがあるかもしれない…。
わたしはプログラミングが全くできないので、そのときは、志を受け継ぐどなたかに改修作業をやっていただけると…と、個人的には希望しています。
せめて、広く使われていたMANDARAと今昔マップだけでも…。
②データの追加など発展系の改変
今昔マップの最終更新日は2022/4/21となっていますが、こちらはデータを追加した更新日のようです。
谷くんが作ったソフトは、元データがキモといえるようなものが多いようですが、
新しいデータを追加した上で、うまくソフトが機能するように改変することは、上記①の改修の範疇を超えていると思います。
となると、「翻案権」(もとの著作物の特徴を活かしながら、別の著作物(二次的著作物)を創作する権利)の侵害になるかも…???もしそうだとすると、ご遺族の方のご了承がいることになります。
基本的には、よりよく発展させていこうという改変になりますが、ご遺族の方の気持ちをまずは尊重すべきですね…。
谷くんの遺してくれた財産を、今後も、価値あるままで継続させていきたいなぁ…。そんな思いで、今回のアドベントカレンダーの記事を書きました。
自分がプログラミングができなことが、とてももどかしいです。
したがいまして、『原作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)を表示し、改変した場合には元の作品と同じCCライセンス(このライセンス)で公開することを主な条件』として、改変が可能となると思います。
参考:https://creativecommons.jp/licenses/
コメント
静岡県の高校で地理を教えている教員です。
MANDARAのヘビーユーザーです。谷先生には学会等で何度かお会いして、色々教えていただいたというか、しょうもない質問や、「英語版→世界進出計画」を掲げて、「ソースはあるから、頑張って自分で作ってね♪」と、あしらってもらっていました。元気な頃の写真を見て、元気でキレキレだった頃の先生の姿が思い出しました。
知的財産の記事、非常に興味深く拝読しました。一社会科教員としても非常に勉強になりました。研究者や教員、地図関係者など、色んな方面の方が動き出そうとしておられる中で、一遍を照らす提起だと思いました。拙ブログ、およびSNSでシェアさせていただくことをご了解いただければ幸いです。
こんにちは。返信が遅くなり申し訳ございません。ありがとうございます、ぜひシェアを宜しくお願いいたします。
はじめまして。
学部生時代に谷先生から授業を受けていた、現ITエンジニアの者です。
ライセンスまわりについてお聞きしたいのですが、↓のサイトを見るとオープンソース&商用利用可のように見えます(ライセンスはCC BY-SA)。
https://ktgis.net/mandara/download/index.html
>うまくソフトが機能するように改変することは、上記①の改修の範疇を超えていると思います。
知財詳しくないのですが、ライセンスがCC BY-SAなら改修してもOKなのでしょうか?このまま使えなくなるのは日本の損失に繋がることを危惧しております。また、意思を引き継ぎ、更なる発展も必要と考え質問しております。
こんにちは。コメントありがとうございます。返信が遅くなり申し訳ございません。
実際に動いていただけそうな方からコメントいただき驚くとともに嬉しく思います。少し詳しく見てみますので、しばらくお待ちください。