ギリシャ共和国、がんばる

今日は商標の判例「至福のギリシャ事件」をご紹介します。

令和6年11月27日判決 令和6年(行ケ)第10055号
無効審判不成立に対する審決取消請求事件

判決文
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/616/093616_hanrei.pdf

■当事者
原告:ギリシャ共和国 (以下、Xという。)
被告:Y

■事案の概要

商標登録第6375329号(以下、「本件商標登録」という。)
商標:「至福のギリシャ」(以下、「本件商標」という。)
指定商品:「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」
権利者:Y

本件商標登録の経緯も面白いのでご興味がある方はどうぞ
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2019-016617/40/ja

 

原告Xが、Yの所有する本件商標登録に対して無効審判を請求したが認められず、それに対して審決の取り消しを請求した事件です。

Xは、商標法3条1項3号該当性,4条1項16号該当性,3条1項柱書違反及び4条1項7号該当性を審決取消事由として、上記審決の取消を請求しましたが、全て認められず、請求棄却されました。

 

■裁判所の判断(抜粋)

1.取消事由1(商標法3条1項3号該当性の認定判断の誤り)について

本件商標が「ギリシャ」であれば、商品の産地又は販売地を表示する標章に当たるといえるが、本件商標は「ギリシャ」ではなく「至福のギリシャ」であり、ギリシャと何らかの形で関連する商品であることを表示するに止まるから、「ギリシャ」を産地又は販売地として表示するものに当たるとはいえない。したがって、本件商標は、「商品の産地、販売地その他の特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」とはいえない。

2 取消事由2(商標法4条1項16号該当性の認定判断の誤り)について

本件商標は、ギリシャという国あるいは地域の抽象的なイメージを「至福の」という肯定的なイメージとともに需要者に連想させ、ギリシャと何らかの形で関連する商品であることを表示するに止まるものである。そして、本件指定商品は「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」であって、それがギリシャと関連を有する商品であることは明らかであるから、本件商標が、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標とはいえない。

3 取消事由3(商標法3条1項柱書の充足性の認定判断の誤り)について

少なくとも、ヨーグルトの製造販売業者である被告において、将来的に「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」を製造販売する蓋然性はあり、本件商標を本件指定商品に使用する意思もあったと認めることができるというべきである。

4 取消事由4(商標法4条1項7号該当性の認定判断の誤り)について

(1)…本件商標は、ギリシャという国あるいは地域から連想される抽象的なイメージを「至福の」という肯定的なイメージとともに需要者に連想させ、ギリシャと何らかの形で関連する商品であることを表示するに止まるものである。
…そうすると、被告が本件商標を登録し、本件指定商品すなわち「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」について使用することが、社会公共の福祉に反し、社会一般の道徳に反するということはできない。

(3)…「ギリシャヨーグルト」がTRIPs協定22条にいう地理的表示に当たるか否かはともかく、本件商標は国家名のみを示したものではなく、「至福のギリシャ」という表示は、産地を示す表現であると認めることはできないことは前記のとおりである。すなわち、本件商標は、商品の原産地を特定する表示であることを内容とする同条の「地理的表示」に当たるものではない。したがって、本件商標の登録を認めることが、一般に国際信義に反するとは認められない。

 

■コメント

ここ十数年ぐらいでしょうか、一般的なヨーグルトより水分を減らして濃厚な食感としたギリシャヨーグルトの人気が高まっていますが、最近では、「グリークヨーグルト」と名前を変えたものが、若者の間で流行しているようですね(知らんかったなー)。

ギリシャヨーグルトは、日本だけでなく世界中で、ここ20年ぐらい人気となっているようですが、この事件の背景には、ギリシャ製でもなく、ギリシャ産の原材料を使用してもいないヨーグルトが、「ギリシャヨーグルト」「ギリシャなんとか」として世界中で販売されていることを、ギリシャが良く思っていないことがあると思われます。

本件商標登録の経過情報から分かったことですが、ギリシャ共和国は、無効審判請求前に異議申立も行っており、また、以下の事件でも、異議申立人になっています。こちらは、ズバリ「グリーク\ヨーグルト」「GREEK\YOGURT」を含んだ商標。

異議2019-900013(商願2018-23140)

j-platpat

 

まあ確かに、日本で製造されていない酒が「日本酒」と言って外国で売られていたら日本人としては「やめて」と言いたいですもんね。ギリシャ共和国の気持ちも分かる。

調べてみたところ、ギリシャ共和国が、EUにおいて、「Greek Yogurt」について、地理的表示保護(PGI、Protected Geographical Indication)の認定取得に向けて活動しているという記事が、日本語、英語で、2017年あたりのものからちょくちょく見つかりました。

その後の記事は見つからないので、つまり、まだ活動は実を結んでいないようですが、このように、異議申立をしたり、無効審判を請求したり等の活動をがんばっているようです。本件商標は、「ギリシャ」ではなく「至福のギリシャ」であり、「ギリシャヨーグルト」が地理的表示として認められていない現段階の判断としては、妥当な判決かと考えます。ただし、ギリシャ共和国の今後のがんばり次第で、「ギリシャヨーグルト」が地理的表示として認められた暁には、その後、今回と同様の事件が起こった場合、違った判断が出されることになるかもしれません…

 

ところで、地理的表示は、「シャンパン」や「ボルドー」等、国の一地域の名称(+産品名)ばかりかと思っていましたが、「ギリシャヨーグルト」「日本酒」のように、ズバリ「国名(+産品名)」のようなものもあるんでしょうかね?

…と思ったら、国税庁HPによれば、「日本酒」という呼称は地理的表示(GI)として保護されているそうです。「国名」でもいいんですね!

「「清酒」(Sake)とは、海外産も含め、米、米こうじ及び水を主な原料として発酵させてこしたものを広く言います。「清酒」のうち、「日本酒」(Nihonshu/ Japanese Sake)とは、原料の米に日本産米を用い、日本国内で醸造したもののみを言い、こうした「日本酒」という呼称は地理的表示(GI)として保護されています。」

「地理的表示「日本酒」については、海外でも保護されるよう国際交渉等を通じて働きかけを行っています。」←ここが重要ですね。
だそうな!

ここまで書いたら、ギリシャヨーグルトが食べたくなってきてしまいました!買って帰ろう!

<担当:上田>

 

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