特許

【米国特許】AI支援発明の発明者適格判断の原則

2024.06.06
 

2024年5月30日付の記事「AI支援発明の発明者適格の判断例」では、「こういう場合は発明者となり得る/なり得ない」という観点で、判断例について説明しましたが、その判断基準となっているのが「Pannuファクター」です。AI支援発明とされる発明に係わった自然人が発明者となり得るか否かの判断では、「Pannuファクター」に基づいて自然人の発明への貢献度が検討されます。

Pannuファクターとは?
Pannu事件(1998年)においてCAFCが示した、クレーム発明への「自然人の貢献度を判断するためのファクター」で、以下の3つの場合、自然人は発明に貢献しているとされます(つまり、発明者となり得る)。
(1)発明の着想又は実施に何かしらの多大な貢献をしている。
(2)その貢献を発明全体の範囲に照らして評価した場合、クレーム発明に対して質的に軽微とは言えない貢献をしている。
(3)実在の発明者によく知られている概念や最新の技術を単に説明する以上のことをしている。

Pannuファクターはどのように適用される?
「自然人の発明への貢献度」の判断については、「特許適格性」(発明の保護対象であるか否か)の判断に使用されるようなテストは提供されていません。したがって、自然人の発明への貢献度をPannuファクターに基づいて判断するといっても、その貢献度を確定するのは容易ではありません。
そこで、ガイダンスでは、PannuファクターをAI支援発明にどのように適用したかを通知するのに役立つPannuファクター適用の原則のリストが提供されています(リストの和訳のリソース:JETRO「USPTO、AIの支援を受けた発明の発明者適格に関するガイダンスを発行」)
※このリストは非網羅的なものであり、以下の原則に限定されるわけではありません。

<原則>
① 自然人が発明の創作にAIを使用したからといって、発明者としての貢献が否定されるわけではない。 
② AIに問題を提起しただけの自然人は、AIの出力から特定される発明の適切な発明者ではない可能性がある。しかし、AIから特定の解決策を引き出す方法が顕著な貢献となる可能性はある。
③ 発明を実施に移行しただけでは顕著な貢献とはいえない。したがって、AIの出力を発明として認識・評価するだけの自然人は、特に、その出力の特性や有用性が当業者にとって明らかえある場合には、必ずしも発明者であるとはいえない。
④ 状況によっては、特定の解決策を引き出すために特定の問題を考慮してAIを設計、構築または訓練する自然人が発明者になる可能性がある。
⑤ 単に発明に使用されるAIを所有または監督する者は発明者とはいえない。

「例:ラジコン(RC)カーのトランスアスクル」の各想定で検討されていること
 前回記事の「例:ラジコン(RC)カーのトランスアクスル」の<想定1>~<想定5>は、上記原則を解説すべく設けられたものです(想定の内容については前回記事をご覧ください)。ガイダンスでは、原則について、各想定で以下のような検討を行っています(括弧書き及び※は弊所補足)。

<想定1>
想定する自然人:AIに基本的なクエリを入力しただけでAIの出力に対していかなる変更も加えていない
該当する原則:②及び③
具体的な検討:モーガンとルースはクレーム1の発明者か

モーガンとルースは、
RCカーにはトランスアクスルが必要との問題を提起し(原則②)、
AIに基本的なクエリを入力して発明を実施しているが(原則③)、
AIから特定の解決策を引き出す顕著な方法を提供しているわけではなく(原則②)、
AIの出力に対していかなる変更も加えておらず、AIの出力を発明として認識・評価したに過ぎない(原則③)。
→モーガンとルースはクレーム1の適切な発明者ではない。
※想定1の自然人は発明者になり得ない。

<想定2>
想定する自然人:AIの出力に対し最低限の変更を行った 
該当する原則:②及び③
具体的な検討:モーガンとルースはクレーム2の発明者か
クレーム2はクレーム1の従属であるため、両方のクレームについて検討が必要

上記想定1で検討した通り、モーガンとルースはクレーム1の発明者となり得るための十分な貢献をしていない。
クレーム2について、二人はクレーム1の不足分を補う貢献をしているか 。
モーガンは、
ケーシングの作製に使用する材料を選択し、AIシステムからの出力に対して最低限の変更を行ったに過ぎない(原則②及び③)。
したがって、クレーム1の不足分を補うほどの貢献はしていない。
→モーガンとルースはクレーム2の適切な発明者ではない。
※想定2の自然人は発明者になり得ない。

<想定3>
想定する自然人:AIの出力について実験を行い、代替設計案を作成した
該当する原則:①及び③
具体的な検討:モーガンとルースはクレーム3の発明者か

モーガンとルースは、
AIを使用しているものの(原則①)、
AIが出力した代替設計案について実験を行った上で、実験結果に基づく大幅な変更を行い(原則③)、
更に、モーガンは、
既存の固定具は扱いにくいと判断し、クリップ式固定具の設計を行った(原則③)。
→モーガンとルースはクレーム3の適切な発明者である。
※想定3の自然人は発明者になり得る。 

<想定4>
想定する自然人:発明に対する軽微な変更の提案をAIに指示した
該当する原則:①
具体的な検討:モーガンとスールはクレーム4の発明者か
クレーム4はクレーム3の従属であるため、両方のクレームについて検討が必要

クレーム4の限定自体は、AIによって提案されたものである(自然人が発明の創作にAIを使用したに過ぎない、原則①)が、クレーム3の限定についても考える必要がある。
クレーム4は、モーガンとルースの発明への貢献が認められたクレーム3に対し更なる限定を加えたものであるため、クレーム3の発明に対する二人の貢献度を低下させるものではない。
→モーガンとルースはクレーム4の発明者である。
※想定4の自然人は発明者になり得る。

 <想定5>
想定する自然人:発明に係わっていない、AIの作成者及び所有者
該当する原則:⑤
具体的な検討:マーベリックはクレーム1-4の発明者か

マーベリックは、発明に使用されたAIの構築及び訓練を行った人物に過ぎず(原則⑤)、クレーム1-4の発明に多大な貢献をしたとはいえない。
→マーベリックは、クレーム1-4の発明者ではない。
※想定5の自然人は発明者になり得ない。

◆特許実務で気を付けたいこと◆
発明者が不適切であると認定された クレームが1つでもあれば拒絶となる可能性がありますので、自然人の発明への貢献度をクレーム毎に評価し、貢献度が明確になるようクレームドラフティングをする必要がありそうです。

以上、前回記事と併せて、AI支援発明の発明者となり得るか否かを判断する上での参考にしていただければ幸いです。