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【米国特許】USPTOが特許適格性に関するガイダンスを更新、AI関連発明の特許適格性判断例も提示

2024717日、USPTOは特許適格性に関するガイダンスを更新しました。

2024 Guidance Update on Patent Subject Matter Eligibility, Including on Artificial Intelligence

この更新には、AI関連発明に関する新たな3つの例(例47―49)が含まれています。

July 2024 Subject Matter Eligibility Examples

今回は、そのうちの1つ、例47をご紹介します。

本例はA412ページにもわたるボリュームの大きなものとなっていますので、以下の説明は内容がわかる程度に簡略化しています。また、補足も適宜追加しています。USPTO発表のものをベースにしていますが、逐語訳ではありませんので、あらかじめご了承ください。

例47:異常検出

背景

本発明は、人工ニューラルネットワーク(ANN)を使用して、異常を特定または検出することを目的とする。特別にトレーニングされたANNを使用した異常検出は、従来の異常検出方法に対し、より正確な異常検出をはじめ多くの向上をもたらしている。また、トレーニングタイムの短縮や異常検出のためのより正確なモデルにつながるANNのトレーニング方法も提供する。

※装置や方法の具体的な説明は割愛します。

クレーム

[クレーム1]特許適格性あり

人工ニューラルネットワーク(ANN)用特定用途向け集積回路(ASIC)であって、前記ASICは以下を備える:

配列された複数のニューロンであって、各ニューロンは、レジスタと、マイクロプロセッサと、少なくとも1つの入力と、を備え;

複数のシナプス回路であって、各シナプス回路は、シナプス加重値を記憶するメモリを備え、各ニューロンは前記複数のシナプス回路のうちの1つを介して少なくとも1つの他のニューロンに接続されている。

[クレーム2](特許適格性なし)

人工ニューラルネットワーク(ANN)用特定用途向け集積回路(ASIC)の使用方法であって、以下を備える:

(a)コンピュータで連続トレーニングデータを受信;

(b)前記コンピュータによって、前記連続トレーニングデータを離散化し、入力データを生成;

(c)前記コンピュータによって、前記入力データと選択されたトレーニングアルゴリズムに基づいて前記ANNをトレーニングしてトレーニング済みANNを生成、前記選択されたトレーニングアルゴリズムは、誤差逆伝播アルゴリズムと勾配降下アルゴリズムとを含む;

(d)前記トレーニング済みANNを使用して、データセット内の1つ以上の異常を検出;

(e)前記トレーニング済みANNを使用して、前記1つ以上の異常を解析し、異常データを生成;

(f)前記トレーニング済みANNから前記異常データを出力。

[クレーム3]特許適格性あり

人工ニューラルネットワーク(ANN)用特定用途向け集積回路(ASIC)を使用して悪意のあるネットワークパケットを検出する方法であって、以下を備える:

(a)コンピュータによって、入力データと選択されたトレーニングアルゴリズムに基づいて前記ANNをトレーニングしてトレーニング済みANNを生成、前記選択されたトレーニングアルゴリズムは、誤差逆伝播アルゴリズムと勾配降下アルゴリズムとを含む;

(b)前記トレーニング済みANNを使用して、ネットワークトラフィック中の少なくとも1つの異常を検出;

(c)少なくとも1つの検出された異常が1つ以上の悪意のあるネットワークパケットに関連するものと判定;

(d)前記1つ以上の悪意のあるネットワークパケットに関連するソースアドレスをリアルタイムで検出;

(e)前記1つ以上の悪意のあるネットワークパケットをリアルタイムで破棄;

(f)これ以降の前記ソースアドレスからのトラフィックをブロック。

特許適格性についての検討

クレーム1は特許適格性あり

クレーム解釈

クレーム1には、ANNに使用されるASICが記載されており、これは物理的な回路であることから、本クレームに記載のANNを最大限合理的に解釈すれば、ハードウェアが必要であることは明らかである。

Step 1(クレームは法定カテゴリーに属するか)

本クレームは機械および/または製造物に属する(Step 1: YES)。

Step 2A, Prong 1(クレームは司法例外を記述しているか)

本クレームには司法例外(自然法則、自然現象、抽象的概念)は記載されていない。本クレームには、複数のニューロンと複数のシナプス回路が記載されているが、複数のニューロンは、レジスタとマイクロプロセッサを備えるハードウェア部品であり、シナプス回路と共にANNを形成している。本クレームには、数学的概念や思考プロセス、人間の活動を体系化する方法といった抽象的概念は記載されていない。ANNは数学的処理によってトレーニングされることはあるかもしれないが、本クレームに数学的概念が記載されている訳ではない。本クレームには司法例外が記載されていないのだから(Step 2A, Prong 1: NO)、司法例外の対象となるはずがない(Step 2A: NO)。したがって、本クレームは特許適格性を有する。

