<平成23年(行ケ)第10264号 審決取消請求事件>(判決文はこちら)
年末から意匠に関する判決が結構出てますね。意匠萌えにはたまらんです。意匠の判決がこんなに続けて出ることはそうないと思うので、しばらくご紹介していきたいと思います(ただし、図面付きのもの)。
まずは、昨日アップされたばかりの公開ほやほやの事件から。3-1-3(類否)の拒査審決に対する取消請求訴訟です。
■本願意匠(穀類乾燥機用集塵機)
■引用意匠(穀類乾燥機用集塵機)
■認定された共通点・相違点(判決文2-3頁)
文章が長いですが、全部引用してしまいます(ぶっちゃけ、あまり細かく見ないでも、裁判所の類否判断は理解できます)。
【共通点A】 全体は,円筒の下方を略逆円錐台状に狭めた器体と,この器体を垂直に支える細長い支持脚で構成され,器体上面に大きな空気出口筒,器体円筒部周側面に含塵空気導入口筒,そして器体最下方に塵出口筒をそれぞれ配設した態様
である点
【共通点B】 器体は,全長の上部略3分の1程度を円筒部とするものである点
【共通点C】 支持脚は,器体円筒部の下方周囲を三分する位置に,器体上の縦
長長方形小突片を介して設け,それぞれを下方やや外方向へ伸ばした形状である点,詳細には細い円筒の内部に伸縮自在の細棒を挿通し,細棒の下方端をそれぞれ外方向水平に屈曲させた態様である点
【共通点D】 空気出口筒は,器体上面中央から立設され,器体斜め上方向において大きな略倒コ字形状に屈曲し,筒端を器体の中心軸と平行な鉛直方向に向けた点
【共通点E】 含塵空気導入口筒は,器体円筒部の上方周側面に,水平方向に立設した点
【共通点F】 塵出口筒は,器体略逆円錐台状部の最小口径とほぼ同径の小円筒形状で,筒端を器体の中心軸上の鉛直方向に向けた点
【相違点ア-1】 空気出口筒の態様について,本願意匠は,筒端に別部材を嵌めておらず,筒端の位置は器体上面と同じ位置であるが,引用意匠は,筒端に薄肉合成樹脂製の長い可撓性筒材を嵌め筒を延伸させており,筒端の位置が器体より
下方である点
【相違点ア-2】 空気出口筒の態様のうち,空気出口筒の表面について,本願意匠は,略倒コ字形状の屈曲部に蛇腹状の凹凸面を含むのに対して,引用意匠は,略倒コ字形状の屈曲部も含め全体が平滑面である点
【相違点イ-1】 含塵空気導入口筒の態様について,器体円筒部の上方周側面において,本願意匠は,2本の筒を,器体中心軸に点対称の位置に配置しているのに対して,引用意匠は,1本の筒を設けたものである点
【相違点イ-2】 含塵空気導入口筒の態様について,器体円筒部の上方周側面において,筒体が,本願意匠は,その端部まで水平方向を向いたものであるのに対して,引用意匠は,水平方向に延伸したのち斜め上方向に屈曲している点
【相違点ウ】 集塵袋取付け部について,本願意匠には,取付け部材が無い(参考斜視図によれば,集塵袋開口部を塵出口筒にC字状止め具により袋の上から止めるものと認められる。)のに対して,引用意匠には,取付け部材が有り,塵出口筒
上方に止め金具を介して袋吊り下げ用の細桿が水平方向に付設されている点,詳細には,この吊り下げ桿の左右両端にごく短い斜めの突設部を設けており,吊り下げ桿の両端部は,それぞれ全体として略倒イ状を形成する点
■相違点イ-1に関する公知意匠
■裁判所による本願意匠と引用意匠の類否判断(判決文9-11頁)
裁判所は、まず、本願意匠と引用意匠の要部がどこになるのかを述べています。
