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【米国特許】ターミナルディスクレーマーの危険性

米国の特許審査において、審査中のクレームが同一の出願人の特許または特許となりそうな出願のクレームと同一ではないものの自明であると審査官が判断した場合に「自明型二重特許(obviousness-type double patenting)である」との拒絶理由が出されることがあります。この場合、「ターミナルディスクレーマ―」を提出することで、この拒絶理由を解消することができます。

「ターミナルディスクレーマー(以下、TD)」とは、審査中の出願が特許となった場合には、存続期間満了日を自明型二重特許の根拠とされた特許の存続期間満了日に合わせて短縮する(存続期間の一部を放棄する)ことを宣言するものです。
書類を提出するだけで拒絶理由が解消できることから、日本の出願人にもよく利用されている手段です。

TDは大変容易で便利な手段ではありますがが、SIPCO v. JASCO Products Company事件で、2024年5月にオクラホマ西部地区連邦地方裁判所が下した判決により、危険性もあることが浮き彫りとなりました。

SIPCO社が所有する米国特許第8,335,304号(以下、'304特許)は、審査段階で米国特許第6,430,267号(以下、'267特許)に対して自明型二重特許であるとの拒絶理由が出され、SIPCO社はTDを提出しました。

実は、「6,430,267」は審査官の誤記で、SIPCO社が所有する特許は米国特許第6,430,268号(以下、'268特許)であり、'267特許は他社が所有するものでした。

しかし、SIPCO社は審査官の通知通り、'267特許に対してTDを提出しました。

裁判において、JASCO社は、SIPCO社は'267特許を所有していないため、'304特許は権利行使不能であると主張しました。
これに対し、SIPCO社はTDに記載された特許番号は明らかな誤記であり、TDは法的に無効であることを主張しました。

裁判所は、SIPCO社の訴えを却下し、'304特許は権利行使不能であるとのJASCO社の主張を認めました。

この判決により、たとえ誤記であることが明らかであったとしても、特許発行後にTDの修正や取り下げを行うことは非常に困難であることが再確認されました。

<自明型二重特許の拒絶対応ですべきこと>
・自明型二重特許の根拠とされる特許が自身の特許であるか確認する。
・自明型二重特許という判断が妥当であるか確認する。
・妥当である場合は、補正を行うことで解消可能かどうか検討する。
特許発行手数料を支払う前に、提出済みTDの内容を確認する。
・提出済みTDの内容に間違いがあれば、特許発行手数料を支払う前にTDを取り下げ、正しい内容のTDを提出する。

TDは非常に便利な手段ですが、特許発行後の修正や取り下げを行うことは原則できないため、TDの提出には十分な検討と確認を行う必要があります。