クレーム2は特許適格性なし

クレーム解釈

本クレームのステップ(a)および(b)に記載「連続トレーニングデータ」と記載されているが「連続データ」は、測定データであればどのようなデータであってもよく、任意の数のいかなる値を取ることができる。不連続データとは、カウント可能なデータであり、限定的な数の値であり、トレーニングデータとして使用するのにより適している。

本クレームでは、連続データがどのように受信されるのかについて何の限定もしていないが、「背景」では、ネットワークを介してリモートでデータを受信することが示唆されている。また、離散化の方法についても限定されていないが、「背景」には、人間の頭の中で処理できる基本的な数学的処理など、一般に知られた離散化方法も含まれていることが記載されている。

ステップ(c)には、選択されたアルゴリズムを使用したANNのトレーニングが記載されており、トレーニングアルゴリズムは、誤差逆伝播アルゴリズムと勾配降下アルゴリズムである。「背景」を参照して最大限合理的に本クレームを解釈した場合、誤差逆伝播アルゴリズムと勾配降下アルゴリズムは数学的計算であると言える。

ステップ(a)、(b)および(c)はすべてコンピュータによって実施されることとして記載されており、このコンピュータは汎用コンピュータである。

ステップ(d)には、トレーニング済ANNを使用してデータセット内の1つ以上の異常を検出することが記載されているが、トレーニング済ANNがどのように動作するのか、どのように検出が行われるのかは記載されていない。「検出」には、観察や評価も含まれ、例えば、コンピュータプログラマがデータセット内の異常を確認することも含まれる。

ステップ(e)には、トレーニング済ANNを使用して1つ以上の異常を解析し、異常データを生成することが記載されているが、「解析」には、異常が検出されたことを判定し、異常の種類や原因を提示することが含まれる。つまり、本クレームは、トレーニング済ANNによって、検出された異常を評価し、異常データを生成することを限定しているが、解析(評価)がどのように実施されるかを限定していない。また、どのように解析されるかが限定できるような異常データそのものについての言及もない。「背景」には「異常データは、異常の種類や原因を示すものであってもよい」と記載されているが、本クレームには、検出された異常の解析についてのより詳細な記載はない。

ステップ(f)には、データがどのように出力されるのか、異常データの出力にはどのようなコンピュータが使用されるのかについての限定がない。

クレーム2を最大限合理的に解釈した場合、離散化、検出および解析の各ステップは、思考プロセスや評価を含み、誤差逆伝播アルゴリズムと勾配降下アルゴリズムを使用した離散化およびトレーニングは、数学的計算の実施を含む。

Step 1

本クレームはプロセスに属する(Step 1: YES)。

Step 2A, Prong 1

ステップ(b)、(d)および(e)は、抽象的概念(abstract idea)の一種である思考プロセスに該当し、ステップ(b)および(c)は、抽象的概念の一種である数学的概念に該当する。限定(b)‐(e)は、これ以降の解析では、まとめて1つの抽象的概念として扱う(Step 2A, Prong 1: YES)。

Step 2A, Prong 2(クレームは全体として記載された司法例外をその実用的応用に組み込こんでいるか)

(1)クレームに司法例外ではない(複数の)他の構成要素が記載されているか否かを特定

(2)クレーム全体として司法例外の実用的応用に組み込まれているか否かを判断するために、他の構成要素を個々に、または組み合わせて評価

本クレームには、他の構成要素として「(a)コンピュータで連続トレーニングデータを受信」、限定(d)および(e)において「トレーニング済みANNを使用」、「(f)トレーニング済みANNから前記異常データを出力」という他の構成要素が記載されている。また、本クレームはステップ(b)および(c)がコンピュータによって実行されることが記載されている。

限定(a)および(f)は、単にデータ収集及び出力に過ぎない。

限定(a)では、データ受信という一般的なコンピュータ機能を実施するツールとしてコンピュータが使用される。

限定(b)および(c)では、抽象的概念を実施するためにコンピュータが使用される。

(d)および(e)における限定「トレーニング済みANNを使用」は、汎用コンピュータで抽象的概念を実行すること以上のことは示していない。

MPEP(f)は、「適用する」という(またはそれと同等の)文言を使って司法例外がクレームに記載されているのに過ぎないのかを判断するために、以下の検討を促している。