『両意匠の穀類乾燥機用集塵機は,穀類乾燥機から排出される含塵空気について,器体内のサイクロン作用により空気と夾雑物等に分離し,さらに,分離されて器体から排出された空気を水の水面に近接させて,空気中の塵埃を捕集することを目的とするものである。そのために,主として,器体,器体を中空に支えるための支持脚,器体に含塵空気を導入するための含塵空気導入口筒,器体から空気を排気するための空気出口筒,分離されて自重落下する夾雑物等を器体下方の集塵袋に収容するための塵出口筒から構成されている。意匠全体に占める大きさは,器体と支持脚が最も大きく,空気出口筒がこれに次ぐ大きさで,含塵空気導入口筒は空気出口筒よりも小さく,塵出口筒はかなり小さい。機能についてみると,器体の形状や大きさは集塵の方式や能力に関係し,支持脚の形状や長さは設置場所や安定性に影響を及ぼし,空気出口筒も塵埃の捕集という機能と関係する部位であり,含塵空気導入口筒の個数は接続できる穀類乾燥機の数に影響するなど,それぞれ特徴を有する。』
『以上の点に鑑みると,各部位のうち,形態として看者の目を惹く顕著な部分は見当たらず,両意匠において取引者・需要者の注意をひく特徴的な部分(要部)は,意匠全体の形態,すなわち,両意匠を構成する主要な部位の構成,形状,それらの各部位の組合せや配置等を総合したものであるというべきである。』(下線は私が付しました)
そして、両意匠の類否について、以下のように述べています。
『両意匠は,要部である意匠全体の形態について,共通点A~Fのとおり,意匠を構成する主要な部位の種類,形状,それらの各部位の組合せや配置など,その大部分が共通しているのであるから,取引者・需要者に対して,共通の美感を与えるものといえる。』
『…以上を総合すると,本願意匠は,相違点を考慮したとしても,全体として取引者・需要者に引用意匠と共通の美感を生じさせるものと認めるのが相当であって,引用意匠と類似する。』
■コメント
よく「部分意匠の方が全体意匠より権利範囲が広いんじゃ?」と聞かれることがありますが、必ずしもそうでないことが、この判例でちょびっとわかっていただけるかと…
日は以上です!次回も見ていただけるならぷちっと押してくださいな(。-_-。)/
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※左上の画像データは名古屋市さんのご好意により提供していただきました。
この記事を読んでひろた興味を持たれた方は…
【紹介記事】
知らないうちに、紹介記事を書いてくださっていました(1年近く前の講座ですが、たまたま発見しました)。
2010年9月 岐阜県立城北高等学校での講座
【執筆記事】
「知財管理」誌 VOL.60 NO.6
(並行輸入と商標権侵害 -並行輸入の抗弁における「同一人性の要件」及び「品質管理性の要件」-)
「知財産管理」誌 VOL.58 NO.5
(「腸能力」審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第10042号 審決取消請求事件)
「パテント」誌 2011.2 Vol.64
(部分意匠に関する判例研究 -類否判断を中心に- 包装用容器事件)
字数制限が厳しかったので尻切れトンボ気味ですが…
【関係事件】
代理人になった事件です。負けたのでご紹介するのをためらっておりましたが、思い切って…。
平成18年(行ケ)第10367号審決取消請求事件
なお、牛木理一先生のHPで紹介いただいているので(「特許ニュース」2007年6月29日号の記事です)、そちらも併せてご覧ください~(こちらのB-27の項です)。
【ZIP FM Z-TIME BIZ】
2008/07/23 商標の話題で出演
※注意!弁理士さんや知財部門のご担当など、クロートの方へ!
このブログでは、わかりやすくするために、正確でない表現を使ったり、はしょったり、大雑把にしてたり、…等々してますが、目くじら立てずに見逃して下さい<( )>
また、判例・新着審決・最近の話題は、“ホットなうちに”スピード重視でご紹介しておりますので、読み間違い・勘間違い・理解間違い・論点見逃しがあるかもしれません。疑問を感じられたらご一報いただけるとありがたく存じます<( )>
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