商標「らくらく」審決取消請求事件

【担当:弁理士 浅野令子】

商標「らくらく」審決取消請求事件

平成31(行ケ)10062

判決文PDF
(全文)http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/959/088959_hanrei.pdf

1.事案の概要

(1) ①本件商標:「らくらく」(標準文字)
登録番号:5614453
出願日:平成25年4月17日
登録日:平成25年9月13日
指定商品:第20類「家具,机類」

②原告使用標章:「らくらく椅子」,「らくらく正座椅子」,又は「らくらく二段正座椅子」

(2) 手続の経緯
原告は,平成30年6月20日,本件商標について,商標法4条1項10号に該当することを理由とする商標登録無効審判を請求した(無効2018-890044)。
特許庁は,平成31年3月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年4月4日,原告に送達された。
原告は,平成31年4月25日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

(3) 審決の概要
「らくらく」の文字からなる引用商標が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとは認めることはできず,本件商標は商標法4条1項10号に該当するものとはいえない,と判断された。

2.主な争点

商標法4条1項10号該当性

3.裁判所の判断

(1) 本件訴訟では,原告が昭和63年頃から正座用の椅子(原告商品)の販売を開始し,30年以上継続して販売しており,その販売数は,平成12年及び平成15年から平成25年の12年間で約75万個に上ること,さらに,新聞やウェブサイト等の各種メディアにも原告商品の広告が掲載されていた事実が認定されました。

(2) しかし,原告が原告商品に使用しているのは,「らくらく椅子」,「らくらく正座椅子」,又は「らくらく二段正座椅子」の標章であり,「らくらく」の文字のみが単独で使用されたものはないとして,裁判所は,「原告の主張する引用商標『らくらく』が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,原告商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとは認められない」と判断しました。

(3) 原告は,「らくらく正座椅子」は,「らくらく」と「正座椅子」とを結合した構成から成る結合商標であるところ,「らくらく」の文字部分のみが商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるとして,これを主な理由とし,原告の使用商標として「らくらく」を抽出すべきであると主張していました。

(4) しかし,裁判所は,「『らくらく』は,『楽』であることを意味する語であり,足の痺れや膝頭の痛みが緩和され,楽に正座をすることができるとの原告商品の機能を表している。」,「また,『正座椅子』は,正座用の椅子を意味する語であり,原告商品の用途又は商品の種類そのものを表している。よって,いずれも,それぞれの文字部分のみによって出所識別標識としての機能を発揮するとはいえない。」として,「らくらく」及び「正座椅子」の識別力はいずれも弱く,「らくらく」の文字部分のみを要部として抽出することはできないと判断して,原告の主張を退けています。

4.実務上の指針

(1) 周知性と使用標章
本件では,原告は「らくらく」を引用商標として主張していましたが,実際に使用していた標章は「らくらく椅子」,「らくらく正座椅子」,又は「らくらく二段正座椅子」であり,「らくらく」単独では使用されていないと認定されて,裁判所は「らくらく」単独での周知性を否定しました。

商標につき周知性を主張する場合,実際に使用している商標そのものでないと周知性が認められにくくなる点に留意しておく必要があります。

(2) 出願の必要性

自社の商品やサービスについて,ある名称を長期間継続して使用してきた実績があっても,その名称について商標出願をしていなければ,他人に出願されて商標登録を取られてしまうリスクがあります。

未登録であっても,「需要者の間に広く認識されている」周知の商標であれば,これと同一・類似の商標については,他人が同一・類似の商品・役務分野で商標登録を受けることができない旨が,商標法4条1項10号に規定されています。これにより,「長期間使用してきてある程度有名だから,出願する必要はないのでは?」と思われるかもしれません。

しかしながら,他人が同一・類似の商標について,同一・類似の商品・役務分野で出願した場合に,貴社の商標が,「需要者の間に広く認識されている」とは認められず,他人の商標が登録になってしまう可能性も十分にあることを認識しておく必要があります。
他人の商標が登録になってしまった場合,他人の商標登録に対し無効審判を請求する等,取りうる措置があるかもしれませんが,出願するよりも多大な時間と費用がかかってしまうことに留意しておくべきでしょう。

以上の通り,商標登録を受けていない名称があって,その名称を今後も使用していきたい場合は,他人に出願されて商標登録を取られてしまうのを阻止するために,その名称について出願しておくべきであると考えます。

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