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【米国特許】AI関連発明のリソース/AI支援発明の発明者適格の判断例

近年、AIは著しい進化を遂げており、米国の特許分野においてもAIの取り扱い等について様々な議論がなされ、基準を定めようとする動きがあります。
USPTO
のウェブサイトの「AI-related resources」に、AI関連発明について参照すべきMPEPの項目やガイダンス等のリストが記載されており、必要な情報にアクセスしやすいようになっていますので、ご案内いたします。

USPTOウェブサイト「AI-related resources」:AI-related resources | USPTO

上記情報の中から、2024213日付けで発行された「AI支援発明(AI-assisted invention)の発明者適格に関するガイダンス」と共に提供された例「Transaxle for Remote Control Car (Example 1)」について解説します。
原文:Transaxle for Remote Control Car (uspto.gov)

※以下の記事は、原文から重要と思われる部分を抽出したものであり、原文の翻訳文とは異なるものであることをご了承ください。

AI支援発明の発明者適格について
例:ラジコン(RC)カーのトランスアクスル
XYZ Toy社(以下、XYZ社)の社員であるルースとモーガンが新たなRCカーの開発を行い、特許出願を行う。

<背景>
RCカー開発の過程でルースとモーガンが行ったこと
(1)このRCカーにはトランスアクスルが必要と判断
(2)無料生成AIシステムPuerto5を使って基本設計を行うことを決定
(3)Puerto5に対し「図面と詳細な説明を含めた、モデルカー用トランスアクスルのオリジナルの設計案を作成」と指示
(4)Puerto5から出力された以下の構成要素を含むトランスアクスルの基本設計案について検討

 ・垂直面に沿って分離可能な2つの部材を備えるケーシング
 ・ケーシングに可動に取り付けられ、固定具によってケーシングに固定されたトランスミッション
 ・ケーシングから延出するアクスルシャフト

(5)この基本設計案は開発中のRCカーに使えると判断

<想定1>
XYZ社は、ルースとモーガンの助けを借りて、Puerto5が出力したトランスアクスルに係るクレーム1を含む特許出願準備を行った。

[クレーム1]
ケーシングと、
前記ケーシング内に取り外し可能に取り付けられた前記ケーシングとは別体のトランスミッションと、
トランスアクスルの分離可能な2つのケーシング部材によって画定された前記ケーシングから延出するアクスルシャフトと、
前記トランスミッションに設けられ、前記トランスミッションを前記分離可能な2つのケーシング部材の一方に取り外し可能に取り付ける固定具と、
を備えるトランスアクスル。

ルースとモーガンは、クレーム1の発明の適切な発明者ではない。

理由:
・開発段階において、ルースとモーガンは上記(1)を行っていることから、課題に関する認識はあったと言えるが、課題の認識や一般的な目標があるだけでは、着想のレベルにあるとは言えない。
・ルースとモーガンは、AIへの指示を構築したが、指示の内容は、単に、開発中のRCカーにトランスアクスルが必要であるという一般的な課題の言い換えに過ぎず、そのAIへの指示の構築が発明に貢献しているとは言えない。
・ルースとモーガンは、上記(4)及び(5)を行っているが、これらは、発明者適格が認められるために必要十分な貢献とは言えない。

<想定2>
モーガンは、Puetro5が作成した図面に従い、設計案からの変更を行うことなく、クレーム1のトランスアクスルを作製した。
RC
カー分野では、トランスアクスルの作製にスチールを使うことは一般的である。XYZ社は、スチールの在庫が十分にあり、モーガンはケーシング部材の作製にそれを使用した。

[クレーム2]
ケーシングはスチールからなるクレーム1に記載のトランスアクスル。

モーガンはクレーム2の発明の適切な発明者ではない。

理由:
・クレーム1同様、課題の認定や課題を解決するためのPuetro5への指示だけでは、発明者適格が認められるには不十分と言える。
・モーガンは、単に、Puetro5が作成した図面に基づいて、設計案の変更を行わずにトランスアクスルを作製したに過ぎず、他者によって着想された発明の実施に多大な貢献をするだけでは、発明者適格を有しているとは言えない。
・ケーシングの作製にスチールを使用することはRCカー業界では一般的なことであり、多大な貢献とは言えない。

<想定3>
ルースとモーガンは、Puerto5から最初に出力された基本設計案とは異なるトランスアクスルの代替設計案の作成をPuerto5に指示した。
Puerto5
は、水平面に沿って分離可能な2つの部材を備えるケーシングを含むトランスアクスルの代替設計案を出力し、ルースとモーガンはこちらの構成のトランスアクスルの作製を決定した。
この構成のトランスアクスルには、追加変更や多くの実験が必要なことが判明したため、二人は、実験を行い、以下の変更を行った。

 ・ケーシングの延伸
 ・ケーシングの上側1/3の位置で水平分離
 ・アクスルシャフト及びトランスミッションをケーシングの下側2/3に配置

モーガンは、更に、従来の固定具は扱いにくいため、トランスミッションを取り外し可能にケーシングに取り付けるためのクリップ式固定具を設計した。

[クレーム3]
細長いケーシングと、
前記ケーシングの下側2/3以内に取り外し可能に取り付けられた前記ケーシングとは別体のトランスミッションと、
前記ケーシングの前記下側2/3から延出するアクスルシャフトと、
前記アクセルシャフトと平行な水平面に沿って前記ケーシングの上側1/3の位置で分離可能な2つのケーシング部材からなる前記ケーシングと、
前記トランスミッションに設けられ、前記トランスミッションを前記分離可能な2つのケーシング部材の一方に取り外し可能に取り付けるクリップ式固定具と、
を備えるトランスアクスル

ルースとモーガンは、クレーム3の発明の適切な発明者である。

理由:
・ルースとモーガンは、代替設計案に対して実験結果に直接基づく多大な変更を行っている。
・モーガンは、クリップ式固定具を設計することで発明に貢献している。

<想定4>
上記<想定3>の変更及び設計を行った後、モーガンはPuerto5に対して、製造に関するアドバイスの提供を指示した。
Puerto5
は、CNCルーター加工機を使用してアルミニウムを圧延することによってケーシングを作製するアドバイスを出力した。
モーガンは、CNCルーター加工機は従来型工作機器であり、トランスアクスルのケーシングが容易に作成できると考えた。

[クレーム4]
前記ケーシングはアルミニウムからなる、クレーム3に記載のトランスアクスル。

モーガンとルースはクレーム4の発明の適切な発明者である。

理由:
クレーム4の限定自体は、Puerto5によって提案されたものであり、目新しくもなく、日常の実験から得られるものであるが、クレーム4はクレーム3の従属項であり、クレーム3の発明に対する二人の貢献度を低下させるものではない。

<想定5>
マーベリックはPuerto5の作成及び訓練を監視する主任AIエンジニアである。
Puerto5
は、標準的な自己管理学習技術により、様々な分野から多様な文書を収集するよう訓練されている。
マーベリックがPuerto5の設計及び訓練を行ったとき、RCカーにおけるトランスアクスルに係る特定の課題についての認識はなかった。

マーベリックは、クレーム1~4の発明の適切な発明者ではない。

理由:
特定の課題を念頭に置いて特定の解決手段を導き出すためにAIシステムの設計、構築、又は訓練を行い、それがそのAIシステムを使ってなされた発明に対して多大な貢献があった場合、そのAIシステムの設計、構築、又は訓練を行った自然人は発明者となり得る。しかし、Puerto5はそのような目的で開発されたものではなく、マーベリックがクレームされたトランスアクスルの着想に大きく貢献しているとは言えない。

以上