商標「総本家駿河屋」審決取消請求事件

【担当:弁理士 浅野令子】

令和1(行ケ)10111
判決文PDF
(全文)https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/314/089314_hanrei.pdf

1. 事実関係

(1) 本件商標
本件商標:総本家駿河屋(標準文字)
登録番号:5943016
出願日 :H26.5.20
登録日 :H29.4.28
指定商品:第30類 最中(平成26年6月17日付けで手続補正)
商標権者:株式会社総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家(株))

(2) 引用商標

(3)事案の概要
旧駿河屋(原告側)は,昭和19年3月27日に設立された,菓子の製造,卸売, 小売等を目的とする株式会社である。 旧駿河屋は,経営が悪化し,平成26年1月17日,和歌山地方裁判所に民事再生の申立てをし,同年2月4日,再生手続開始決定を受けた。
和菓子の製造・販売等を業とする(株)千鳥屋宗家は,旧駿河屋の民事再生手続において,旧駿河屋のスポンサー候補となった。その後,(株)千鳥屋宗家の子会社である総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家(株),被告側)は,旧駿河屋の事業を譲渡する旨の事業譲渡契約を締結した。

事業譲渡が不調に終わり,旧駿河屋は,平成26年5月29日,契約を解除した。

原告は,旧駿河屋の破産手続廃止決定確定後の平成26年11月7日に設立され,翌年,旧駿河屋の旧店舗にて営業を再開した。

(4)手続の経緯

平成26年5月20日,総本家駿河屋(旧千鳥屋宗家(株),被告側)は,本件商標を出願した。

本件商標は平成29年4月28日に登録され、被告は、同年5月17日付けで、原告に対し、原告による本件商標の使用が本件商標権の侵害に当たる旨の通知をした。

原告は,平成29年7月18日,本件商標の登録について,商標法4条1項11号及び4条1項7号違反を理由とする商標登録無効審判を請求した(無効2017-890044)。

特許庁は,令和元年7月18日,本件商標登録を維持する旨の審決をした。
原告は,令和元年8月21日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2. 争点

(1) 商標法4条1項11号の該当性
(2) 商標法4条1項7号の該当性

3. 裁判所の判断

裁判所は,争点(1) 商標法4条1項11号の該当性についてのみ判断しています。

(1) 結合商標の類否については,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部を要部として取り出し,これと他人の商標とを 比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものと解されます(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決 ・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9 月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行 ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561 頁参照)。

(2) 裁判所は,本件商標の登録査定時において,「駿河屋」の商標が和菓子の取引者,需要者の間において,旧駿河屋(原告側)が取り扱う和菓子を表示するものとして周知性を獲得していたと認定しました。

一方,「総本家」の語について裁判所は,「多くの分家の分かれ出たもとの家。おおもとの本家。」を意味する普通名詞であると認定し,「総本家」の文字部分と「駿河屋」の文字部分とは,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないと判断して,本件商標の構成中「駿河屋」の文字部分を要部として抽出することを認めています。

その上で,本件商標の要部「駿河屋」と,引用商標1及び2を対比し,字体は異なるが,「駿河屋」の文字を書してなる点で外観が共通し,称呼及び観念が同一であるとして,本件商標は,引用商標1及び2に類似する商標であるとの判断を示しました。
本件商標の指定商品「最中」は引用商標1及び2の指定商品「羊羹」と類似するため,本件商標は4条1項11号に該当すると判断しました。

(3) 被告は,①旧駿河屋は,「駿河屋」を単独では使用せず,「総本家」の文字を付して使用していることから,引用商標1及び2が,旧駿河屋が取り扱う和菓子を表示するものとして周知性を獲得したとはいえず,②仮に旧駿河屋が,引用商標1及び2について周知性を獲得したとしても,旧駿河屋の破産手続廃止決定の確定による法人格の消滅ともに,その周知性は断絶している旨を主張しました。
①について裁判所は,旧駿河屋の使用態様について,「駿河屋」の文字部分が,「総本家」文字部分と外観上明確に区別される態様で示されているとして,「駿河屋」の文字部分は独立した商標として使用されていると認定しました。
②について裁判所は,旧駿河屋のみならず,駿河屋会(「駿河屋」の商号,商標の保全に必要な協定及びその他の措置等の事業を行う ために発足した会)の会員の分家及び別家の経営する店舗の営業活動を通じて,「駿河屋」の商標は,和菓子の取引者,需要者の間において,周知性を獲得しており,このような「駿河屋」の商標のブランド名としての周知性は,法人格の消滅により直ちに失われず,本件商標の登録査定時においても維持されていたと判断して,被告の主張を退けています。

4. 実務上の指針

本件商標についての無効審判の審決では,本件商標「総本家駿河屋」は「視覚上,まとまりよく一体に表された,その構成文字全体をもってひとつの店舗の名称を表したものとして,取引者,需要者に理解されるとみるのが相当である。」と判断されました。

本件無効審判の請求人(原告)は,本件商標の構成中,「総本家」の文字部分は普通名詞であること及び引用商標「駿河屋」は,羊羹等に長年使用されて,周知・著名性を獲得していることなどから,本件商標の要部は「駿河屋」である旨主張していましたが,審決では,請求人(原告)の提出に係る証拠をもって,引用商標が,本件商標の登録査定時において,周知性を有していたと認めるに足りないことから,本件商標の構成中「駿河屋」の文字部分が,取引者,需要者に対して,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものということはできないとの判断が下されていました。

原告は,本件商標の登録査定時において「駿河屋」が周知性を獲得していたことを示す証拠として,刊行物や新聞各紙での報道資料などの証拠を本件訴訟で多数提出し,無効審判時よりも主張を増強しています。結果,本件訴訟では,無効審判とは真逆の結論となり,原告は,審決の判断を覆すことに成功しています。
本件訴訟は,周知性の認定により,結合商標の要部抽出の可否の判断が分かれた事例として,参考になります。

なお、共同でビジネスを始めたものの、途中から別々に事業を営むことになるケースは起こりえます。別々に事業を営むことになったときには話し合いが難しい場合もあるので、共同でビジネスを始めるときに、知的財産の権利の帰属をどうするか、予め取り決めておくのが望ましいと考えます。

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