(1)クレームには、解決策の案または結果についてのみ記載されているか(問題解決がどのようになされたかについての詳細が記載されているか)。

(2)クレームには、既存のプロセスを実行するツールとしてコンピュータや他の装置が使用されることのみが記載されているのか。

(3)司法例外の適用の特殊性および普遍性。

限定(d)および(e)は、単に検出や解析の結果に過ぎず、検出や解析がどのように行われたかについての詳細を示してはいない。

また、限定(d)および(e)における「トレーニング済みANNを使用」は、司法例外が実施される用途や技術的環境を示しているに過ぎない。「トレーニング済みANNを使用」は、特定の司法例外を限定しているが、この種の限定は、単に抽象的概念を特定の技術的環境(ニューラルネットワーク)で使用することを限定しているに過ぎず、クレームに発明思想を付加するものではない。

組み合わせで考えた場合においても、上記他の構成要素は司法例外の実用的応用に組み込まれてもいないし(Step 2A, Prong 2: NO)、司法例外の対象となっている(Step 2A: YES)。

Step 2B(クレームは全体として記載された司法例外を著しく超えるものであるか)

付加的要素、または複数の付加的要素の組み合わせがクレームに発明思想を付加するものであるか否かを評価する。

付加的要素(a)および(f)は、Step 2A, Prong 2において、必要なデータの収集及び出力という限定としては重要ではないと判断されたが、付加的要素が重要ではない余分な解決手段であるとのStep 2A, Prong 2の結論について、Step 2Bで再評価する必要がある。重要ではない余分な解決手段の評価では、それが当業者によく知られ、慣用的かつ従来型のものであるか否かを検討する。

限定(a)および(g)については、当業者によく知られた、慣用的かつ従来型のものである。

限定(a)、(b)および(c)を実施するコンピュータについての記載は、汎用コンピュータを使用して例外を適用する単なる指示に過ぎない。

組み合わせで考えたとしても、これら付加的要素は抽象的概念や他の例外をコンピュータで実行するための指示に過ぎず、重要ではない余分な解決手段であり、発明思想をもたらすものではない(Step 2B: NO)。

クレーム3は特許適格性あり

クレーム解釈

ステップ(a)の誤差逆伝播アルゴリズムと勾配降下アルゴリズムは数学的計算である。これらは、単に、一連の数学的計算を使用してニューラルネットワークのパラメータを算出する最適化アルゴリズムである。限定(a)はコンピュータによって実施されることも記載されているが、記載されたコンピュータは一般的なものに過ぎない。

ステップ(b)には、トレーニング済みANNがどのように動作するのか、異常検出がどのように行われるのかについての記載がない。「検出」には、(人間による)観察や評価も含まれる。

ステップ(c)は、検出された異常を悪意のあるネットワークパケットに関連付けるのみであって、その関連付けに特定のプロセスや部品が使われているわけではない。

ステップ(d)の検出はコンピュータの機能の1つに過ぎない。

ステップ(e)および(f)のパケットの破棄およびトラフィックのブロックは、システムが「自動的」に実施することもできる。

Step 1

本クレームはプロセスに属する(Step 1: YES)。

Step 2A, Prong 1

ステップ(a)は数学的概念である。

ステップ(b)および(c)は、最大限合理的に解釈すれば、観察、評価、判断、見解といった人間の頭の中で行うことも含まれ、抽象的概念の思考プロセスグループに属すると言える。

限定(d)‐(f)は、人間の頭の中で行うことはできないため、思考プロセスではない。

ステップ(a)は数学的概念、ステップ(b)および(c)は思考プロセスであることから、クレーム3には複数の抽象的概念が記載されていると言える。クレーム2の検討において述べたように、複数の抽象的概念は、個別ではなく1つの抽象的概念として考えるのが適切であるため、ステップ(a)とステップ(b)および(c)は抽象的概念の異なるグループに属するものであるが、今後の解析では1つの抽象的概念として扱う(Step 2A, Prong 1: YES)。

Step 2A, Prong 2

ステップ(d)‐(f)は、検出結果を使用してネットワークセキュリティを向上させるためのものであって、悪意のある可能性があるパケットと関連付けられたソースアドレスを検出し、危険を回避する未然防止策を講じることによってセキュリティを強化する。本クレームは、全体として司法例外の実用的応用に組み込まれており、司法例外の対象となっていない。

ステップ(d)‐(f)を組み合わせて考えた場合、コンピュータの機能や技術分野を向上させているため、抽象的概念の実用的応用に組み込まれていると言える。本クレームに記載の発明は、ネットワーク侵入検出の技術分野における向上に反映されている。したがって、本クレームは全体として司法例外の実用的応用に組み込まれており(Step 2A, Prong 2: YES)、本クレームは司法例外の対象となっていないため(Step 2A: NO)、本クレームは特許適格性を有する。