さて、模造まつげケースの意匠事件の続きです。
被告商品の構造がわかりにくいので、それを含めて昨日のおさらいを。
意匠権者K社さんの登録意匠はこちら(登録第1262161号)。上部カバーとケースの2点から構成されています。
一方、被告商品と思われる判定時のイ号意匠から構成される商品はこちら。
よーく見ないとわかりづらいですが、内部ケース・内部カバー・外部パッケージの3点から構成されています。
わかりづらいので、内部ケース・内部カバーの2点について、被告B社さんが持っている登録意匠を示します(登録第1341210号)。上記商品の内部ケース・内部カバーと完全同一の形態ではないですが、参考になると思います。
このハートの一部を切り欠いた形状に、被告商品の外部パッケージを被せると、切り欠きがなくなって左右対称のハート形状になり、かつ、接着チューブも収容できる…ということがわかるでしょうか?
それで、原告さんは、“本件登録意匠と比較対象すべきは、被告商品のうち、内部ケースと内部カバーを外部パッケージに嵌合させたもの(被告商品から台紙、模造まつげ,接着チューブを除いたもの。)だ”、と主張したのでした。
しかし、裁判所は、
『被告商品が市場において流通する際にも,収容された模造まつげを使用,保管,携帯する際にも認識することができないものであって,需要者において通常認識することがない意匠である』
として、原告さんの主張を採用せず(判決文36頁)、
類否の対象となるのは以下のものだとしたのでしたね(判決文36頁、37頁)。
( A)ケース としての被告商品の意匠(内部ケースに模造まつげを収容して内部カバーを被せた状態の意匠)、
(B)市場において流通している状態における被告商品の意匠(内部ケースに模造まつげを収容して内部カバーを被せ,接着チューブと共に台紙と外部パッケージで包装した状態の意匠)。
それでは、本日の本題へ。
本件登録意匠と、被告意匠(A)・被告意匠(B)との類否はいかに?
まず、本件登録意匠と被告意匠(A)との類否判断から。被告意匠①→被告意匠(A)と読み替えてください。
『本件登録意匠と被告意匠①は,透明なケースとカバーとから構成され,ケース上面に模造まつげを付着させるための凹弧状の2つの弧状突起(まつげ収容隆起部)が形成されている点において共通するものの,
基本的構成態様において,
(a)本件登録意匠のケース及び上部カバーは左右対称のハート型の形状としているのに対し,被告意匠①の内部ケース及び内部カバーは,ハート型から,ハート型の右上円弧状部から下部先端部の左方に至る直線の右側部分を切り落とした形状をしている点,
(b)本件登録意匠のケース上面には段差が設けられているのに対し,被告意匠①の内部ケースには設けられていない点,
(c)本件登録意匠のケースには接着チューブ収容部が形成されているのに対し,被告意匠①の内部ケースには形成されていない点
が異なっており,基本的構成態様の相違が顕著であるため,全体として看者に対し異なる美感を与えることは明らかであるから,被告意匠①は本件登録意匠に類似しない。』(判決文39頁、改行を加えています)
外部パッケージがないと、こうなりますか…
次に、本件登録意匠と被告意匠(B)との類否判断です。被告意匠②→被告意匠(B)と読み替えてください。
『( a)本件登録意 匠では,ケース上面に形成される2つの弧状突起(まつげ収容隆起部)が,1つは左下降する斜状に,1つは右下降する斜状に,互いに角度を変えた形状で配置されており,この点が需要者の注意をひき付ける要部の1つと認められるのに対し,被告意匠②においてケース上面に形成される2つの弧状突起は,いずれも左下降する斜状で略平行に配置されており,看者に対して本件登録意匠と異なる美感を与えるものといえる。
また,(b)本件登録意匠では,ケース上面の右側隆起平坦面に接着チューブを収納する略倒立細長台形型の凹陥溝が形成されており,この点が需要者の注意をひき付ける要部の1つと認められるのに対し,被告意匠②においては,内部ケースには接着チューブの収容部が形成されておらず,外部パッケージの蓋部に形成された隆起部の一部が接着チューブの形状に隆起し,その内部に接着チューブを収納する態様のチューブ収容隆起部が形成されており,需要者の注意をひき付ける基本的な構成態様において本件登録意匠と異なる形状を有しているため,看者に対して本件登録意匠と異なる美感を与えることは明らかというべきである。
そして,上記アで認定した本件登録意匠と被告意匠②との共通点のうち,透明なケースと透明なカバーからなる容器であり,側面から見ると均一の高さを有する立体形状を有する点,ケース上面の平坦面に模造まつげを付着させるための凹弧状の2つの弧状突起(まつげ収容隆起部)が形成されている点,接着チューブの収容部が容器又は包装に形成されている点は,上記(2)で認定した先行意匠においても認められる形状であることに照らすと,これらの共通点は,上記の差異点を凌駕するほどの影響を看者に及ぼすものということはできない。また,その余の共通点についても,上記の差異点を凌駕するに足りるものということはできない。
よって,被告意匠②は,本件登録意匠に類似しているとはいえない。』(判決文42頁、下線と改行を加えています)
…ということで、被告意匠(A)も(B)も、登録意匠とは類似せず、被告商品が本件意匠権を侵害するとういことはできない、とされました。
※追記:
なお、判定(2008-600044)では、イ号意匠(被告商品に該当)につき、内部ケース・内部カバー・外部パッケージの3点を類否の判断対象としています。
また、請求人は、模造まつげと接着剤とを収容した状態、即ち、商品「模造まつげセット」を構成した状態における共通点を考慮すべきと主張していましたが、意匠法の保護対象が意匠に係る物品の形状、模様、色彩、及びそれらの結合、即ち、形態それ自体であるので、販売態様まで考慮するのは制度趣旨から不要である、として請求人の請求を採用しませんでした。
そして、その他の争点である不競法2条1項1
号該当の有無についても、「商品等表示」該当性が否定され、被告商品の販売は不正競争に該当しないとされました。
しかし、このまつげ付けたらすごいことになりそうですね~
普段化粧をしない私が付けたら、かなりのインパクトが予想される…。
事務所の皆さん(及びお客さん)、その日は見て見ない振りして誰も話かけてくれないかも(汗)。
本日はこの辺で。
次回は商標のハナシに戻る予定です(多分)。
次回も見ていただける方、ぷちっと押していただけると嬉しいです。
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こちらもご参照に!⇒駒沢公園行政書士事務所日記:模造まつげケース事件
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この記事を読んでひろた興味を持たれた方は…
【執筆記事】
「知財産管理」誌 VOL.58 NO.5
(「腸能力」審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第10042号 審決取消請求事件)
内容はこちらからどうぞ
【関係事件】
代理人になった事件です。負けたのでご紹介するのをためらっておりましたが、思い切って…。
平成18年(行ケ)第10367号審決取消請求事件
なお、牛木理一先生のHPで紹介いただいているので(「特許ニュース」2007年6月29日号の記事です)、そちらも併せてご覧ください~(こちらのB-27の項です)。
【ZIP FM Z-TIME BIZ】
ここのフォトギャラリーになぜかわたくしが。
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