<平成21年(行ケ)第10071号審決取消請求事件>(判決文はこちら)
意匠のハナシが続きましたが、今日は商標に戻ります。
本日取り上げるのは、ひっくら返り系商標同士について4条1項11号・15号で争われた事件です。
個人的に突っ込み入れにくい事情がありますが、ひっくら返り系商標って結構気になりますので取り上げてみました。
○概要
本件商標について4条11号・15号を理由として無効審判請求がなされたのですが請求は認められず、請求人が原告となって提起したのがこの事件です。
本件商標(商標登録第4926734号)はこちら。久光製薬さん(本件の被告)の登録商標です。
関係する指定商品は第5類「ばんそうこう,包帯,創傷被覆材」等です。
4条1項11号の引用商標(登録第4640129号)はこちら。日東電工さん(本件の原告)の登録商標です。
指定商品は第5類「ばんそうこう,粘着包帯,包帯,創傷被覆材,医療用シート状粘着テープ,カテーテル固定用粘着テープ,その他の医療用粘着テープ,医療用テープ」です。
この登録商標は、こちらのシリーズ商品について使用されているようです(日東電工さんのHP)。
○審決
無効審判での審決は、本件商標は4条1項11号にも15号にも該当しないというものでした。
当審の判断をざっくりいうと、こんな感じ。
・4条1項11号について:
本件商標が造語であり一連の読みも特定できず「キユウ」、「ハダユウ」、「ハダヤサ」という称呼を生じるのに対し、引用商標も全体としてまとまりよく「YU-KI」が併記されているから「ユウキ」の称呼のみが生じるので、称呼は互いにあい紛れるおそれがない。外観も明確に区別し得て観念については比較することはできない。よって、称呼、外観及び観念のいずれの点から見ても互いに類似しない。
・4条1項15号について:
請求人(本件の原告)と関連会社の使用商標は、主として「優肌」の漢字が基礎として用いられており、この漢字の読みを特定するものと認められる「ゆうき」、「YU‐KI」の各表記が多数確認できるものであるから、「優肌」よりは「ユウキ」の称呼をもって、取引されているとみるのが自然である。 そうすると、請求人らの使用商標は、本件商標とは別異の商標として認識、理解されるというが相当である。 してみれば、本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が引用商標又は請求人らの使用商標を連想、想記して、請求人若しくは請求人と何らかの関係のある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれのないものである。
これだけ見る限り、審決も「なるほど」と思うような。
それでは裁判ではどうだったんでしょう?
さて、4条1項11号の判断でも、15号の判断でも、取引の実情が考慮され(ることになってい)ますよね。
で、4条1項11号については、かの氷山事件(最高裁昭和39年(行ツ)第110号昭和43年2月27日第三小法廷判決)の一節がその拠所とされることが多いですが。
『「商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきものであるが,それには,そのような商品に使用された商標が外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきである』
裁判では、取引の実情として、こんな事実等が挙げられました(判決文5~7頁、11~13頁、20~23頁。ごく簡単にまとめています)。
・引用商標に係る指定商品についての取引の実情等:
引用商標が使用されている固定テープ・巻絆創膏の市場は、医家向け65%、薬局・薬店向け35%で、原告関連会社の売上高ベースの市場シェアは7.6%。
近年、低刺激絆創膏のニーズが高まり、種々開発されるようになった。そして原告は、遅くともH6に「優肌絆」を販売し、その後、優肌シリーズをH8から販売開始した。優肌シリーズはほとんど医療機関向けで、全国の病院数のほぼ90%に「優肌絆」が納入されているのに加え、インターネットの通信販売も行われている。
・原告商標の使用態様:
こちらをご覧いただくのが一番かと…
・原告と関連会社の宣伝広告活動や種々実績等:
引用商標を付した商品を有力な看護専門誌に広告を頻繁に掲載したり、医療関係の学会・見本市・セミナー等においても多数参加して広告宣伝をしたり、商品についての説明会・研修会・講習会を開催したりした。
なお、第三者の報告・論文等に取り上げられたり、いくつかの賞を受賞したりもしている。
裁判所はこういった取引実情をどのように考慮し、どのような判断をしたのでしょうか。
続きは次回にて。
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