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【米国特許】特許適格性とMPFの違い ~「制御装置」を題材にして~

米国では、米国特許法101条の特許適格性の問題が頻繁に取り上げられ、非常に重要な問題となっています。

特に、2014年6月のAlice最高裁判決以降、特許権侵害訴訟において、特許適格性が否定されて特許が無効とされた判決が急増したことから、特許適格性の問題を回避するためのクレームドラフティングについて活発な議論が行われてきました。

2024年9月にも特許権侵害訴訟において、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が特許適格性なしとして特許権を無効とする判決を下しており(Broadband iTV, Inc. v. Amazon.com, Inc., No. 23-1107(Fed. Cir. Sept. 3, 2024)、引き続きモニタリングが必要な問題となっています。

日本の特許実務者とも米国のクレームドラフティングについて議論することがありますが、議論を行う中で、 米国特許法101条の特許適格性の問題と112条(f)の所謂ミーンズ・プラス・ファンクション(MPF)クレーム(以下、単にMPFとします)の問題を混同されている方がいることに気づきました。

そこで、特許適格性とMPFの違いについて、「制御装置」(「機械」のカテゴリーに属する発明)を例に解説したいと思います。

以下を前提に解説していきます。
・クレームされた制御装置は、「構造的特徴を有する構成要素」を含む実施形態が明細書および図面に記載されている
 (「構造的特徴」については後述)
・「クレーム例」は、違いを分かりやすくするために簡略化したものとし、新規性/非自明性については考慮しない
・ 特許適格性の判断基準は、MPFとの比較に関連するもののみを示す(実際の判断基準はより複雑で多岐にわたる)

1.明細書および図面に記載された「構造的特徴」とは?

本題に入る前に、まず、「構造的特徴」について解説します。

 「構造的特徴」と聞くと、機械図面や回路図面のようなガチガチの構造図を思い浮かべるかもしれませんが、たいていは、ブロック図のような概略図でOKです。ただし、人ではない「物理的な何か」であることがわかるように記載します。

もう一つ重要なのは、接続構造を明確にすることです。

例えば、実施例として、外部装置200を制御する制御装置100が明細書および図面に記載されていたとします。
以下の<OK例>のような図面であれば、おそらく、制御装置100が「物理的な何か」(構造的特徴を有する物)と認定されるでしょう。

一方、<NG例>は、「構造的特徴を有する物」と認定されない可能性があります。
制御装置100の中の2つの直線がないだけで?
「装置」という用語を使えば「物」であることは明らかじゃないの? 
と思われるかもしれませんが、両者は大きく異なるのです。

<NG例>の場合、以下のような解釈が成り立ってしまいます。
・「コントローラ」は「人」、「メモリ」は「人の脳」として捉えることもできる
・コントローラが人であった場合、外部装置と手動でやり取りすることも可能

2.特許適格性とMPFの問題について

 特許適格性とMPFの問題は、全く種類の異なる問題であるにもかかわらず、両者を混同してしまう理由としては、どちらも機能表現の問題(特徴が機能だけで記載されていることによって生じる問題)を含んでいるからではないでしょうか。

両者の違いを理解するために、まず、それぞれについて詳しく見ていきます。

3.特許適格性について

(1)根拠条文:米国特許法 101条

(2)条文の要点:発明は以下のカテゴリーのいずれかに属さなければならない。
         ・プロセス(process)
         ・機械(machine)
         ・生産物(manufacture)
         ・組成物(composition of matter)
         ・上記の改良

(3)保護対象外(司法例外):抽象的概念(abstract idea)、
               自然法則(laws of nature)、
               自然現象(natural phenomena)

(4)拒絶理由か:YES

(5)問題となる場合:クレームの特許適格性が認められるための以下の条件①および②のうち、条件②を満たしていない。
           ①上記カテゴリーのいずれかに属している
           ②上記司法例外以上のことをしめしている

「制御装置」の場合、条件①については「機械」に属することが認められる可能性が高く、問題になることはまずないでしょう。

ところが、条件②を満たしていないことはよくあり、この場合、特許適格性なしと判断される可能性が高くなります。
例えば、
・クレームの構成要素の構造的特徴が記載されていない
・人間の精神活動や行為(抽象的概念)と捉えることもできるような特徴しか記載されていない
 (司法例外以上のことが記載されていない)
と、条件②を満たしていないと判断される可能性が高くなります。

<特許適格性なしとされる可能性の高いクレーム例(NGクレーム例)>
制御装置は、
部材Aが所定の位置にあるか否かを判断し、
所定の位置にないと判断した場合は、部材Aを所定の位置まで動かすコントローラを備える。

◆解説◆
 以下の理由により、特許適格性なしと判断される可能性が高いと思われます。
・2つの判断は人間の頭の中で行うことができる。
・「コントローラ」は人間と捉えることもできる。

<特許適格性なしとされる可能性の低いクレーム例(OKクレーム例)>
制御装置は、
センサから信号を受信し、
受信した信号に基づき、部材Aが所定の位置にあるか否かを判断し、
所定の位置にないとの判断に応じて、部材Aを制御して、所定の位置まで動かすコントローラを備える。

