細胞しらべて

<平成21年(ネ)第2110号損害賠償請求控訴事件>(判決文はこちら。ちなみに原審の判決文はこちら)

 本日も気合を入れて意匠の判決をご紹介します。これも少し前に公開されたものですが、なかなかおもしろい判決でしたので、取り上げてみます。
 意匠権侵害訴訟の事件でございます。

 まず、意匠権者さんが持っている意匠権(本件意匠:意匠登録第888566号)から。意匠に係る物品は「医療用細胞容器」です。
 
 

 ちなみに本件意匠には、下記3つの類似意匠が登録されております。
 類似意匠1号。
 
 
 類似意匠2号。
  
 
 類似意匠3号。
 
 

 さて。
 
 原審において、被告さんは、色んな公知意匠を証拠として提出していました。
 
 そして、原審の裁判所は、それら証拠を参酌しつつ、本件意匠の認定を行っています。

 まず、本件意匠の基本的構成と認定されたのは、以下の3点です。
 『(ア) 蓋と容器本体からなる。
   (イ) 容器本体は,上面を開口した直方体で,その平面は縦と横の構成比が約3対4の横長の長方形で,四隅が扇形の形態(丸みを帯びた形態)から成り,正面は高さと横の構成比が約1対4であり,底面には多数の透孔が存在する。
   (ウ) 蓋は,薄い板状で多数の透孔が存在する。また,底面の左右の短辺に容器本体に取り付けるための突起が存在する。
』(原審判決文16頁)。
 
 それで、基本的構成については、原告さんの提出した公知意匠を参酌して、
 『いずれも本件出願当時,既に周知であり,本件物品においてありふれた形態であったと認められる。
 したがって,本件登録意匠の基本的構成態様において要部となるべき部分はないというべきである。

 とされました(原審判決文20頁)。

  また、本件意匠の具体的な構成と認定されたのは、以下の5点です((ア)~(エ)については、↓下の図の青字をご参照ください)。
 『(ア) 透孔の構成
  容器本体及び蓋の透孔は,小さな正方形のマス目状であり,縦7列 横10行で配列されている(透孔の総数70個)。容器本体の透孔は内壁に密着していない(蓋の底面のリブの厚さとほぼ同じ間隔がある。)。
  (イ) 標本収納部の構成
  容器本体内部には仕切りがなく,内部壁面は底面から略垂直になっている。
  (ウ) 蓋と容器本体を固定するための構成
  a 蓋を容器本体に固定するために,蓋の一方の短辺に,中央に間隔を開けて2個,他方の短辺の中央部に1個の突起が,それぞれ設けられている。
  b 当該突起はレ字状となっており,容器本体の左右側面には同レ字状突起と結合する段差が,突起の幅より広い範囲で設けられている。
  (エ) 容器本体の横に設けられた段差
  容器本体の長辺部には,底面から本体の高さの4分の1程度の高さの位置で,側面に略垂直に突出し,さらに底面に略垂直になるように段差(本件段差)が形成されている。
  なお,本件段差は,容器本体の長辺部から短辺部に回り込み,前記(ウ)bの段差へ垂直に結びつくことによって,容器本体の左右側面に逆凹字状の形状を形成している。
  (オ) 蓋
  a 蓋の長手方向の一端部が切り欠かれている。
  b 蓋の底面には,一対のコ字状のリブが,透孔の集合体を囲うように(透孔の集合体を囲うリブの左右の短辺中央が欠けた状態で)設けられている。
』(原審判決文16~17頁)

  
 
 

 具体的構成についても、被告さんが提出した公知意匠を参酌しつつ、
   「(ア)透孔の構成」については、『透孔の数や配列が,上記公知意匠における透孔の数や配列と比べ,特に異なる印象を与えるものとも認められない。』とし、
  「(イ)標本収納部の構成」についても、『周知の形態にすぎない。』とし、
  「(ウ)蓋と容器本体を固定するための構成」についても、『各構成については,これを無視することはできないものの,需要者に与える美感は限定的というべきである。』としました。
  一方、「(エ)容器本体の横に設けられた段差」については、
  『本件段差について,本件物品においてかかる段差を設ける構成が,本件出願時において公知ないし周知であったと認めるに足りる証拠はない。
  また,使用態様に照らしてみても,本件物品では,パラフィン標本を容器本体底部に付着させた後,これを裏返してアダプターに固定してミクロトームでスライスするというのであり,本件段差はアダプターに固定する際に,アダプターの爪に係合するものであることからすれば,本件段差は需要者の注目する部分ということができる。
  もっとも,証拠によれば,本件物品の容器本体側面に段差を設ける構成自体は,本件出願時において公知であったと
認められる。よって,本件段差が需要者に新規な美感をもたらすとしても,その程度は必ずしも大きくはない。

 としました

 そして、「(オ)蓋」については、『需要者に特段の美感を与えるものとはいえない。』としました(原審判決文20~22頁)。

 ということで、本件意匠の要部は、
 『本件段差(この段差が,蓋の突起を容器本体に係止させるための段差と結びつくことによって,左右側面において形成された逆凹字状の形状を
含む。)ということができる。

 とされました(原審判決文23頁)。

 ところで、一方の被告製品は、こちら。
 
  
 
 
 あれれ?
 被告製品の正面図や右側面図等を見てみると、本件意匠の要部と認定された段差と同じような段差がございます。
 では、原審では、被告製品意匠が本件意匠と類似すると判断されたのでしょうか?
 
 …については、次回にて。
 ↓↓↓
 
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