自動車部品はトリッキー

<知財高 令和6年(行ケ)第10052号 審決取消請求事件>

■判決文
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/933/093933_hanrei.pdf

■本件商標
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2019-035278/40/ja
指定商品:12類「動力伝導装置(陸上の乗物用の機械要素)」

 

原告と被告の社名を見て、一瞬、親会社とその米国現地法人の内輪もめ事件か?と思ってしまいましたが違いました。

被告は、元々は原告の子会社だったのですが、2014年に親子関係は解消されていました。原告と被告は、現在では競合関係にあるにもかかわらず、ブランドは両社とも同じ「TOMEI」のままという、揉め事が起こっても不思議ではない関係となっていました。

案の定起きた事件というべきか、被告が取得した本件商標に対して、原告が、商標法4条1項10号該当を理由として無効審判を請求したところ、請求不成立とされたため、それに対して審決の取り消しを求めた、という事件です。

 

結論は、請求棄却。被告商標を無効にすることはできませんでした。

ざっくり判決内容をまとめると、

原告は、自動車のチューニングパーツを取り扱っていることから、周知性の主張の中で、「商標法4条1項10号の周知性の基準となる需要者は自動車チューニングの愛好家である」と主張しましたが、判決では、原告商品が販売されているオートバックスは自動車のチューニング用品のみならず、自動車に関連する商品を広く扱っている等々の理由から、「原告商標に周知性があると認められるか否かの基準となる需要者は、自動車の部品を購入する一般の消費者である」との判断となり、周知性立証のハードルが格段に上がってしまいました。原告が提出した証拠が、ことごとく、自動車のチューニングに関する雑誌だったり、自動車のチューニングに関するウェブサイトだったり、自動車のチューニングに関するイベントに関するものだったりしたため、「原告商標は、原告の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして、需要者である自動車の部品を購入する一般の消費者において広く認識されていたとは認められず、商標法4条1項10号の『他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標』に当たるとは認められない」
と結論づけられました。

 

判決はともかくとして、要は、原告の商標権に穴があった、ってことです。

 

原告は、被告の本件商標出願日時点で、「TOMEI」について商標権を取得済みでした。

原告商標
1.登録1836022「TOMEI」
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-1983-008832/40/ja
指定商品:12類「自動車並びにその部品及び付属品」
2.登録5782437「TOMEI」
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2015-030017/40/ja
指定商品:7類「自動車用エンジンの部品,その他の動力機械器具(陸上の乗物用のものを除く。)及び動力機械器具の部品」

 

、12類「動力伝導装置(陸上の乗物用の機械要素)」が未取得で、穴があいていた。そこを被告に取られてしまったので、無効審判を請求しなければならなくなったわけです。

上記1.の登録はずいぶん昔のやつなので置いとくとしても、2.の商標権取得時に、そこも押さえておけば今回のような事態は避けられたのに~。ましてや、ややこしい関係にある被告の存在もあるという状況だったわけなんだから、なおさら用心して、広めに商品を指定しておいてほしかったところです。

 

ここで、「自動車部品」と聞けば、まず12類が思い浮かびますが、自動車部品はトリッキーで、例えば、「エンジン」、「軸受」、「クラッチ機構」などは、全部、フツーに考えれば自動車部品だけど、商標出願の指定商品としては、「自動車の部品(類似群コード12A05)」ではなく、それぞれ、12類の「陸上の乗物用の動力機械器具(その部品を除く。)(類似群コード09B01)」、「軸受(陸上の乗物用の機械要素)(類似群コード09F01)」、「動力伝導装置(陸上の乗物用の機械要素)(類似群コード09F02)」となります。じゃあ類似群コード12A05の「自動車の部品」には何が含まれるかというと、多岐に亘りますが、エアバッグとか、座席とか、タイヤとかヘッドレストとか…(素人にも分かりやすい部品てことか?)

さらに「エンジンの部品」は、12類でさえなく、7類の「動力機械器具の部品」に該当する(この点、原告は、ちゃんと7類の自動車用エンジンの部品を押さえていた、んですが…)。

また、どの類似群コードに属するのか微妙な部品も多々あるようで…(本事件の審判段階では、個々の商品がどの類似群コードに属するのか、原告側と被告側とで主張が分かれていた模様。)

 

つまり、漏れが起こりやすい分野なんじゃないかと。

 

ボンネットの中や、足回り等、自動車の外(と運転席)からは見えない部品については全く分からない私などは、もし自動車部品についての商標出願の依頼があった場合には、「自動車の部品ですね、ハイ、わかりました!」ではなく、上記を念頭に置き、お客様の事業や取扱商品等についてよくヒアリングし検討して、的確に、かつ広め広めの指定商品の記載をするよう、気を付けんといかんなー、と思わせてくれた事件でした。

 

<担当:上田>

 

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