◆解説◆
NGクレームと大した違いはないように思われますが、
「センサから信号を受信」、
「(センサから)受信した信号に基づき」、
「部材Aを制御して」、
のように、ハードウェアと絡めて処理を記載することがポイントです。

NGクレーム例の「部材Aを所定の位置まで動かす」は、OKクレーム例では「部材Aを制御して所定の位置まで動かす」となっています。
単に「動かす」とするよりも「~を制御して動かす 」とした方が、機械が行っていることが明確になり、特許適格性違反の指摘を受けにくくなります。

4.MPFについて

(1)根拠条文:米国特許法112条(f) 

(2)条文の要点:クレームにおいて、発明の構成要素を機能によってのみ限定した場合、その機能を果たすための
         構造、材料、行為は、明細書の記載およびそれと等価なものに限定される。

(3)拒絶理由か:NO

   ※MPFであること自体は拒絶理由にはならない。
   ※機能によってのみ限定した構成要素についてはMPFとして審査される。

構成要素がMPFと解釈されてもOKならば、その構成要素の実施形態(構造的特徴)がすべて明細書および図面でカバーされているか確認が必要です。 
MPFと解釈されたくない場合は、構造的特徴をクレームに記載する必要があります。

(4)MPFと認定される場合:有体物であると推測できる構成要素の構造的特徴がクレームに記載されていない。

日本クレームでは「判断部」や「操作部」など、装置の一部であると推定可能な構成要素が機能によってのみ限定されている記載を見かけることがあります。
そのような構成要素は、MPFと認定される可能性が高くなります。

例えば、「判断部」の例として、1つのCPUを含む構成しか明細書および図面に記載されていないとします。このような場合、2つ以上のCPUを含む構成は、MPFクレームでカバーできない、ということになります。

<MPFと解釈される可能性の高いクレーム例(NGクレーム例)>
制御装置は、
部材Aが所定の位置にあるか否かを判断する判断部と、
所定の位置にないとの判断に応じて、部材Aを所定の位置まで動かす操作部と、
を備える。

◆解説◆
「コントローラ」と「メモリ」がハードウェアであることは明確であり(=機能のみで特定されておらず、構造的特徴を有しているため)、MPFと認定される可能性は低いと考えます。
MPFと認定されなければ、制御装置およびその構成要素が明細書に開示された構造に限定解釈されることはありません。

5.特許適格性の問題とMPFの問題の違い

MPFの問題は、「構成要素の構造的特徴がクレームに記載されていない」というものです。
つまり、構成要素は何かしらハードウェアに係るものであることは認識されており、発明の保護対象として認められますが(特許適格性の問題はクリアしている)、構成要素の構造は、明細書および図面に開示されたものに限定されます。

一方、特許適格性の問題は、クレームがハードウェアに係るものか否かさえ明確になっていないことにより生じる問題です。

6.各問題の回避策

特許適格性の問題とMPFの問題は、難しい問題と捉えられがちですが、多くの場合、ほんの少し書き方を変えるだけで解消することができます。
両者は異なる次元の問題であり、異なるアプローチが必要です。

6-1.MPFの問題を回避するためのアプローチ

MPFの問題を回避するか否かは戦略によって異なり、回避した方がよい場合と活用した方がよい場合があります。

<回避した方がよい場合>
「構成要素の特徴を機能的に記載した方が権利範囲は広くなる」という観点で日本出願クレームを作成していた場合、米国では逆に権利範囲が狭くなる可能性があります。

権利範囲に含めたい実施形態のすべてが明細書および図面に記載されていない場合が該当します。

米国での権利範囲を広くしたい場合は、MPFと解釈されないようにクレームを記載する必要があります。
具体的には、クレームに機能でのみ記載されている特徴について、その機能を実施するための構造的特徴を記載するようにします。

<活用した方がよい場合>
特定の機能を果たすことに特徴があり、そのための構造として複数の形態がある場合、MPFを活用することも考えられます。

この場合、複数の形態のすべてを保護対象とするためには、実施例としてすべて明細書および図面に記載する必要があります。

また、PCT出願で、対応欧州欧州出願がある場合、国際出願のクレームはMPFで記載することも考えられます。
欧州では、米国のようにMPFの構造的特徴が明細書および図面の記載に限定されるようなことはなく、むしろ、より広い権利範囲を確保するためにMPFを活用することが推奨されています。

したがって、国際出願のクレームはMPFで記載し、米国移行時にMPFと解釈されないクレームに補正することも一案です。

6-2.特許適格性の問題を回避するためのアプローチ

特許適格性の問題を回避するための最も単純は方法は、ハードウェアを記載することです。
このとき、「○○部」のように、ハードウェアなのか機能(またはステップ)なのか判断しかねるような曖昧な記載にすると、抽象的概念とされてしまうことがあるため、できるだけハードウェアとわかるように記載します。

制御対象のハードウェアが汎用性の高いものである場合は(PC、タブレット、スマートフォンなど)、クレームされた制御によって、ハードウェアの性能の向上やその分やにおける技術の向上といった、何かしらの技術的革新が認められるような記載にすると、特許適格性が認められる可能性が高くなります。

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